またまたテスラの話題
下記の、世界の既存車両メーカーが半導体不足に陥る中で、米テスラは生産台数を落としていない。そして、このところ株価も上昇しているというのだが、異論も感じるので書き留めてみたい。
まず、トヨタなど既存車両メーカーが10%を超える生産台数減少を招く中、テスラがむしろ増産できている理由を、半導体部品やソフトウェアも自社内で開発していることを上げている。
しかし、分母となる生産台数がボリュームが大きく異なるコトがあるだろう。幾らテスラの株式総額がトヨタを超える総額1兆ドル(100兆円超)超えといっても、生産台数規模で云えばトヨタの1/100にも満たない少量生産メーカーであり、従って車両当たりの電子部品数は必ずしも少なくはないと云えども、必用とする半導体総数は桁が違うと想像される。
ただし、テスラが自社内で半導体の回路設計からソフトウェアの設計や製造までを行っている点は、確かにトヨタなど世界中の車両メーカーとは異なる思想であることは大きな違いだろう。
既存の車両メーカーは、自動車の歴史と共に、まず車体の製造について、コンセプトだとか全体の大枠の設計・製造を担当するが、制御用ECUなども含め、そのソフトウェアも自社で開発するというより、ティア1サプライヤーに割り付けて来た。トヨタで云えば、それがデンソー社であり、欧州車で云えばボッシュ社となるのだろう。このことが、足りなくなった半導体に代わる代用半導体への切り替えなど回路設計を用意にし、合わせてそれに合わせた組み込みソフトウェアの変更も容易にしているという、対応力の強みになっていることは見逃せない様に思える。
つまり、テスラは車両メーカーといえども、それを制御する制御ECUが基本コンセプトで、これを実現するためのハーヅウェアたるクルマ作りであり、既存メーカーは営々と続けて来たハーヅウェアたる車体作りから、ECU等電子装置のコンセプトや機能は、あくまで後から突いてくると云う違いなのだろうと思える。
なお、このところテスラの株価が上がっているということだが、夜間の緊急車両へばかり衝突する事故が続いているとか、リコールも届け出ないで、半ば内緒でソフトウェアの改変をしているという疑惑について、近く米運輸省(NHTSA)への届け出期限が来るはずであり、その結果如何によっては、大幅なリコール問題に発展する可能性を持つと想像するのに、解せない話しだと解釈できるのだが・・・。
追記
昨今の車両メーの修理書だとか、修理技術情報、そしてリコール内容を見ると、車両メーカーがECUを駆動しているソフトウェアのアルゴリズムなどを必ずしも十分に理解していない様に見受けられる。もしそれが十分であれば、もっとECUの組み込みソフトウェアの書き換えによるリコール数も減らせる様に思えるし、修理書の記述も充実してくると思えるのだが、実態は逆の方向へ向かっている様に感じられてしまう。
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トヨタが半導体不足で減産する一方、テスラが生産台数を大きく伸ばした理由
10/26(火) 19:06配信 ニューズウィーク日本版
<テスラはどのようにして半導体危機を乗り越えたのか。経営コンサルタントの竹内一正氏が解き明かす>
<「垂直統合型」が半導体不足解消のカギだった>
米GMの2021年第3四半期の北米販売は前年比33%減。ホンダは9月の国内販売が約20%減で、マツダに至っては約52%減だった。そして、トヨタは11月の世界生産計画を15%減らすと発表した。
一方、米テスラは第3四半期で過去最高の約24万台の販売を記録し前年比は73%増で、増収増益だった。株価も5月頃から上昇を続け、10月25日には時価総額1兆ドルを突破し、テスラ独り勝ちの様相を呈している。
テスラはどのようにして半導体不足を乗り切ったのか?
カギは「垂直統合型」にあった。
テスラはEV(電気自動車)のモーターからバッテリーパック、そして車体に至るまで内製している。それらは単にハードウエアに留まらず、ソフトウエアまで自社で設計している点が既存の大手自動車メーカーと大きく違う。テスラはハードもソフトも含んだ「垂直統合型」で電気自動車を作り上げている。
今回の半導体不足が起きたとき、テスラは納期が長くなってしまった半導体にこだわるのではなく、短納期で入手できる別の半導体を見つけ出した。そして、半導体のファームウエアを数週間で書き換えて使えるようにした。ファームウエアとは半導体の基本動作を司るOS(オペレーティングシステム)のようなものである。
ただし、それだけでは不十分で、関連するソフトプログラムまで自社で修正した。
そして、代替の半導体を電子制御ユニット(ECU)に組込み、テスラ車に搭載して実車テストを短期間で一気呵成に完了させたのだ。
<トヨタやGMの外注頼みと、組織の壁>
では、トヨタやGMなどの大手自動車メーカーではどんな対応をしていたのか。
既存の大手自動車メーカーは、車載半導体は外部の半導体メーカーに任せっきりだ。具体的には技術部門が決めた仕様に基づき購買部門が半導体の調達を行う。もし、半導体の納期が長ければ、「もっと短くしてくれ」と購買担当者は半導体メーカーと交渉をする。
そもそも購買部門の仕事は、技術部門が決めた仕様の部品を1円でも安く、納期通りに仕入れることだ。納期が長いからと言って、代替の部品検討を自社の技術部門に頼み込むことはまずやらない。それは、技術部門の仕事を増やすことに他ならず、組織の壁が邪魔をする。
それでも、もし代替の部品検討を購買部が技術部門に頼んだとしたら、技術課長からどんな反応が返ってくるだろう?
「そんなことをやっている時間はない! 新製品開発を計画通りに進めることが最優先だ」と怒鳴られて終わりだ。
代替部品の検討は様々な試験が必要となり時間もかかる。技術部門は限られた人員で日程ぎりぎりの製品開発を進めている。開発計画にない代替部品の検討をいきなり言われても、対処できないというのが実態だ。
その上、代替の半導体がファームウエアの書き換えまで必要となると大変なことで、さらにソフトウエアにも手を加えるなど無理な話だ。何より、自動車メーカーに半導体のファームウエアの内容を理解し書き換えができる技術者はほとんどいない。それは半導体メーカーの仕事だからだ。
<テスラ車は走るコンピューター>
<ソフトウエアから半導体設計まで自前でやるテスラ>
モデル3などテスラ車は「走るコンピューター」と呼ばれるが、テスラにはGMといった自動車メーカーからの転職組と並んで、アップルなどのIT企業から移ってきた技術者が多い。その中には半導体開発技術者もいる。
そして、テスラは自動運転開発をスピードアップするために、2つの分野で独自の半導体開発を進めていた。
1つは自動運転用AIプロセッサーで、2016年から開発はスタートし、2019年にテスラ車への搭載を始めた。それまではNVIDIA(エヌビディア)製のプロセッサーを使っていて、性能は21~30TOPS(1TOPSは毎秒当り1兆回の演算能力)だったが、2019年4月に登場したHW3では、テスラが自社設計したAIプロセッサーを搭載し、144TOPSの高い画像処理能力を実現し話題となった。なお、この設計はアップルから来た技術者が携わっていた。
テスラの半導体開発の2つめは、自動運転用AIのトレーニングのためのスーパーコンピューターだ。
テスラは、他社のようにレーザー光を用いたLiDARや超音波などは使わず、高性能な光学カメラによるビジョンオンリー(視覚のみ)の自動運転を目指していている。
そこで、ニューラルネットベースの自動運転技術を訓練するためのスーパーコンピューターが必要だと考え、数年前から半導体開発を続けている。
テスラは、ソフトウエア開発から半導体設計までテスラは自社でやっていたから、他の自動車メーカーでは思い付かない方法で半導体不足に対応できたのだ。
さらに、トヨタなどはコンパクトカーやミニバン、セダンなど数多くの車種を持つが、テスラの販売の主力はセダンの「モデル3」とその派生車種でSUVの「モデルY」の2種類と少なかったこと。生産工場が米国と中国上海の2カ所だけだったこともテスラに有利に働いた。
半導体不足の解消は2022~23年までかかるという専門家の意見がある一方で、イーロン・マスクはこう言い切った。「半導体の問題はもはや長期的な問題ではなく、短期的な問題に過ぎない」。テスラは他の自動車メーカーとは違う次元を走っているのかもしれない。竹内一正(作家、コンサルタント)
下記の、世界の既存車両メーカーが半導体不足に陥る中で、米テスラは生産台数を落としていない。そして、このところ株価も上昇しているというのだが、異論も感じるので書き留めてみたい。
まず、トヨタなど既存車両メーカーが10%を超える生産台数減少を招く中、テスラがむしろ増産できている理由を、半導体部品やソフトウェアも自社内で開発していることを上げている。
しかし、分母となる生産台数がボリュームが大きく異なるコトがあるだろう。幾らテスラの株式総額がトヨタを超える総額1兆ドル(100兆円超)超えといっても、生産台数規模で云えばトヨタの1/100にも満たない少量生産メーカーであり、従って車両当たりの電子部品数は必ずしも少なくはないと云えども、必用とする半導体総数は桁が違うと想像される。
ただし、テスラが自社内で半導体の回路設計からソフトウェアの設計や製造までを行っている点は、確かにトヨタなど世界中の車両メーカーとは異なる思想であることは大きな違いだろう。
既存の車両メーカーは、自動車の歴史と共に、まず車体の製造について、コンセプトだとか全体の大枠の設計・製造を担当するが、制御用ECUなども含め、そのソフトウェアも自社で開発するというより、ティア1サプライヤーに割り付けて来た。トヨタで云えば、それがデンソー社であり、欧州車で云えばボッシュ社となるのだろう。このことが、足りなくなった半導体に代わる代用半導体への切り替えなど回路設計を用意にし、合わせてそれに合わせた組み込みソフトウェアの変更も容易にしているという、対応力の強みになっていることは見逃せない様に思える。
つまり、テスラは車両メーカーといえども、それを制御する制御ECUが基本コンセプトで、これを実現するためのハーヅウェアたるクルマ作りであり、既存メーカーは営々と続けて来たハーヅウェアたる車体作りから、ECU等電子装置のコンセプトや機能は、あくまで後から突いてくると云う違いなのだろうと思える。
なお、このところテスラの株価が上がっているということだが、夜間の緊急車両へばかり衝突する事故が続いているとか、リコールも届け出ないで、半ば内緒でソフトウェアの改変をしているという疑惑について、近く米運輸省(NHTSA)への届け出期限が来るはずであり、その結果如何によっては、大幅なリコール問題に発展する可能性を持つと想像するのに、解せない話しだと解釈できるのだが・・・。
追記
昨今の車両メーの修理書だとか、修理技術情報、そしてリコール内容を見ると、車両メーカーがECUを駆動しているソフトウェアのアルゴリズムなどを必ずしも十分に理解していない様に見受けられる。もしそれが十分であれば、もっとECUの組み込みソフトウェアの書き換えによるリコール数も減らせる様に思えるし、修理書の記述も充実してくると思えるのだが、実態は逆の方向へ向かっている様に感じられてしまう。
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トヨタが半導体不足で減産する一方、テスラが生産台数を大きく伸ばした理由
10/26(火) 19:06配信 ニューズウィーク日本版
<テスラはどのようにして半導体危機を乗り越えたのか。経営コンサルタントの竹内一正氏が解き明かす>
<「垂直統合型」が半導体不足解消のカギだった>
米GMの2021年第3四半期の北米販売は前年比33%減。ホンダは9月の国内販売が約20%減で、マツダに至っては約52%減だった。そして、トヨタは11月の世界生産計画を15%減らすと発表した。
一方、米テスラは第3四半期で過去最高の約24万台の販売を記録し前年比は73%増で、増収増益だった。株価も5月頃から上昇を続け、10月25日には時価総額1兆ドルを突破し、テスラ独り勝ちの様相を呈している。
テスラはどのようにして半導体不足を乗り切ったのか?
カギは「垂直統合型」にあった。
テスラはEV(電気自動車)のモーターからバッテリーパック、そして車体に至るまで内製している。それらは単にハードウエアに留まらず、ソフトウエアまで自社で設計している点が既存の大手自動車メーカーと大きく違う。テスラはハードもソフトも含んだ「垂直統合型」で電気自動車を作り上げている。
今回の半導体不足が起きたとき、テスラは納期が長くなってしまった半導体にこだわるのではなく、短納期で入手できる別の半導体を見つけ出した。そして、半導体のファームウエアを数週間で書き換えて使えるようにした。ファームウエアとは半導体の基本動作を司るOS(オペレーティングシステム)のようなものである。
ただし、それだけでは不十分で、関連するソフトプログラムまで自社で修正した。
そして、代替の半導体を電子制御ユニット(ECU)に組込み、テスラ車に搭載して実車テストを短期間で一気呵成に完了させたのだ。
<トヨタやGMの外注頼みと、組織の壁>
では、トヨタやGMなどの大手自動車メーカーではどんな対応をしていたのか。
既存の大手自動車メーカーは、車載半導体は外部の半導体メーカーに任せっきりだ。具体的には技術部門が決めた仕様に基づき購買部門が半導体の調達を行う。もし、半導体の納期が長ければ、「もっと短くしてくれ」と購買担当者は半導体メーカーと交渉をする。
そもそも購買部門の仕事は、技術部門が決めた仕様の部品を1円でも安く、納期通りに仕入れることだ。納期が長いからと言って、代替の部品検討を自社の技術部門に頼み込むことはまずやらない。それは、技術部門の仕事を増やすことに他ならず、組織の壁が邪魔をする。
それでも、もし代替の部品検討を購買部が技術部門に頼んだとしたら、技術課長からどんな反応が返ってくるだろう?
「そんなことをやっている時間はない! 新製品開発を計画通りに進めることが最優先だ」と怒鳴られて終わりだ。
代替部品の検討は様々な試験が必要となり時間もかかる。技術部門は限られた人員で日程ぎりぎりの製品開発を進めている。開発計画にない代替部品の検討をいきなり言われても、対処できないというのが実態だ。
その上、代替の半導体がファームウエアの書き換えまで必要となると大変なことで、さらにソフトウエアにも手を加えるなど無理な話だ。何より、自動車メーカーに半導体のファームウエアの内容を理解し書き換えができる技術者はほとんどいない。それは半導体メーカーの仕事だからだ。
<テスラ車は走るコンピューター>
<ソフトウエアから半導体設計まで自前でやるテスラ>
モデル3などテスラ車は「走るコンピューター」と呼ばれるが、テスラにはGMといった自動車メーカーからの転職組と並んで、アップルなどのIT企業から移ってきた技術者が多い。その中には半導体開発技術者もいる。
そして、テスラは自動運転開発をスピードアップするために、2つの分野で独自の半導体開発を進めていた。
1つは自動運転用AIプロセッサーで、2016年から開発はスタートし、2019年にテスラ車への搭載を始めた。それまではNVIDIA(エヌビディア)製のプロセッサーを使っていて、性能は21~30TOPS(1TOPSは毎秒当り1兆回の演算能力)だったが、2019年4月に登場したHW3では、テスラが自社設計したAIプロセッサーを搭載し、144TOPSの高い画像処理能力を実現し話題となった。なお、この設計はアップルから来た技術者が携わっていた。
テスラの半導体開発の2つめは、自動運転用AIのトレーニングのためのスーパーコンピューターだ。
テスラは、他社のようにレーザー光を用いたLiDARや超音波などは使わず、高性能な光学カメラによるビジョンオンリー(視覚のみ)の自動運転を目指していている。
そこで、ニューラルネットベースの自動運転技術を訓練するためのスーパーコンピューターが必要だと考え、数年前から半導体開発を続けている。
テスラは、ソフトウエア開発から半導体設計までテスラは自社でやっていたから、他の自動車メーカーでは思い付かない方法で半導体不足に対応できたのだ。
さらに、トヨタなどはコンパクトカーやミニバン、セダンなど数多くの車種を持つが、テスラの販売の主力はセダンの「モデル3」とその派生車種でSUVの「モデルY」の2種類と少なかったこと。生産工場が米国と中国上海の2カ所だけだったこともテスラに有利に働いた。
半導体不足の解消は2022~23年までかかるという専門家の意見がある一方で、イーロン・マスクはこう言い切った。「半導体の問題はもはや長期的な問題ではなく、短期的な問題に過ぎない」。テスラは他の自動車メーカーとは違う次元を走っているのかもしれない。竹内一正(作家、コンサルタント)