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旧車レストアを引き受ける工場は意外に少ないのは何故か?

2021-01-28 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
旧車レストアを引き受ける工場は意外に少ないのは何故か?
 Netなどの各コーナーにはアナログ車などと銘打っていわゆる旧車が目を引きますし、自分も嫌いじゃないので注目することは多いのです。しかし、私の体験した中で、世の多くの整備工場だとか板金工場で、旧車のレストアだけを中心に営んでいるところは意外に少ないと云えましょう。

 全国の中には入庫車すべてが、ほぼレストア車で、これを主体に営んでいるところが皆無と云うこともないとは云えません。しかし、多くの場合、偶に工場で旧車の作業中の姿を見ても、だいぶ以前に持ち込んだとしか想像できない、埃が溜まった旧車が作業途上のまま放置されている場合がほとんどだろうと思えます。今回は、このリペア業界に40数年は関わったものとして、何故旧車のレストアは整備工場や板金工場のメイン業務とはなり得ないのかを書き留めてみます。

 旧車のレストアは、そのオリジナルレベルにより、また作業の徹底ぶり(深度)により、大幅に要する作業時間が変わってくることは想像が付くでしょう。Netなどで作業途上の詳細を明細にレポートしている中には、ボデーに生じた錆を徹底的に除去しつつ、錆で穴空きしたパネルの部位を、平板から成型し切り継ぎして、完全に錆を落とすまでの作業をして、以降の塗装作業の下地作りを進めています。こんな作業も限定された極少ない範囲で行われるなら大したことはないのですが、特に車両のアンダーボデーと云われる下部だとか、水はけが悪い部位は車両に無数にありますから、膨大な作業量が生じる訳です。

 一方、メカニカル部分のレストアは、部品がなくて製作するとかの問題はありますが、これらはいわゆる内燃機屋さんだとか、リビルトや中古パーツを使用したりして、日数や外注費は掛かるものの案外なんとかなるものです。同じく内装のレストアも、いわゆるシート屋さん辺りが、シート表皮や天井の張り替えなどの作業を受け持ってもらうことが今でも可能です。

 つまり、レストアでコアとなるのは、今や部品補給もされないボデーをどう修復するかということになるのでしょう。希に同型車の事故車で、該当部分の程度の良いものが見つかれば、該当部を広範囲に切り継ぎすれば、そうとうの工数短縮になるのですが、年式にもよるでしょうが本当の旧車となると、そもそもそういうクルマが見つからないでしょうし、希にあったとしても、もっと腐食が酷く論外と云うことになります。

 さて、ここでいわゆる修理料金の算出の基本をお話ししますが、これは欧州でも同様ですが、標準作業時間×レバーレートという算式が料金の基本となります。ここで、標準作業時間(点数、指数と呼ぶ場合もある)とは、細かく話すとこれだけで1冊の本ができる内容を持った言葉ですが、ここでは簡単に記すと、しかるべき第三者が、純科学的に求めた標準的な時間を示します。これを使用することにより、個別の技術力だとか工場の保有する設備や能率に左右されない作業時間として利用しています。

 一方のレバーレートとは、工場の作業1時間当たりの原価にある程度の利益を加えた値と云うことで、原則は工場毎に原価計算を行い使用することになりますが、幾ら高い原価になったからとしても、近隣の同類工場より著しく高い価格を打ち出しても、これに相当する付加価値を示せなければ購入者の理解を得るのは難しいという側面も資本主義自由経済の経済原理から生じてきます。これに関連して、クルマで云えばトヨタは20年程前にレクサスとして新たな高級車の新ブランドを設立しました。この狙いですが、車両のプラットフォームはほぼトヨタ車に準じて同じですが、そこに組み付ける内装部品などを高級志向にマッチさせることで、付加価値として生み出し、実際には原価のアップ以上の値付けをするという戦略です。このことは、そもそもGMという米最大メーカーが、基本車種はシボレーで、そこに付加価値を施したキャデラックで儲けるという販売戦略を成功させているのに習ったものでしょう。

 話しが拡大したのを戻しますが、通常の事故車修理や整備作業などでは、標準作業時間×レバーレートで算出するのが基本ですが、レストアとなると、そもそも標準作業時間がない訳です。一概に言えないところもありますが、レストアで錆を除去し、錆で腐食した一部鋼板を類似の形状に製作し、修復していく作業は決して高度な作業ではありません。確かにレストアの中には、原形をまったく留めぬまでに腐食したパネルを、平板から手叩き板金で成型しつつオリジナル形状を生み出すことは、相当な板金技能の熟練者でないと不可能でしょう。

 そもそも、例えばフロントフェンダーをマスプロダクションする場合、大型プレス機械と超硬合金を使用した金型数種(ブランク、プレス、しぼりなど)の自動機械で、平板ロール鋼板から僅か1分も要しないで作り上げます。このフロントフェンダーを補修用として部品商から購入するには25千円程度すると仮定しましょう。しかし、車両メーカーでの製造原価は何百円の単位で済んでいるはずです。でないと、完成車価格が200万円だとして、そこに数万点とも云われる部品の集合体である車両の価格は成立しないのです。

 またまた話しが拡大しましたが、レストア作業は、例え高度な板金技能が必要ない、単に錆を除去する作業であっても、そこに標準時間はありません。つまり腐食の程度だとか組み合わせられるパネルの構造や形状等により作業時間は大幅に変化しますが、真剣に錆を完全除去しようとするほど、ベラボーな作業時間を要するのです。

 ここで、あるレストア車を仮定して、何年か越しに実作業時間に通算1年(1日8時間、平均月20日×12ヶ月で延べ作業時間1,920h)を要したとしましょう。この実作業時簡にレバーレートを6千円として乗じると11,52万円という工賃が算出される訳です。これは、純錆取り工賃ですので、車両を完成させるには、ここには塗装費だとか部品代、そして外注の部品加工費なども加算されてきますので、総額は2千万くらいに算出される場合もあるでしょう。これを請求して、依頼者が払ってくれればめでたしですが、「幾ら何でもそこまで要すとは」とか、そもそも請求者側が、そこまでの時間は要したが、これでは請求しかねると自制する場合も多かろうと思います。

 以上が、冒頭記した「世の多くの整備工場だとか板金工場で、旧車のレストアだけを中心に営んでいるところは意外に少ない」ということの根幹にあると判断しています。つまり、レストアは事業として採算をあわせるのに、非常に難しい側面を持っている。それは標準作業時間を策定しようがないというところにあるでしょう。

 しかし、世には特定の車種のレストアを専門に引き受け、ある程度作業の標準化をなし、採算ベースに乗せている場合も見た記憶があります。以下は、そんな特異ともいえる工場の事例です。

関心すべきレストア工場の記憶 2018-07-21
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/e9a5bff0da2d8554144eed3eda0b8012

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