世界的な環境問題としてのCO2への問題のこともあり、乗用車用のディーゼルエンジンが再び脚光を浴びつつある様です。先日、現状の最高度な排出ガス規制に適合した自動車用の国産ディーゼルエンジン搭載車としてエレクストレイルが登場した所です。今後各メーカーから、乗用車用ディーゼルエンジンは再登場して来るのでしょう。
ところで、新型エクストレイルのディーゼル(M9R型)ですが、そのスペックは素晴らしいものと感じます。排気量2リットルのターボ付き直噴ディーゼルですが、最高馬力約170ps、最大トルク約37kg・mという数値には驚きます。私が、カーディーラーでサービスメカとして活動していた頃に登場した乗用車用ディーゼルエンジンは、大体排気量を増大させて、何とか同等のガソリンエンジン車に匹敵する馬力を稼ぎ出していたものです。しかし、M9Rのスペックを見ると、排気量は2リットルですが、馬力はガソリン2.5リットルクラス、トルクに至っては3.5リットルクラスを生み出していますから、技術的に進歩していることを感じさせてくれます。それでいて、同排気量のガソリンエンジンより20~30%も燃費が良い(=CO2が少ない)と云うのですから感心します。
ただし、ディーゼルエンジンのネックとなる欠点も改めて感じざるを得ません。ディーゼルエンジンというのは、最大回転数がどうしても低くならざるを得ない宿命を持っています。これは、メカニズム的な回転限界からでなく、圧縮熱による自己着火による燃焼に起因する宿命的な問題なのです。M9Rの最大出力回転数も約3800rpmでのものですから、多分4500rpm程度がリミット回転数となるのでしょう。しかも、大気圧の2倍を超える高加給ターボ付き車ですから、2000rpm以下でのトルクは相当に低い様に評価されている様な論評が多いことが伺えます。
従って、このエンジンは2000~4000rpmまでの狭い回転範囲が実用的なパワーバンドと云うことになり、云ってみればレーシングエンジンの様なものです。高性能なガソリンエンジンの様な、広いパワーバンドを得られることによる、走りの爽快感を得るのは難しいのだろうと想像してしまいます。
それと、そのコストの高さには驚きます。エクストレイルでは、ガソリンベース車より40~50万程度は高い様です。確かに、直噴コモンレールによる高圧高精度なピエゾインジェクターやターボチャージャー、そしてNOx吸蔵触媒やDPF等の貴金属使用の触媒コンバーターの採用は、そのコストを押し上げざるを得ないことは理解されますが、それにしても高額過ぎると感じざるを得ません。
昨今、高騰したガソリンの値下がりが顕著になりつつあります。そんな中、レギュラーガソリンの価格がディーゼル用軽油を下回る様子さえ伺える様です。こうなって来ると、いくら燃費が良くても、車両価格の高さを考えると、脚光を浴びたディーゼルエンジンにとってはアゲインストなことなるのでしょう。
追記
ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでも2サイクルと4サイクルがあります。2サイクルは構造が簡単で毎回転の燃焼が行われますから、トルクが大きく優れた点がありますが、熱効率が低くなりがちだとか排気ガスが汚い等の欠点から、小型エンジン以外は駆逐されてしまった感があります。
ところで、2サイクルのトラック用ディーゼルエンジンとして、かつて国内でも脚光を受けていたメーカーとして、日産ディーゼル社があります。同社のトラックや営業所の看板にはUDの名称が掲げられています。これは、ユニフローディーゼル(正確にはniflow scavenging Diesel engine)を表す略語なのです。
この方式は、シリンダー下部の吸気ポートから、シリンダヘッド部の排気バルブに向けて一方方向(ユニフロー)に吸排気が流れることから命名された方式です。なお、吸気ポート側には過給器(ルーツブロワー)を持ち、シリンダー内の掃気を得ています。
こんなユニフローディーゼルエンジンですが、大型船舶用(主に貨物船やタンカー等)に使用されている大型ディーゼルエンジンには、主力的に採用されているそうです。
この最大級のものは、直列12気筒、シリンダボアは1m近くあり、ストロークは4m近いものもあるそうです。何れにしても、ボア・ストローク比で、超ロングストロークといえるものです。
最大馬力は9万馬力程度まであり、その最大回転数は100rpm程度、長い航海中(1ヶ月程)のほとんどを80%程度の出力で連続運転するのだそうです。
低回転高トルクエンジンですから、大径のスクリューをギヤ減速せず直接駆動しているそうです。このエンジンは重油を燃料に使用するそうですが、最新型ではコモンレールで電子制御されているそうです。驚くべきは、その熱効率の高さで50%を超えると聞きますから驚きます。