車体フレーム修正・補助固定の思想
拙人のルーツは整備屋にあるのだが、それは関係する業務関連として今現在でも引き続いている。一方、特に損害調査員と過ごし始め以後30数年間の現在まで、いわゆるボデー整備業のジャンルとなる車体リペアに関する関心も尽きないが、正直云って私は車体整備のプロでもないし、その業務を実践してきた訳でもないのだが、様々な車体整備の事例を客観視する立場とて眺めて来た。
つまり現実に直せるキャリア(実蹟)はないけれど、ある損傷を見積や意見書として評価する場合、工法、工程などが、その損傷度合いや、保有する機器とか作業者能力なども加味して、即座に頭の中にイメージとして想定されるのだ。この程度の作業時間を要するだろうという評価については、かなりの自惚れもあるのだろうが、ヘタな者には負けないというある意味自信過剰という思いを持っている。そうは云うものの、自惚れは禁物で、まだまだ知らない世界もあると云う自己抑制の思いもあるからして、ある意味関心も絶えないということにもなるのだろう。
さて、そんな中、今回はいわゆる車体の骨格を修正する場合における、フレーム修正機の使いこなし術について、補助固定と云うものが如何に大切か、そのことを如何に理解して、その作業者が作業を進めているるかという視点で事例を交えて記してみたい。
フレーム修正機を大別すると床式と台上式の2種に大別されるのだが、実はもう一種ジグ式というフレーム修正機があり、ある意味これが多くの車両メーカーが指定する車体整備における指定修正機となっている。このジグ式とは、車体の各諸に設けられたロケーションホールだとか、サブフレームだとかサスペンションの組付け接合点(ピボットと称する場合が多い)を、車種別専用ジグの測定子を合わせることで、その位置のXYZ値たる3次元の寸法公差が直ちに判明できると云う利点を持っている。
そもそもフレーム修正機を使用する第1目的は、事故などのダメージにより変形した車体の寸法をメーカー設計寸法に戻すということなのだ。ここで、ボデー寸法図集なりを見たことがある方なら判るだろうが、ボデー寸法の表し方は2種類あり、1つは直線寸法であり、もう一つは投影寸法と呼ぶデータムラインと呼ばれる仮想基準線上の、ポイント間と長さと高さの寸法を表したものなのだ。ここで、仮想基準線からの高さを計測しようとすると、立体的に構成された構造物である車体の計測はなかなか難しい要素を持つことが理解されると思う。

自動車などでなく、工作機械とか一品ものの製品を製造する企業では、例えば大型のものでは10mx10mという超大型の定盤を保有していて、その上で構造物を製造したり試作品を作る場合がある。実際クルマの場合もレーシングカーとか特殊な少量生産車の場合は、上盤上で組み立てたり、計測したりというケースもあるのだろうが、そんな高精度な大型定盤の上で、車体修復の様なある意味では手荒で汚れも生じる様な作業を行うこともあるだけに、たちまち定盤としての精度を保つことは困難なことになってしまう。
昨今は電子技術が進歩し、非接触の三次元計測器なども車両メーカーなどや特殊用途では使われているが、やはり機器が高価であったり、使用環境に馴染まないというデリケートさがあったりして、使い勝手として車体の修正に必ずしもマッチした三次元計測器が普及するに至っていない現状にある。その点、ジグ式の内、車種別専用ジグを使用する代表的な機器としては「セレットベンチ」が有名だが、この車種別測定子を持つジグの上にクルマを設置して、それぞれの測定子を当てがうだけで、直ちに投影寸法に合致しているかが新たに計測して指示値を読み取るなどしなくても視覚的に判明してしまうので、多くの車両メーカーは指定工具化するのだろう。
ただし、ジグ式車体修正機(と云うより実態は車体計測器と云える)で車体の寸法が狂いを見出し修正する場合、一般にはその変形を生じさせた部位(着力点付近)をその力を受けたベクトルと180度逆向きの力与えて引き出す(もしくは押し出す)ことになるのだが、その時の車体の引き力(もしくは押し力)の反力を支える車体の固定が極めて大事なことになる。もし、車体固定をしないまま引き力を与えても、車体が移動するだけで、極小さな力しか働かないことから、車体の固定という要素が如何に大事か判るだろう。
車体の固定は、一般的には、左右のサイドシル(ロッカーパネル)の閉断面部位のウェルドフランジ(鋼板のスポット溶接合わせ目)をクランプすることで行われるが、常にこのシルクランプだけで十分ということにはならない。
それと、ジグ式のセレットベンチなどでも、車体の固定はシルクランプを併用するが、その引き力だとか部位によっては、測定子に応力を与えることで、専用ジグの測定子を曲げてしまうことがあるので要注意なのだ。
ここで、今回事例1~3までの作図をしたが、事例1の良くある傾斜損傷(左右どちらか一方の前部が潰れた損傷形態)の修復の場合を見て欲しい。この場合、損傷部位を前方へ引き出すために引き力を与えると、車体は回転しようとするモーメントも合わせて生じていることを意識しなければならない。余程強く引かない限り、シルクランプ部が変形することはないが、強く引いた場合、シルクランプ部には捻れ反力を受けて変形する場合もあるのだ。それと、物体の変形には弾性と塑性があるが、引き力を有効に作用させるためには、予め回り止めの固定を追加しておくことにより、この車体が廻ろうとして弾性変形する逃げを抑えるという効果を持つことも意識しなければならないだろう。

昔の床式修正機では、シルクランプを床上に置いて、そのシルクランプを床上のアンカーレールにチェーンをクロスに張り固定する方法を取っていたが、固定剛性がチェーンの伸びなどから低下するのを押さえる目的で、床上にボルト固定した専用レールにボルトオンで直に固定したり、ジグ式だとか台上式では、やはり修正機に対してボルトンで直に固定する手法が主流となってはいる。しかし、先に述べた様に、車体全体を廻そうというモーメントは生じているのであり、このモーメントを意識して、対策をする補助固定の思想は、大切なことだと思えるが、そんなことは意識していない作業者を見ることは多い。
事例2から、補助固定の思想を説明したい。これはフロントサイドフレームを側面視した場合の事例だが、一般に良くできた設計車両においては、変形①と変形②が生じるとすると、まずは変形①が中程度のダメージで生じ、それが大きなダメージになるに従い、変形②も合わせて生じるという損傷状態になる場合が多いだろう。
ところが、頭の悪いと云うか設計がヘタな車両とか、得意な事故では、変形①は生じなくて変形②だけが生じる様な場合もあり得る。
また、変形①および②が生じていて、変形①部位はカット交換するにしても、変形②を十分直さずにカット交換はできないことは理解されるところだろう。そうでないと、変形①の前付近にあるロケーション点の寸法が正しく直せないことになるからだ。
この場合、前方への引き力で変形②が十分直れば良いのだが、何ら無思考に引き力を強めていくと、乗用車用修正機の最大引き力は20トン程度の能力を持つが、これを目一杯与えるとサイドフレームとダッシュパネルの接合を行っているスポット溶接が破壊し始めてしまう。
この様な場合、より弱い引き力で変形②の復元を果たせることを考えるか、もしくは、サイドフレーム変形②とダッシュの間に補助アングル材を溶接仮固定しつつ、そこを別のアタッチメントストッパーで押さえるなどして、ダッシュのスポット接合部に過大な力が働かないことを思考しなければならないだろう。この様な場合、多くは、損傷②のクロージングプレートを切り開くことで、損傷②付近の剛性を落としてやり、しかも残されたサイドフレームの塑性変形部位を張力を与えた状態で最小限加熱することで軟化させつつ歪みを抜くという手法が取られるだろう。
しかし、損害調査員を実蹟する中で、正に損傷②だけが変形し、引っ張ったけどダッシュのスポットが剥がれてしまうから替えているという作業者の言い分を聞くとき、こういうレベルの作業者も多くいることを知り、ある意味声を失うという機械が幾度かあった。
最後に事例③を説明してみたい。これは、いわゆる首振り損傷と云われる、出合い頭事故などで多い、車両前部が左右どちらかに振っている損傷で生じるものだ。こういう振れ損傷では、箱断面のサイドフレームでは、振れ方向外面は伸びるので目立った損傷は現れないが、その内面側には、座屈する変形が生じるものなのだ。そもそも論となるが、予め車両のマクロ(大局)的観察により振れ損傷が生じているなと判断すれば、その振れの内面側にシワが出ているだろうという意識で観察する思考が見積技量の真骨頂の一つではあるのだが、なかなかそこまで、考える損害調査員や工場フロントマンは多いと知見している。
さて、この振れ損傷を治すと云う意味で、図例の様にサイドフレーム先端付近を振れを元の寸法に戻す方向に引くと、これは場合にもよるが、何ら寸法の狂っていない後部までが一緒に変形してしまうと云う様な現象は、サイドフレームだけに限らず、各部位の復元修理であり得ると思える。
特に座屈変形など集中的に塑性変形した場合、その部位は加工硬化という現象も生じているので、他部位より剛性が高まってしまっているという要素もあるだろう。この場合、対応手法は幾つも考えられ、一つは事例2でも記した、クロージングプレートを開放させて、同部位の剛性を低下させつつ、その面の先端を前方に引きつつ、同時に内面や外面から打撃して修正する手法がある。
ただし、狂っていない部位を保持したまま、狂っている該当部位だけを位置修正したい場合は、補助固定の思想は欠かせないだろう。つまり、図の緑色で模したのは、ナイロンスリングで修正機タワーとの間を張るとか、青色で模したのは受け具となるストッパーを当てがうというものを示している。
と云う様な内容が、今回の補助固定の思想なのだが、メーカー指定のセレットベンチなりで高精度な車体の計測は達成できるが、ある程度の大きな変形を生じたパネル部は交換する前提でも、ダッシュとかカウルとそれに連続する宇基本部位の寸法なり変形を如何に除去できるのかが問題だということになってくる。そうでないと、ある程度の事故車(大ダメージ者)は、ホワイトボデー交換=全損と云うことで現実の修理が成立しなくなってしまう。実際、昨今は、パッシブセーフティ機器(エアバッグなど)の関連費用とか、前部骨格がアルミダイキャスで修理ができない、車齢が高齢化して時価額オーバーなどで、大ダメージ事故を実際手掛ける事案は極めて少なくなって来ているのが現実だろう。
しかし、必ずしも大ダメージでなくとも、損傷によってだが、この補助固定の思想を十分知るスキルレベルの高い技術者および工場に生き残ってもらいたいと願うものだ。そして、また顰蹙を受けるかもしれないが、そういうスキルレベルが高いボデー修正マンが存在するのは、ディーラー内製工場ではなく、BP工場の中に存在すると知見しているのだ。
拙人のルーツは整備屋にあるのだが、それは関係する業務関連として今現在でも引き続いている。一方、特に損害調査員と過ごし始め以後30数年間の現在まで、いわゆるボデー整備業のジャンルとなる車体リペアに関する関心も尽きないが、正直云って私は車体整備のプロでもないし、その業務を実践してきた訳でもないのだが、様々な車体整備の事例を客観視する立場とて眺めて来た。
つまり現実に直せるキャリア(実蹟)はないけれど、ある損傷を見積や意見書として評価する場合、工法、工程などが、その損傷度合いや、保有する機器とか作業者能力なども加味して、即座に頭の中にイメージとして想定されるのだ。この程度の作業時間を要するだろうという評価については、かなりの自惚れもあるのだろうが、ヘタな者には負けないというある意味自信過剰という思いを持っている。そうは云うものの、自惚れは禁物で、まだまだ知らない世界もあると云う自己抑制の思いもあるからして、ある意味関心も絶えないということにもなるのだろう。
さて、そんな中、今回はいわゆる車体の骨格を修正する場合における、フレーム修正機の使いこなし術について、補助固定と云うものが如何に大切か、そのことを如何に理解して、その作業者が作業を進めているるかという視点で事例を交えて記してみたい。
フレーム修正機を大別すると床式と台上式の2種に大別されるのだが、実はもう一種ジグ式というフレーム修正機があり、ある意味これが多くの車両メーカーが指定する車体整備における指定修正機となっている。このジグ式とは、車体の各諸に設けられたロケーションホールだとか、サブフレームだとかサスペンションの組付け接合点(ピボットと称する場合が多い)を、車種別専用ジグの測定子を合わせることで、その位置のXYZ値たる3次元の寸法公差が直ちに判明できると云う利点を持っている。
そもそもフレーム修正機を使用する第1目的は、事故などのダメージにより変形した車体の寸法をメーカー設計寸法に戻すということなのだ。ここで、ボデー寸法図集なりを見たことがある方なら判るだろうが、ボデー寸法の表し方は2種類あり、1つは直線寸法であり、もう一つは投影寸法と呼ぶデータムラインと呼ばれる仮想基準線上の、ポイント間と長さと高さの寸法を表したものなのだ。ここで、仮想基準線からの高さを計測しようとすると、立体的に構成された構造物である車体の計測はなかなか難しい要素を持つことが理解されると思う。

自動車などでなく、工作機械とか一品ものの製品を製造する企業では、例えば大型のものでは10mx10mという超大型の定盤を保有していて、その上で構造物を製造したり試作品を作る場合がある。実際クルマの場合もレーシングカーとか特殊な少量生産車の場合は、上盤上で組み立てたり、計測したりというケースもあるのだろうが、そんな高精度な大型定盤の上で、車体修復の様なある意味では手荒で汚れも生じる様な作業を行うこともあるだけに、たちまち定盤としての精度を保つことは困難なことになってしまう。
昨今は電子技術が進歩し、非接触の三次元計測器なども車両メーカーなどや特殊用途では使われているが、やはり機器が高価であったり、使用環境に馴染まないというデリケートさがあったりして、使い勝手として車体の修正に必ずしもマッチした三次元計測器が普及するに至っていない現状にある。その点、ジグ式の内、車種別専用ジグを使用する代表的な機器としては「セレットベンチ」が有名だが、この車種別測定子を持つジグの上にクルマを設置して、それぞれの測定子を当てがうだけで、直ちに投影寸法に合致しているかが新たに計測して指示値を読み取るなどしなくても視覚的に判明してしまうので、多くの車両メーカーは指定工具化するのだろう。
ただし、ジグ式車体修正機(と云うより実態は車体計測器と云える)で車体の寸法が狂いを見出し修正する場合、一般にはその変形を生じさせた部位(着力点付近)をその力を受けたベクトルと180度逆向きの力与えて引き出す(もしくは押し出す)ことになるのだが、その時の車体の引き力(もしくは押し力)の反力を支える車体の固定が極めて大事なことになる。もし、車体固定をしないまま引き力を与えても、車体が移動するだけで、極小さな力しか働かないことから、車体の固定という要素が如何に大事か判るだろう。
車体の固定は、一般的には、左右のサイドシル(ロッカーパネル)の閉断面部位のウェルドフランジ(鋼板のスポット溶接合わせ目)をクランプすることで行われるが、常にこのシルクランプだけで十分ということにはならない。
それと、ジグ式のセレットベンチなどでも、車体の固定はシルクランプを併用するが、その引き力だとか部位によっては、測定子に応力を与えることで、専用ジグの測定子を曲げてしまうことがあるので要注意なのだ。
ここで、今回事例1~3までの作図をしたが、事例1の良くある傾斜損傷(左右どちらか一方の前部が潰れた損傷形態)の修復の場合を見て欲しい。この場合、損傷部位を前方へ引き出すために引き力を与えると、車体は回転しようとするモーメントも合わせて生じていることを意識しなければならない。余程強く引かない限り、シルクランプ部が変形することはないが、強く引いた場合、シルクランプ部には捻れ反力を受けて変形する場合もあるのだ。それと、物体の変形には弾性と塑性があるが、引き力を有効に作用させるためには、予め回り止めの固定を追加しておくことにより、この車体が廻ろうとして弾性変形する逃げを抑えるという効果を持つことも意識しなければならないだろう。

昔の床式修正機では、シルクランプを床上に置いて、そのシルクランプを床上のアンカーレールにチェーンをクロスに張り固定する方法を取っていたが、固定剛性がチェーンの伸びなどから低下するのを押さえる目的で、床上にボルト固定した専用レールにボルトオンで直に固定したり、ジグ式だとか台上式では、やはり修正機に対してボルトンで直に固定する手法が主流となってはいる。しかし、先に述べた様に、車体全体を廻そうというモーメントは生じているのであり、このモーメントを意識して、対策をする補助固定の思想は、大切なことだと思えるが、そんなことは意識していない作業者を見ることは多い。
事例2から、補助固定の思想を説明したい。これはフロントサイドフレームを側面視した場合の事例だが、一般に良くできた設計車両においては、変形①と変形②が生じるとすると、まずは変形①が中程度のダメージで生じ、それが大きなダメージになるに従い、変形②も合わせて生じるという損傷状態になる場合が多いだろう。
ところが、頭の悪いと云うか設計がヘタな車両とか、得意な事故では、変形①は生じなくて変形②だけが生じる様な場合もあり得る。
また、変形①および②が生じていて、変形①部位はカット交換するにしても、変形②を十分直さずにカット交換はできないことは理解されるところだろう。そうでないと、変形①の前付近にあるロケーション点の寸法が正しく直せないことになるからだ。
この場合、前方への引き力で変形②が十分直れば良いのだが、何ら無思考に引き力を強めていくと、乗用車用修正機の最大引き力は20トン程度の能力を持つが、これを目一杯与えるとサイドフレームとダッシュパネルの接合を行っているスポット溶接が破壊し始めてしまう。
この様な場合、より弱い引き力で変形②の復元を果たせることを考えるか、もしくは、サイドフレーム変形②とダッシュの間に補助アングル材を溶接仮固定しつつ、そこを別のアタッチメントストッパーで押さえるなどして、ダッシュのスポット接合部に過大な力が働かないことを思考しなければならないだろう。この様な場合、多くは、損傷②のクロージングプレートを切り開くことで、損傷②付近の剛性を落としてやり、しかも残されたサイドフレームの塑性変形部位を張力を与えた状態で最小限加熱することで軟化させつつ歪みを抜くという手法が取られるだろう。
しかし、損害調査員を実蹟する中で、正に損傷②だけが変形し、引っ張ったけどダッシュのスポットが剥がれてしまうから替えているという作業者の言い分を聞くとき、こういうレベルの作業者も多くいることを知り、ある意味声を失うという機械が幾度かあった。
最後に事例③を説明してみたい。これは、いわゆる首振り損傷と云われる、出合い頭事故などで多い、車両前部が左右どちらかに振っている損傷で生じるものだ。こういう振れ損傷では、箱断面のサイドフレームでは、振れ方向外面は伸びるので目立った損傷は現れないが、その内面側には、座屈する変形が生じるものなのだ。そもそも論となるが、予め車両のマクロ(大局)的観察により振れ損傷が生じているなと判断すれば、その振れの内面側にシワが出ているだろうという意識で観察する思考が見積技量の真骨頂の一つではあるのだが、なかなかそこまで、考える損害調査員や工場フロントマンは多いと知見している。
さて、この振れ損傷を治すと云う意味で、図例の様にサイドフレーム先端付近を振れを元の寸法に戻す方向に引くと、これは場合にもよるが、何ら寸法の狂っていない後部までが一緒に変形してしまうと云う様な現象は、サイドフレームだけに限らず、各部位の復元修理であり得ると思える。
特に座屈変形など集中的に塑性変形した場合、その部位は加工硬化という現象も生じているので、他部位より剛性が高まってしまっているという要素もあるだろう。この場合、対応手法は幾つも考えられ、一つは事例2でも記した、クロージングプレートを開放させて、同部位の剛性を低下させつつ、その面の先端を前方に引きつつ、同時に内面や外面から打撃して修正する手法がある。
ただし、狂っていない部位を保持したまま、狂っている該当部位だけを位置修正したい場合は、補助固定の思想は欠かせないだろう。つまり、図の緑色で模したのは、ナイロンスリングで修正機タワーとの間を張るとか、青色で模したのは受け具となるストッパーを当てがうというものを示している。
と云う様な内容が、今回の補助固定の思想なのだが、メーカー指定のセレットベンチなりで高精度な車体の計測は達成できるが、ある程度の大きな変形を生じたパネル部は交換する前提でも、ダッシュとかカウルとそれに連続する宇基本部位の寸法なり変形を如何に除去できるのかが問題だということになってくる。そうでないと、ある程度の事故車(大ダメージ者)は、ホワイトボデー交換=全損と云うことで現実の修理が成立しなくなってしまう。実際、昨今は、パッシブセーフティ機器(エアバッグなど)の関連費用とか、前部骨格がアルミダイキャスで修理ができない、車齢が高齢化して時価額オーバーなどで、大ダメージ事故を実際手掛ける事案は極めて少なくなって来ているのが現実だろう。
しかし、必ずしも大ダメージでなくとも、損傷によってだが、この補助固定の思想を十分知るスキルレベルの高い技術者および工場に生き残ってもらいたいと願うものだ。そして、また顰蹙を受けるかもしれないが、そういうスキルレベルが高いボデー修正マンが存在するのは、ディーラー内製工場ではなく、BP工場の中に存在すると知見しているのだ。