整備白書R3年より その2(見えて来るもの)
最新版整備白書(R3年版)で、自整業の概要という集計表がある。今回は、この集計表を別添するが、ここから読み取れる、もしくは導ける数値を元に、気付くことを以下に記してみたい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5c/fa/cf156a3e2dbc40c82f0258b13f71aa3e.jpg)
1.工場区分の定義
日整連集計では、工場区分として以下の4区分に分離しているが、それぞれの定義は以下の通りだ。
・専業:整備売上が整備総売上の50%を超える工場(除くディーラー)
・兼業:兼業部門の売上が総売上の50%を超える工場(除くディーラー)で、中古車など販売店、石油販売店などが経営する工場。
・ディーラー:自動車製造社もしくは販売卸企業(自販社や輸入車インポーター)と販売特約を締結した企業が経営する工場
・自家:大手旅客・物流企業等で、主として自企業車の整備を行う工場。
私見となるが、これら4区分ではあるが、目立って異なるのは、ディーラー以外とディーラーの2区分で対比しても十分という感を持つ。
2.総売上
今次のR3年と前年のR2年との相違は、概観すればほとんどの項目で微減もしくは微増で、統計的には誤差の範囲に入るものと云えるだろう。ただ、この売上で、全体の対前年売上が▲1,051億円(-1.9%)は気になる要素と云えるだろう。なお、前回のその1で掲載した入庫台数での集計表で示した、対前年▲45台(-2.6%)とも整合している。
売上減少を工場区分別に見るとディーラーの落ち込みが影響を与えていると想像できることと、その1で触れたとおり、ディーラーの落ち込みの作業内容としては、事故修理の減少が影響を与えていると見える。このディーラーの事故修理の減少は、ASV(先進安全車)の占有率が高く影響を受けているのではないかと記したが、このことはASVはますます普及は進みことだろうし、数年先にはディーラー以外の工場へも影響を与えて来ると予想できる。
総整備売上で5兆5千億円というのが、この整備市場額と云うことになる。(実際にはBP業などで未加入工場分があるのでもっと大きな市場がある)ちなみに、この値を整備関係従業員数545千人で除してみると、1名当り約1千万円/年ということになるのだが、これの引き上げを図りたいところだが、人口減、免許人口減、カーシェアリング、サブスクという時代の流れは、総整備市場を縮小させる可能性を大きく内在しているのだろう。
3.工場数
工場数(整備事業数(もしくは認証工場+指定工場の合計)で全国で91,500工場についてはほぼ変化は見られていない。ただし、このことが将来のこの業界の安泰(あんたい)を保障しているものではない。つまり、91,500工場、別に集計されている整備関係従業員数545千人という事業が、全国で残されているということ自体、他の魚屋、八百屋、米屋、電気店などの小売業がほとんど壊滅した近現代の中にあっては、特異的な点ではなかろうか。
これら、街の小売店が壊滅したのは、大資本による大規模店の占有とか、アマゾンなどのインターネット通販の影響だと思われるが、それが自整業にはあまり及んでいないと云うことが判る。その理由として想像できるのは、整備工場と街で増えたコンビニの店員と比べることで理解できる。コンビニ店員は、数日の教育で以後の業務がまっとうできるが、整備工員は、その様な教育期間ではとても継続的な作業はまっとうできないといえる。このことは、作業が平準化し難く、利益率の確保が見込み難いという要素となり、大企業が自整業に参入しない理由となっていると想像できる。
一方、その様な外部からの浸食による淘汰がなくとも、さほど利益が十分でない(このことは給与額などから想定できる)にも関わらず、9万工場が生き残っている理由だが、2つの大きな理由からではないだろうか。1つは、車検という法に守られた制度により、業務量の一定量が確保できるということ。そして、もう一つは、事故車整備に関わり、対物および車両保険という保険制度により、必ずしも全額ではないにしても修理料金の確保ができることがあると想像できるが、先にも述べた通り修理市場が将来も安泰という保障はないのであって、何らかの戦略を思考する必用があるのだろう。
4.指定工場数
指定工場(いわゆる民間車検工場)の比率は、約3万工場で、全工場(91,500)の33%(1/3)だということ。
5.整備工員数(と整備要員総数)
整備工員数は約40万名だが、整備関連従業員数545千名の73%となる。残りの27%は、工員以外の間接要員数であり、フロント接客員とか事務係りなどの要員であり、一定の割合は必須となるが、小規模工場ほど、その様な専従間接要員を配置し難いということがある。
6.1事業所(工場)当りの整備要員数
これが示す4.4人ということが、この自動車整備業界の零細さを端的に示している数値となる。この4.4名は認証工場での法定最小数は2名、指定工場では法定最小数4名を一応満たすが、この零細規模では間接要員を配置することが総売上からも困難である他、工場運営には工場費として原価部分となる各種経費が必用になるが、その捻出にも困難さが予想できる。
以下の給与のところで記すが、どんなに少ない工員(認証工場での法定最小数は2名、指定工場では法定最小数4名)であっても、一定以上の工場費なり間接人件費を要す訳で、この業界の根本的零細さを示す値であろう。正直云って、この平均4.4名という要員数では、まともな工場費を捻出することは不可能だろう。
また、専従間接員がない工場においては、工員自身が兼務することになる訳だが、このことは工賃売上に直接関与できない間接時間を増やすことになり、稼働率(多くの計算では68%が準用されているが実態は50%を切る場合もあり得るだろう)が低下することになる。
7.整備要員一人当りの整備売上高
ここでは、4区分しているが、ディーラー以外とディーラーの2区分として見れば良いだろう。間接員を含んだ整備要員1名当り、ディーラー以外で約1千万円、ディーラーが2,200万と大きな格差が生じている。
なお、ここでは分析のために、この整備売上を年間労働時間を2,000hとして除した値を計算してみた。これは稼働率などを考慮せず、延べ労働時間当りの単価となり、一般のレバーレートの計算とは異なるが、経営指標としては参考となるものだ。やはり、ディーラー以外とディーラーでは、倍近い開きがある。ディーラー以外工場では、如何に向上させて行けるかが問題となるだろう。
8.自動車保有台数
近年、保有台数の頭打ち傾向は著しく、平均使用年数も乗用車で13年超、商用車で15年超と高車齢化してきている。近い将来予測される人口減、免許人口減、カーシェアリング、サブスクという時代の流れは、自動車保有台数の縮小にも大きな影響を与えると予測でき総整備市場を縮小させることになるだろう。
9.整備要員平均年齢
前年対比で、すべての工場区分で微量ではあるが上昇している。ここでも、ディーラー以外とディーラーの対比という視点で眺めると、前者が51才、後者が36才と前者は後者より平均年齢が15才高い。このことは、ディーラー以外工場では、新入社員として若い従業員を確保できない実態を現しているとみるべきだろう。ここにも、この業界の将来を見通す中で致命的な問題が内在していると思える。
10.整備要員の年間給与額
ここでも、ディーラー以外とディーラーという2区分で眺めて見るが、先の平均年齢で15才の差があるにも関わらず、給与はディーラーに100万円劣るのがディーラー以外工場の実態だ。
なお、年間整備売上に対する給与額の比率を計算して見たところ、ディーラ以外が約36%であるところ、ディーラー工場が約21%と大きな格差が生じている。このことは、一見ディーラーが分配率比をケチっていると見えてしまうが、必ずしもそうとは判断できない。そのことは次回以降に触れてみたい。
#整備白書から見えて来るもの
最新版整備白書(R3年版)で、自整業の概要という集計表がある。今回は、この集計表を別添するが、ここから読み取れる、もしくは導ける数値を元に、気付くことを以下に記してみたい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5c/fa/cf156a3e2dbc40c82f0258b13f71aa3e.jpg)
1.工場区分の定義
日整連集計では、工場区分として以下の4区分に分離しているが、それぞれの定義は以下の通りだ。
・専業:整備売上が整備総売上の50%を超える工場(除くディーラー)
・兼業:兼業部門の売上が総売上の50%を超える工場(除くディーラー)で、中古車など販売店、石油販売店などが経営する工場。
・ディーラー:自動車製造社もしくは販売卸企業(自販社や輸入車インポーター)と販売特約を締結した企業が経営する工場
・自家:大手旅客・物流企業等で、主として自企業車の整備を行う工場。
私見となるが、これら4区分ではあるが、目立って異なるのは、ディーラー以外とディーラーの2区分で対比しても十分という感を持つ。
2.総売上
今次のR3年と前年のR2年との相違は、概観すればほとんどの項目で微減もしくは微増で、統計的には誤差の範囲に入るものと云えるだろう。ただ、この売上で、全体の対前年売上が▲1,051億円(-1.9%)は気になる要素と云えるだろう。なお、前回のその1で掲載した入庫台数での集計表で示した、対前年▲45台(-2.6%)とも整合している。
売上減少を工場区分別に見るとディーラーの落ち込みが影響を与えていると想像できることと、その1で触れたとおり、ディーラーの落ち込みの作業内容としては、事故修理の減少が影響を与えていると見える。このディーラーの事故修理の減少は、ASV(先進安全車)の占有率が高く影響を受けているのではないかと記したが、このことはASVはますます普及は進みことだろうし、数年先にはディーラー以外の工場へも影響を与えて来ると予想できる。
総整備売上で5兆5千億円というのが、この整備市場額と云うことになる。(実際にはBP業などで未加入工場分があるのでもっと大きな市場がある)ちなみに、この値を整備関係従業員数545千人で除してみると、1名当り約1千万円/年ということになるのだが、これの引き上げを図りたいところだが、人口減、免許人口減、カーシェアリング、サブスクという時代の流れは、総整備市場を縮小させる可能性を大きく内在しているのだろう。
3.工場数
工場数(整備事業数(もしくは認証工場+指定工場の合計)で全国で91,500工場についてはほぼ変化は見られていない。ただし、このことが将来のこの業界の安泰(あんたい)を保障しているものではない。つまり、91,500工場、別に集計されている整備関係従業員数545千人という事業が、全国で残されているということ自体、他の魚屋、八百屋、米屋、電気店などの小売業がほとんど壊滅した近現代の中にあっては、特異的な点ではなかろうか。
これら、街の小売店が壊滅したのは、大資本による大規模店の占有とか、アマゾンなどのインターネット通販の影響だと思われるが、それが自整業にはあまり及んでいないと云うことが判る。その理由として想像できるのは、整備工場と街で増えたコンビニの店員と比べることで理解できる。コンビニ店員は、数日の教育で以後の業務がまっとうできるが、整備工員は、その様な教育期間ではとても継続的な作業はまっとうできないといえる。このことは、作業が平準化し難く、利益率の確保が見込み難いという要素となり、大企業が自整業に参入しない理由となっていると想像できる。
一方、その様な外部からの浸食による淘汰がなくとも、さほど利益が十分でない(このことは給与額などから想定できる)にも関わらず、9万工場が生き残っている理由だが、2つの大きな理由からではないだろうか。1つは、車検という法に守られた制度により、業務量の一定量が確保できるということ。そして、もう一つは、事故車整備に関わり、対物および車両保険という保険制度により、必ずしも全額ではないにしても修理料金の確保ができることがあると想像できるが、先にも述べた通り修理市場が将来も安泰という保障はないのであって、何らかの戦略を思考する必用があるのだろう。
4.指定工場数
指定工場(いわゆる民間車検工場)の比率は、約3万工場で、全工場(91,500)の33%(1/3)だということ。
5.整備工員数(と整備要員総数)
整備工員数は約40万名だが、整備関連従業員数545千名の73%となる。残りの27%は、工員以外の間接要員数であり、フロント接客員とか事務係りなどの要員であり、一定の割合は必須となるが、小規模工場ほど、その様な専従間接要員を配置し難いということがある。
6.1事業所(工場)当りの整備要員数
これが示す4.4人ということが、この自動車整備業界の零細さを端的に示している数値となる。この4.4名は認証工場での法定最小数は2名、指定工場では法定最小数4名を一応満たすが、この零細規模では間接要員を配置することが総売上からも困難である他、工場運営には工場費として原価部分となる各種経費が必用になるが、その捻出にも困難さが予想できる。
以下の給与のところで記すが、どんなに少ない工員(認証工場での法定最小数は2名、指定工場では法定最小数4名)であっても、一定以上の工場費なり間接人件費を要す訳で、この業界の根本的零細さを示す値であろう。正直云って、この平均4.4名という要員数では、まともな工場費を捻出することは不可能だろう。
また、専従間接員がない工場においては、工員自身が兼務することになる訳だが、このことは工賃売上に直接関与できない間接時間を増やすことになり、稼働率(多くの計算では68%が準用されているが実態は50%を切る場合もあり得るだろう)が低下することになる。
7.整備要員一人当りの整備売上高
ここでは、4区分しているが、ディーラー以外とディーラーの2区分として見れば良いだろう。間接員を含んだ整備要員1名当り、ディーラー以外で約1千万円、ディーラーが2,200万と大きな格差が生じている。
なお、ここでは分析のために、この整備売上を年間労働時間を2,000hとして除した値を計算してみた。これは稼働率などを考慮せず、延べ労働時間当りの単価となり、一般のレバーレートの計算とは異なるが、経営指標としては参考となるものだ。やはり、ディーラー以外とディーラーでは、倍近い開きがある。ディーラー以外工場では、如何に向上させて行けるかが問題となるだろう。
8.自動車保有台数
近年、保有台数の頭打ち傾向は著しく、平均使用年数も乗用車で13年超、商用車で15年超と高車齢化してきている。近い将来予測される人口減、免許人口減、カーシェアリング、サブスクという時代の流れは、自動車保有台数の縮小にも大きな影響を与えると予測でき総整備市場を縮小させることになるだろう。
9.整備要員平均年齢
前年対比で、すべての工場区分で微量ではあるが上昇している。ここでも、ディーラー以外とディーラーの対比という視点で眺めると、前者が51才、後者が36才と前者は後者より平均年齢が15才高い。このことは、ディーラー以外工場では、新入社員として若い従業員を確保できない実態を現しているとみるべきだろう。ここにも、この業界の将来を見通す中で致命的な問題が内在していると思える。
10.整備要員の年間給与額
ここでも、ディーラー以外とディーラーという2区分で眺めて見るが、先の平均年齢で15才の差があるにも関わらず、給与はディーラーに100万円劣るのがディーラー以外工場の実態だ。
なお、年間整備売上に対する給与額の比率を計算して見たところ、ディーラ以外が約36%であるところ、ディーラー工場が約21%と大きな格差が生じている。このことは、一見ディーラーが分配率比をケチっていると見えてしまうが、必ずしもそうとは判断できない。そのことは次回以降に触れてみたい。
#整備白書から見えて来るもの