近年、富みに発展が著しいバイワイヤ技術のことについて記してみます。
バイワイヤとは元々航空機のフライ・バイ・ワイヤ(Fly-by-wire, FBWと略される)から取られた名称で、クルマの場合はドライブ・バイ・ワイワ((drive-by-wire, DBW) というのが正式名称の様ですが、最近は単にバイ・ワイヤという云い方がされている様です。
航空機でのFBWでは、操縦桿(または輪)の入力を、従来はケーブルやロッド等の機械的なリンクを介して各翼面舵を動かしていたのを、操縦桿(輪)での動きをセンサーで電気信号に変換し、電線(wire)により制御ECU(Electri Control Unit)を経由して、各翼面舵を油圧アクチュエーター等で動かすというものです。
クルマの場合では、当初に採用されたバイワイヤ技術としては、スロットルの制御があります。アクセルペダルの動きをセンシングし、ECUを介してエンジンのスロットルバルブをステッピングモーターで駆動させると云うものです。ECUのプログラム次第で、ペダルの動きととスロットル開度を自由に非線形な制御を行うことが可能となっているものです。
ところで、近年のクルマでは、このバイワイヤ技術の応用について著しいものがあり、以下の様な機構への採用車が続々と登場しています。
①ブレーキ
トヨタでのECB(エレキトリカルコントロールブレーキ)やベンツでのSBC(センソトロニックブレーキコントロール)と云ったものが登場しています。ブレーキペダルの動きをセンシングし、ECUを経由して各車輪のブレーキを独立制御するものです。制御はABS(アンチロックブレーキシステム)やVSC(ビークルスタビリティコントロール)や次に記すアクティブステアリング等とも統合制御されるシステムとなっています。また、電気システムが故障した場合への安全対応やペダル反力の保持のため、従来の油圧系統は残されています。なお、ベンツでのSBCは、SL(230型)やEクラス(211型)で大々的に宣伝がなされ採用がされましたが、度重なるリコール等の不具合を出す等システムの信頼性への懸念が出たのか、マイナーチェンジにより姿を消し従来のブレーキシステムに戻っています。
②ステアリング
アクティブステアリング(BMWやニッサンでの呼称)やトヨタのVGRS(Variable Gear Ratio Steering)やホンダのVGS(Variable Gearratio Steering)と云ったものが登場しています。速度によってステアリングギヤレシオを変化させる機構で、低速ではクイックに高速では敏感すぎないゆっくりしたギヤレシオに無段階に変化させるものです。なお、バイワイヤ技術の本領としては、ABSやVSCと云ったブレーキ制御機能とも協調制御されつつ、適宜ステアリングを切り足したり切り戻したりするVDIM(トヨタの場合の呼称:ビークル・ダイナミクス・インテグレーテッド・マネージメント)等として統合制御されるシステムとなっています。
③トランスミッション
従来のMT(マニュアルトランスミッション)をクラッチ機構やスロットル機能と共にECUで制御するものです。これによりATと同様の2ペダルでの運転が可能で、しかもトルコンを持たないのでダイレクトで燃費性能の良い従来のMTでの有利な点が生かされるものです。なお、大型トラックや大型バスでも同様の機構が搭載されたものが採用されています。また、最新のものでは、過日のランエボXやニューニッサンGTRのことでも記しましたが、2組のクラッチ機構を持っているものが登場しています。これは、変速時に予め次のギヤへのシフトを完了させておき、2組のクラッチを切り替えることにより(一方のクラッチを切り一方を継続する)、変速時のタイムラグを極めて短くして高性能化したものです。
これら、バイワイヤ技術の発達には目を見張るものがあります。これら制御が可能となったのは、各機能のハードウェア技術とコンピューター制御のソフトウェア技術の賜物なのだと思います。なお、これら各機能はそれぞれが協調して制御されますが、各制御ECU間はネットワークで通信を行っています。このネットワーク通信のプロトコル(規格)としては様々なものがある様です。しかし、代表的な通信規格としてCAN(Controller Area Network)プロトコルへの統合に向かっている様です。従って、従来は故障の際の自己診断機能の読み出しに、各社別々の診断装置(On Board Diagnosis:OBD)が必要であったものがCANへの統合により、ある程度は共通化出来る様になるものとも予想されます。また、国土交通省では、排出ガス発散防止装置の性能劣化などを検出する高度な車載式故障診断装置の基準などの改正を公示(2006年11月1日付け)しており、新型車ではJ-OBDⅡの装備義務付けが2008年10月1日より適用されるとのことです。