私の思いと技術的覚え書き

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ナトリウム(ソジウム)封入バルブのこと

2018-05-15 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険

2016-11-18 元ブログ

 エンジンの排気バルブ溶損や欠損は、今でも時々起きている様だ。先日もミニ(R60/N16)で体験したところだ。これについては、Myブログの過去記事でも触れているところだが、一部追記して再掲してみたい。

 エンジンバルブには、吸入と排気がある訳だが、熱的負荷は圧倒的に排気バルブが高い。従って、排気バルブはニッケルなどを多く含む耐熱合金で作られ、大きさ(径)は吸入に比べ小さいがコスト的には倍を超す費用を要しているはずだ。エンジン稼働中のバルブの放熱は、バルブが閉じているときは、傘のフェース部とシートリング間でも行われるが、排気行程など排気バルブが開いている間は、バルブステムとシリンダーヘッドに打ち込まれたガイド間にて行われる。レーシングエンジン等、高回転高出力や高加給による高出力エンジンにおいては、排気バルブの溶損を防ぐため、ナトリウム(ソジウムとも呼ばれる)封入バルブが常套手段として使用される。これは、バルブステム部を中空とし、その空間の半分程度のナトリウムを封入することで、融点98°と低い液化した金属ナトリウムが、バルブの上下動により、シリンダーヘッド側へ熱伝導し易くするためのものだ。

 話は逸れるが、最近やっと廃炉の方針が示された、数兆円とも聞く云われる国費を注ぎ込んだ、高速増殖実験炉「もんじゅ」では、原子炉本体の熱交換器冷媒にナトリウムがたぶん数トンにも及ぶ量が使われる。それは何故かだが、通常の原子炉であれば冷媒は水であるが、ナトリウムは水の100倍も熱を伝え易いためだそうだ。それと水だと、沸点が常温で100度と低いが、ナトリウムの沸点は880度と高い。従って、高い熱交換性能を求めるためには、密閉加圧して80~160気圧もの圧力を与える必用があるとのことだ。そのため、水を使用した原子炉圧力容器や配管など、高い圧力に耐える構造にしなければならないのだ。では、ナトリウムは安全なのか、「もんじゅ」では稼働4年後、約600kg程のナトリウム漏れから火災事故を起こし、停止したまま現在に至っているのである。ナトリウムは極めて活性度の高い物質で、水に触れると爆発的に燃焼する。

 エンジンのナトリウム封入バルブの話に戻る。エンジンの場合は、1バルブ当たりナトリウムの使用量は数グラムのものであろうし、故意的に切断分解でもしない限りナトリウムが漏れる恐れはない。その点で、特殊な廃棄物処理業社においては、一定の注意が必要だろうが、エンジンの分解や組み付けにおいての危険はないと考えてよいであろう。

 終わりに市販車におけるナトリウム封入バルブであるが、一部の高性能エンジンには過去から使用されて来た。(S20とかVR38等)そして、最近では軽自動車の一部(しかも熱的にもそれ程厳しくないNA)に使われている事例もある様だ。これは、ナトリウム封入による放熱で熱的負荷を軽減することで、本来の高コストなニッケル等の混入量を減らし、バルブ傘部自体(ステム部とは溶接接合される)のコストを減らそうという意図の様だ。従来だと、高負荷高温に対して、出力空燃比(12:1)を超えるリッチ空燃比による燃料冷却でクリアーしていたが、昨今のCO2問題とかで、そうもいかなくなってきたというところか。しかし、今の時代は、車両メーカーは如何にコストを低減し、利益を生み出すかにしのぎを削るという、ある意味おかしい方向に向いていると感じるところを思うのだ。


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