私の思いと技術的覚え書き

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ボデー寸法精度について

2017-02-06 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 だいぶ昔に記した記事を若干修正し、再掲載してみる。
 クルマのボデー寸法の精度のことなどについて、国産車(現代車と旧車)や輸入車を比較しながら若干講釈を記してみる。
 現代のクルマの各フタ物パーツ(ドア等)は、隣接パネル間の隙間(チリ)も小さく均一さが保たれている。そして、国産車の乗用車系では、フタ物パネルを固定するボルトの根本部がテーパー状となったセンタリングボルト使用されている。このことは、ボデーの基本骨格となる内板骨格(モノコックシェル)の寸法精度が、相当小さな許容誤差の範囲で管理されていることが判る。国産車では、今から20年程前で、ボデー寸法の誤差は±2mmと聞いていたが、よりチリ隙間の少ない現在では、さらに寸法誤差が少なく作られる様になっていることが伺える。旧車だとか大型トラックなど、ドアチリが大きいものは指1本入りそうなくらい大きなクルマもあったが、現在ではその様な事例を見ることはない。

 ところで、どんなに高精度な寸法精度のクルマでも、衝突によるボデー変形により各部の寸法は原寸から外れてくる場合がある。そして、見た目でも各パネル間のチリの狂いとなって表れてくるので、それらを観察し内板骨格の変形具合を読み取るというのが、事故車見積技術の根本であり、コンピューターにはできないことなのだが・・・。しかし、コンピューターさえあれば素人でも見積はできるなんて、軽率な考えを持つ者(それと宣伝)が多いのは笑止と感じるところだ。※

 ところで、クルマの品質とか魅力が、ボデー寸法の精度だけによるものでないのは当然だ。その前提で、輸入車のヘッドライトとドアの取り付けについて記してみる。輸入車のヘッドライトの取り付け構造だが、高品質を評価されるドイツ車の多くが、ボルト(3~4本)でボデー本体側(多くが樹脂製フロントサポート等)に固定される構造が多い。しかし、各取付ボルトが、内径16mmの外ネジ付きスリーブに大平ワッシャ付きの6mmボルトを介して固定される構造となっており、上下左右に最大5mm、スリーブがねじ込み式なので、スリーブ高さも最大10mm程度は可動できる構造となっている。

 輸入車のドアヒンジ部で同じくドイツ車(欧州車といっていいかも)では、ヒンジピン部(上下)のボルトを弛めることで外せる構造が多く、脱着はし易い構造とされている。また、ヒンジのボデー本体側は溶接構造となっており、寸法精度がそれなりに高いと伺えさる。しかし、ドア側のヒンジを外すと、国産車と違いセンタリングでない通常ボルトが使用され、しかも多くがシム(スペーサ-)が挿入され高さの調整がなされているのを見掛けることが多い。 

 以上のヘッドライトとドアの事例だが、現代日本車のヘッドライトでこの様な調整代を持つクルマは極少ないし、ドアヒンジに関わらずボデーパネルをシムで高さ調整しているのを見る機会は少ない。従って、ボデー寸法精度としてみれば、国産車より輸入車が劣ると想像せざるを得ない。そして、この様な調整を生産ラインで行うについては、当然専用治具を使用した上であろうが、作業時間(タクトタイム)を増加させるだろう。すなわちコスト高の要因となってくるから、メーカーとしてはできれば調整機構は避けたいところだろう。ついでに、街の板金屋さんの声と私自身の経験からも感じることだが、欧州車は調整代が多すぎて、逆に合わせるのが大変で手間を要すということもある。

 ところで、一部クルマを除き、ホイールアライメントの調整機構(除くトーイン)を有し、製造ラインにおいて同調整(除くトーイン)を行っているクルマは、国産車でも輸入車でも少ない様に見受けられる。であるから、輸入車においても、アンダーボデーの寸法精度は国産車に遜色はないと推察するのだ。しかし、アッパーボデーの寸法精度は、国産車に若干劣ると考えざるを得ないということだ。

 但し、幾ら寸法精度が正しかろうと、走行中のクルマは、静的にも動的にも各種荷重を受け、寸法の狂いを生じると考えられる。そして、寸法の狂いが、もし運転車に関知された時、剛性の低いクルマだという評価の一要因ともなると思える。このボデー剛性についても、近年の衝突安全性能の副次的効果により、一昔前のクルマから著しく向上したところなのは、様々な事故車を観察する中で、確かなことだろう。だいたい、80年代までの4ドアピラーレスハードトップ車など、後輪片方一輪をジャッキアップしただけで、ドアチリが明らかに狂うなんて事例は、極普通のことだったと思いだす。

 この国産車と輸入車のボデー寸法精度の差異は、プレス金型の精度や溶接にあるのではなく、各パネルを寸法通りに組み合わせ固定する治具だとか組立順序などから生じるのではないかと想像している。しかし、工業製品としては均一な寸法に短時間で組み立てることが優れていることになるだろう。しかし、クルマ全体の評価となるとデザインとか諸性能(動力、操安、音振等)、衝突安全、等々が加味されて来るので、必ずしも国産車が優れているとは思えないところなのだ。ついでに記せば、国産車のモノコックシェルは、一部レーザー溶接や抵抗スポット溶接に代わる新溶接も使われだしているが、未だ多くはスポット溶接がほとんどを占める。ところが、VW系はレーザービームの連続溶接もしくはロウ付け(ブレージング)を多用している。それ以外の欧州車でも、一部箇所(応力集中箇所となる厚板部位の接合など)には、MIG連続溶接(20mmスパンでの千鳥溶接が多い)がところどころ見られる。これは、部位から考えても溶接状態を見ても手作業によると判断されるが、日本車ではこういったタクトタイムを押し上げコスト高となる行程はまず取らない。しかし、ボデー剛性を上げたいという面では、評価に値するのかもしれない。


 チリが狂っているから、その取り付け骨格部位が動いているとは即断できないことを認識することも重要だ。アジャスターの新人教育などで、そういうバカの一つ教えを受けた者を時々見掛けたものだ。中には、その損傷パネル自体が変形するに留まっている場合もあり得るのだ。具体例を記せば、フロンドドアの前端に12時近い入力を受けドアが後方に下がってリヤドアと接触している事例とする。ドアのインナーパネルが変形し、ドアが後退しており、フロント(A)ピラーは変形なし(あってもヒンジ後方が僅かに沈む程度)というのを、フロント(A)ピラー変形大で3h分みたいな見積を想定する者を指す。

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