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30万円値下げ、テスラ「モデル3」の衝撃 初期モデルから驚きの進化

2024-07-29 | コラム
30万円値下げ、テスラ「モデル3」の衝撃 初期モデルから驚きの進化
7/29(月) 6:00配信 日経クロストレンド

2016年に米国で発表され、19年に日本上陸した「モデル3」。実は少しずつアップデートを重ね、数々の驚きの進化をしていることはあまり知られていない(写真提供/大音 安弘)

 世界的に販売が鈍化している電気自動車(EV)。EV市場のけん引役を担ってきた米テスラも例外ではなく、米国でのEV販売台数シェアが2024年4~6月期に5割を下回るなど、減速傾向が強まっている。しかし日本市場に目を向けると、テスラ人気は健在のようだ。日本法人を取材し現状分析を試みると同時に、売れ筋「モデル3」の進化ぶりを試乗で確かめると、意外な事実が浮かび上がった。

 2024年2月に初のピックアップトラック「サイバートラック」を日本初披露して話題を呼んだ、米国の電気自動車(EV)専業メーカーのテスラ。サイズが巨大で、ユーザーがある程度限定されるトラック仕様ということ、また米国でのバックオーダーの多さや日本の法規対応なども手伝って、現時点で日本での導入タイミングは未定だ。

 そこで現在、テスラが日本で販促に力を注ぐのがミッドサイズセダン「モデル3」とミッドサイズSUV(多目的スポーツ車)「モデルY」だ。

 手ごろなサイズと現実的に買い求めやすい価格であり、日本市場に受け入れられやすいと同社は考えている。日本における販売台数は、モデル3とモデルYがほぼは半々で拮抗している。

 モデル3とモデルYに人気が集まる現象は、日本以外でも起きている。23年のグローバルでの年間納車台数を調べると、180万8581台のうち、96%(173万9707台)がモデル3とモデルYだった。

 英国の調査会社JATO Dynamicsによれば、23年に世界で最も売れたテスラの車種はモデルYであり約122万台。前年比64%増と大幅な伸びを見せており、伸びしろがまだまだありそうである。

●20代や30代など若い世代の取り込みにも成功

 普及型テスラの2車種の価格は、モデル3が531万3000円から、モデルYが533万7000円から。同社はほかにラージセダン「モデルS」とラージSUV「モデルX」も日本で展開するが、モデルSは1266万9000円から、モデルXは1416万9000円からと高価で、モデル3やモデルYの倍近い。

 しかもモデルSとモデルXは、いずれもラインアップするのは左ハンドル仕様のみだ。モデル3やモデルYが右ハンドル仕様ということからも、テスラが日本市場開拓の上で、モデル3やモデルYを戦略的車種に位置付けていることがよく分かる。

 EVで500万円という価格は、国内外のライバル車種のEVと比べても、十分競える設定だ。驚くべきは24年4月に、両モデルの価格を一律30万円引き下げたこと。しかも、装備を削減しているわけでもない。

 原材料費の高騰などを理由に他のメーカーが軒並み値上げを決断または検討するなか、あえて値引きに踏み切ったインパクトは大きかったようだ。ここに来てユーザー層の裾野が広がり、20代や30代など若い世代の取り込みにも成功しているという。

 どうやらテスラは、EVへの逆風が吹く中であえて割安感を演出し、「かっこいいが、高価で手が届かない」というイメージを覆し、一気に日本市場でEVの主導権を握ろうとしているようだ。

 では、なぜ物価高と円安基調の今、テスラは値引きができたのか。

 テスラジャパンで広報を担当する大塚洋亮氏は、「従来の受注生産に近い形から、日本向け仕様を一時期に集中して生産する体制に変更した。結果、価格を抑えることが可能となった」と明かす。

 さて、ここで1つの疑問がある。モデル3は16年、モデルYも19年に米国で発表され、既に5~8年も経過している車種だ(日本上陸はモデル3は19年、モデルYは20年)。通常の自動車メーカーならば、フルモデルチェンジしないと古くさくなり見向きもされなくなる危険性があるタイミングにさしかかっている。

 しかも、続々ライバルメーカーから目新しい新型EVも登場している。なぜ、いまだに多くのユーザーはテスラに魅了されるのだろうか。

 もちろん、そこには単にブランド力だけでは片付けられない理由がある。具体的には2つだ。

 1つは、「OTA」と呼ばれるワイヤレスソフトウェアアップデートにより、定期的に機能アップデートが図られていること。例えば発売当初、道路状況を判断し自動的にハイビームをオンオフする「アダプティブハイビーム」には非対応だったが、OTAにより追加されている。

 カーナビ画面などを表示するタッチ式のディスプレーも同様。15.4インチと超大型なのがテスラの特徴だが、そのユーザーインターフェースも操作性が⼤きく向上し、表示動作もよりスムーズになっている。購入後も常に進化し続ける楽しみと安心感があるわけだ。

 もう1つが、あえて頻繁にモデルチェンジなどを行わずに、技術進化に応じて細やかなハードウエア上の改良を、年を追うごとに加えていること。例えば各種センサーを統廃合して数を減らすのがその1つ。さらに車内のワイヤハーネスによる配線をよりシンプルにするなどして、コストダウンや軽量化はもちろんのこと、結果として全体の消費電力を減らし航続距離の延長などに結びつけている。

 言ってみれば、発売初期モデルと最新モデルでは、見た目はほぼ変わらないが、ソフトとハードの両面で、中身は別物のように変わっている部分があるわけだ。こうしたことから「年式の古いモデル3から、最新のモデル3へ乗り換えるユーザーも最近は出てきている」(大塚氏)という。

●目指すは「常に進化、常に買い時」

 というわけで、日本上陸当初にモデル3をレビューしたことがある筆者としては、いったいどれほど中身が変わったのかを確かめないわけにはいかない。そこで、最新のモデル3を今回試乗してみることにした。

 試したのは、24年4月に追加されたばかりの最上位グレード「パフォーマンス」だ。その名が示すように高性能仕様となっており、前後にモーターを搭載した4WD(四輪駆動)車で、最高出力は338kW(460ps)、最大トルクは723Nm。0-100km/hの加速は3.1秒で最高速度は時速262kmだ。

 またブレーキ性能を強化しており、サスペンションには可変式のアダプティブダンピングシステムを備える。走行モードには、サーキット走行を意識した「トラックモード」が用意され、スポーツEVセダンとして仕上げられている。それでいて、航続距離は610km(WLTCモード)と長距離を実現している。

 1モーターのエントリーグレード(後輪駆動車のRWD)の場合、最高出力は194kW、最大トルクは340Nm、航続距離は573km(WLTC)。パフォーマンスグレードが、いかに“性能推し”なのかが分かる。

 外観をチェックすると、ボディーサイズは全長4720×全幅1850×全高1440mmで、もちろん初期モデルと変わらない。5人乗りで、トランク容量は682Lを確保。そのうち88Lはフロント部の収納となる。日本でも扱いやすいサイズである。

 最新型のパフォーマンスは、フロントマスクのデザインが初期モデルとは少し変わり、精悍さが増している。エアロが追加されたこともあるが、実はモデル3は23年9月に初となる大型のマイナーチェンジを行っていた。もちろん、内部にも手を加えており、デジタルを含めたメカニカルな改良点は多岐にわたる。さらにボディ構造にも手が加わっており、ライバルであればフルモデルチェンジモデルをうたって大々的にアピールするレベルだ。

 「常に変わり続けるから、常に買い時のクルマだと認識してもらう」(大塚氏)。モデルチェンジをせずにアップグレードを繰り返した成果は、ハンドルを握ってみるとよく分かる。

 ソフトアップデートで進化を図っていくテスラ特有のクルマづくり、具体的には「購入後も進化し続けるクルマ」だということを肌で感じる場面がいくつもあった。OTAを前提に、将来の進化を考慮して、あらかじめハード的に⾼スペックの部品を搭載しているからこそできる技なのかもしれない。

 もちろん、ハード面で使い勝手が大きく変わった点も見つかった。従来のモデル3とモデルYは、メーター表示を含めてすべての情報がセンターディスプレーに集約される代わりに、ダッシュボードデザインがすっきりとしているのが特徴の1つだった。最新型のモデル3ではよりすっきりさを追求し、ついにシフトレバーとウインカーレバーすら廃止してしまったのは驚いた。

 ダッシュボード上にあるのは、巨大ディスプレーと運転用のステアリングだけだ。

 当初、いったいどうやってシフトチェンジをし、またウインカーを出すのかとまどったが、もちろん各レバーの代わりとなる機能は別の場所に用意されていた。ウインカー操作とワイパー操作はステアリング上のスイッチで行い、一方シフト操作はディスプレー上にあるアイコンをタッチやスライド操作して行う仕組みに変わった。

 従来のクルマとは全く違う操作性だが、使い勝手がよく、ものの30分もするとすぐに慣れるので安心だ。特にシフトチェンジは、レバーを廃止した代わりに自動化が進んでいるのはとても便利だと感じた。運転席に座ってシートベルトを締め、ブレーキレバーを踏み込むとスタンバイ状態となり、自動的にドライブモード(Dレンジ)になるのだ。つまりあとはアクセルを踏めば前進するので、そもそもシフトチェンジの必要がない。

 バックギアに切り替えるには、ディスプレー右端上側の車両型アイコンを上から下にスライドする。ビジュアル表示なので分かりやすく、間違うことがまずないような工夫がある。

 ウインカーについては、ステアリング左上に左と右の専用ボタンが用意され、これで操作する。左右位置は分かりやすく、⼀度も間違えることはなかったが、ステアリングを切った状態でウインカーを出したい場面でボタンが操作しにくいことがあった。その点を除けば、おおむね問題はないと感じた。

●スーパーチャージャーの充電で驚きの体験

 さて、実際の走りはどうか。高性能モーターを搭載するだけあって、アクセルを強く踏み込むと、まるでスポーツカーのような暴力的な加速が味わえる。まさに、パフォーマンスの名に恥じない仕上がりだ。ただ普通に運転している限り、静かで加速も滑らかでゆったり静かに街中を走らせることもできる。

 スポーツモデルならではのしっかりした足回りも好印象だ。電子制御式ダンパーのおかげで乗り心地も悪くない。

 今回の試乗で、ぜひ体験したいと考えていたのがテスラ専用の急速充電器「スーパーチャージャー」による充電だ。最大250kW出力と、最大150kWの日本規格であるCHAdeMO式よりも高出力で、いかにスピーディーに充電できるかを肌で知りたかったからだ。

 びっくりしたのが、その操作性のよさである。充電器の場所にクルマを止めて充電器側のケーブルを持ち上げると、なんと車両側の充電口が自動的に開いたのだ。つまりあとはケーブルを充電口に刺すだけ。充電器の場所にテスラが近づくと、自動的に両者が通信する仕組みによるものだという。

 もっと驚いたのは、充電中だ。⾞載ディスプレー上にあるゲームのアイコンからレースゲームを選んでみると、操作にクルマのステアリングとブレーキペダルを使って遊ぶ仕様となっていた。もちろん安全のため、運転中は起動できないが、とかく手持ち無沙汰になりがちな充電時間の過ごし方にも配慮があるあたり、テスラらしい演出だと思わせてくれた。また、配信動画や音楽配信を楽しむこともできる。

 今回の充電は、バッテリー残量約20%から最大値となる80%まで回復させるのに約35分かかった。現在テスラは、全国112カ所に560基以上のスーパーチャージャーを設置している。別途契約や都度払いの必要はあるものの、アダプターを使えば一般的なCHAdeMO式急速充電にも対応するので、出先での充電のしやすさで競合EVに劣ることはないだろう。

 以上、米国発表から5~8年経過したテスラが、いかに進化したのかについて検証した結果をお伝えした。販売手法がオンライン販売のみという点は日本デビュー時から変わらないが、テスラは裾野を広げるために少しずつ実車を確認できるショールームの数を拡大させつつある。

 現在全国に11カ所あり、今後もニーズに合わせて店舗数を増やしていく考えだ。立ち寄った店舗で、スタッフの支援を受けながら用意されたパソコンを使ってその場で注文もできるので、一般的な自動車販売店に近い購入体験もできる。販売についてドライなイメージが強いテスラだが、現在は限られたリソースをうまく活用しながら利便性を高める努力をしている。

 また、国産車のような手厚いディーラー網がないデメリットについて、購入後のテスラ流のサポートで補っているのも見逃せない。通信機能を駆使してオンラインでサービスセンターのスタッフが遠隔で車両状況を把握し、必要であればメンテナンス相談や部品交換の注文などがスムーズに行える仕組みがあるのだ。

 値下げに踏み切り、実は水面下で進化し続ける車種で日本市場開拓を地道に狙うテスラ。確かに世界的にはEVに対して逆風が吹き荒れるが、快適なドライブ環境と充電環境の整備などを踏まえると、まだまだ日本での伸びしろは大きいのではないか。そう感じる試乗体験だった。大音 安弘

#30万円値下げ、テスラ「モデル3」の衝撃 初期モデルから驚きの進化


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