車両の保安基準で横滑り量の特例扱いとは
ここで云う横すべり量とは、いわゆるサイドスリップテスターで表示される±の表示値のことだ。これは、今まで±5mmまでというのが基準だったが、必ずしもそうでない特例扱いの車両があると云うことを解説してみたい。
この根拠規則としては、道路運送法の保安基準の下位に位置する「保安基準の細目を定める告示」というところにあり、以下の様な記述となっている。
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道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2020.12.25】
(かじ取装置)
第91条 自動車のかじ取装置の強度、操作性能等に関し、保安基準第11条第1項の告示で定める基準は、次項及び第3項に掲げる基準とする。
・・・ 省略 ・・・
ル 四輪以上の自動車のかじ取車輪をサイドスリップ・テスタを用いて計測した場合の横すべり量が、走行1mについて5mmを超えるもの。ただし、その輪数が四輪以上の自動車のかじ取車輪をサイドスリップ・テスタを用いて計測した場合に、その横滑り量が、指定自動車等の自動車製作者等(自動車を製作することを業とする者又はその者から当該自動車を購入する契約を締結している者であって当該自動車を本邦に輸出することを業とするものをいう。)がかじ取装置について安全な運行を確保できるものとして指定する横滑り量の範囲内にある場合にあっては、この限りでない。
・・・ 省略 ・・・
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ということで、実際の検査においては、サイドスリップテスターの進行方向長さ(0.5m)において、1mに換算した横すべり量を±10mm程度まで表示出来るテスターが一般的だが、一般的にはサイドスリップ"0"に合わせる様に調整するし、検査場においては±5mmを越えると不合格となる。ただし、細則告示の後半に記述してある様に、車両メーカーが別途の基準を設けている場合はこの限りにあらずということだ。この「車両メーカーが別途の基準を設けている場合」とは、以下に示す「かじ取り車輪の横すべり量の例外的取扱要領」というものが相当する。
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かじ取り車輪の横すべり量の例外的取扱要領
Ⅰ 型式指定等審査時における取扱い
1.横すべり量の例外的取扱いを行う妥当性の確認
対象となる車両について、そのホイールアライメント値がメーカーの設計値の範囲内にある場合、その横すべり量がメーカーが推奨する横すべり量となることについての説明を求め確認する。
2.型式指定申請等の保安基準適合性審査における取扱い
上記1が確認された場合に申請等を受け付けることとし、独立行政法人交通安全環境研究所自動車審査部において以下の内容を確認する。
(1)データの確認
トーイン、キャンバ、キャスタの値がメーカーの設計基準値内にあり、かつ、サイドスリップ・テスタを用いて計測したときの横すべり量がメーカーの推奨する横すべり量の範囲内にあることを確認する。
(2)概要説明書の記載内容の確認
概要説明書中に横すべり量が例外的取扱いである旨の記載がされていることについての確認をする。
Ⅱ 検査時における取扱い
検査に当たっては、サイドスリップ・テスタを用いて計測した場合の横すべり量が、各型式についてそれぞれメーカーの推奨する横すべり量の範囲(概要説明書又は別表の横すべり量の例外的取扱い車両一覧表で確認)内にある場合には、保安基準第11条第1項第1号に適合しているものとして取り扱って差し支えないものとする。
なお、横すべり量をサイドスリップ・テスタを用いて計測できない場合(横すべり量がサイドスリップ・テスタの目盛りを超えた場合等)であっても、トーイン、キャンバ、キャスタの値が各型式についてそれぞれメーカーの設計基準値(概要説明書、諸元表又は別表の横すべり量の例外的取扱い車両一覧表で確認)内にある場合には、保安基準第11条第1項第1号に適合しているものとして取り扱って差し支えないものとする。
別表の横すべり量の例外的取扱い車両一覧表については、日本自動車輸入組合及び一般社団法人日本自動車工業会が毎年度末時点で更新し、それぞれ自動車局審査・リコール課に提出するものを翌年度5月中に地方運輸局整備部(沖縄総合事務局運輸部を含む。)及び一般社団法人日本自動車整備振興会連合会に送付することとする。
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この例外的処置の対象車は、FAINESなどで公示なされているが、ここではBMWとBMWミニの2例を添付図で示してみる。なお、この特例処置の車両は輸入車だけに留まらず、比較的少数ではあるがトヨタ(含むレクサス)とマツダにもある。
一般論として考えるに、比較的ゆっくりと直進するサイドスリップテスターの通過でサイドスリップに影響するのは、キャンバにより誘起される変位量とそれに対応するトーイン量による相殺効果だけによると思える。しかし、実際の車両の運行においては、路面の凹凸やカーブでのローリングによる車輪の上下によりキャンバーは変化するし、タイロッドはステアリングナックルに平行には装着されているが、ナックルの上下移動に伴い必ずしもトーイン値も一定ではない。さらに操舵した場合、主にキャスター値が大きく影響するが、旋回外側輪ではキャンバーがマイナス側に大きくなるし、先回内側ではその逆にプラス側に大きくなる。さらに云えば、車両はゆっくり静かに前進しておらず、加速したり減速したり、路面の突起や凹部と通過する際、ハーシュネスというショックを和らげる目的で、後方に車輪を移動する動作も行う。この後方への車輪移動は、トーの変化に影響を与えるし、特に後輪サスでは、車両の安定挙動を良くするために、このトー変化を積極的に利用している車両もある。特に4WSという後輪も同位相でステアする機構を付加した場合は大きくなる。
そんな訳で、静的条件でのサイドスリップ量が0だから、多くの運行条件で0で横すべり量が小さく良いとはならないということなんだろうと考えられるのだ。
ここで云う横すべり量とは、いわゆるサイドスリップテスターで表示される±の表示値のことだ。これは、今まで±5mmまでというのが基準だったが、必ずしもそうでない特例扱いの車両があると云うことを解説してみたい。
この根拠規則としては、道路運送法の保安基準の下位に位置する「保安基準の細目を定める告示」というところにあり、以下の様な記述となっている。
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道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2020.12.25】
(かじ取装置)
第91条 自動車のかじ取装置の強度、操作性能等に関し、保安基準第11条第1項の告示で定める基準は、次項及び第3項に掲げる基準とする。
・・・ 省略 ・・・
ル 四輪以上の自動車のかじ取車輪をサイドスリップ・テスタを用いて計測した場合の横すべり量が、走行1mについて5mmを超えるもの。ただし、その輪数が四輪以上の自動車のかじ取車輪をサイドスリップ・テスタを用いて計測した場合に、その横滑り量が、指定自動車等の自動車製作者等(自動車を製作することを業とする者又はその者から当該自動車を購入する契約を締結している者であって当該自動車を本邦に輸出することを業とするものをいう。)がかじ取装置について安全な運行を確保できるものとして指定する横滑り量の範囲内にある場合にあっては、この限りでない。
・・・ 省略 ・・・
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ということで、実際の検査においては、サイドスリップテスターの進行方向長さ(0.5m)において、1mに換算した横すべり量を±10mm程度まで表示出来るテスターが一般的だが、一般的にはサイドスリップ"0"に合わせる様に調整するし、検査場においては±5mmを越えると不合格となる。ただし、細則告示の後半に記述してある様に、車両メーカーが別途の基準を設けている場合はこの限りにあらずということだ。この「車両メーカーが別途の基準を設けている場合」とは、以下に示す「かじ取り車輪の横すべり量の例外的取扱要領」というものが相当する。
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かじ取り車輪の横すべり量の例外的取扱要領
Ⅰ 型式指定等審査時における取扱い
1.横すべり量の例外的取扱いを行う妥当性の確認
対象となる車両について、そのホイールアライメント値がメーカーの設計値の範囲内にある場合、その横すべり量がメーカーが推奨する横すべり量となることについての説明を求め確認する。
2.型式指定申請等の保安基準適合性審査における取扱い
上記1が確認された場合に申請等を受け付けることとし、独立行政法人交通安全環境研究所自動車審査部において以下の内容を確認する。
(1)データの確認
トーイン、キャンバ、キャスタの値がメーカーの設計基準値内にあり、かつ、サイドスリップ・テスタを用いて計測したときの横すべり量がメーカーの推奨する横すべり量の範囲内にあることを確認する。
(2)概要説明書の記載内容の確認
概要説明書中に横すべり量が例外的取扱いである旨の記載がされていることについての確認をする。
Ⅱ 検査時における取扱い
検査に当たっては、サイドスリップ・テスタを用いて計測した場合の横すべり量が、各型式についてそれぞれメーカーの推奨する横すべり量の範囲(概要説明書又は別表の横すべり量の例外的取扱い車両一覧表で確認)内にある場合には、保安基準第11条第1項第1号に適合しているものとして取り扱って差し支えないものとする。
なお、横すべり量をサイドスリップ・テスタを用いて計測できない場合(横すべり量がサイドスリップ・テスタの目盛りを超えた場合等)であっても、トーイン、キャンバ、キャスタの値が各型式についてそれぞれメーカーの設計基準値(概要説明書、諸元表又は別表の横すべり量の例外的取扱い車両一覧表で確認)内にある場合には、保安基準第11条第1項第1号に適合しているものとして取り扱って差し支えないものとする。
別表の横すべり量の例外的取扱い車両一覧表については、日本自動車輸入組合及び一般社団法人日本自動車工業会が毎年度末時点で更新し、それぞれ自動車局審査・リコール課に提出するものを翌年度5月中に地方運輸局整備部(沖縄総合事務局運輸部を含む。)及び一般社団法人日本自動車整備振興会連合会に送付することとする。
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この例外的処置の対象車は、FAINESなどで公示なされているが、ここではBMWとBMWミニの2例を添付図で示してみる。なお、この特例処置の車両は輸入車だけに留まらず、比較的少数ではあるがトヨタ(含むレクサス)とマツダにもある。
一般論として考えるに、比較的ゆっくりと直進するサイドスリップテスターの通過でサイドスリップに影響するのは、キャンバにより誘起される変位量とそれに対応するトーイン量による相殺効果だけによると思える。しかし、実際の車両の運行においては、路面の凹凸やカーブでのローリングによる車輪の上下によりキャンバーは変化するし、タイロッドはステアリングナックルに平行には装着されているが、ナックルの上下移動に伴い必ずしもトーイン値も一定ではない。さらに操舵した場合、主にキャスター値が大きく影響するが、旋回外側輪ではキャンバーがマイナス側に大きくなるし、先回内側ではその逆にプラス側に大きくなる。さらに云えば、車両はゆっくり静かに前進しておらず、加速したり減速したり、路面の突起や凹部と通過する際、ハーシュネスというショックを和らげる目的で、後方に車輪を移動する動作も行う。この後方への車輪移動は、トーの変化に影響を与えるし、特に後輪サスでは、車両の安定挙動を良くするために、このトー変化を積極的に利用している車両もある。特に4WSという後輪も同位相でステアする機構を付加した場合は大きくなる。
そんな訳で、静的条件でのサイドスリップ量が0だから、多くの運行条件で0で横すべり量が小さく良いとはならないということなんだろうと考えられるのだ。