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最新マスプロダクションを眺めつつ思う その1(金型技術の発達)

2022-04-25 | コラム
最新マスプロダクションを眺めつつ思う その1(金型技術の発達)
 我ながら、約40年という間、車両の外観(デザイン)とか性能と云うことより、そのマスプロダクション(量産技術)と云うべき、およそ一般の自動車マニアとは異なる視点で新型車に対する関心を失わないで眺め過ごして来た。そういう中で、今次眺めた、比較的最近販売開始されたトヨタRAV4も眺め、様々な関心を持つ部分について論評してみたい。

 まず、このRAV4だが、そのちょっと前にFMCしたプリウス50のプラットフォームおよび生産設備を使用した車両だとは意識していた。そういう講釈を入庫工場の板金工場主に垂れると、「へーそうなの、それにしては車がずいぶん大きいけど・・・」なんて訝しむ回答があるのだが、事実としてそうなのだ。ちなみに多くの方が知らないし信じられないと思うが、レクサスにGSというISとLSの中間に位置する車種があるのだが、このGSはISのプラットフォームを流用している車両だ。そのことを、だいぶ以前にレクサス店のサービスマンに伝えたところ、「えー、車体の大きさが違うし、あり得ないでしょう」なんて回答を受けたものだが、事実はそうなのだ。つまり、基本プラットフォームは同じで、ホイールベースは違っても、フロアパネル類を延長し、それに合わせその外側に位置するサイドボデーを膨らませることで、拡幅したりして一回り大きな車に仕立てることはできるのだ。
 ちなみにこれによって、メーカーに何の利があるかと云えば、サスペンションアームやクロスメンバーを互換性がある共通部品にして、部品当りの生産ロッド数を増やしコスト低減できることもあるのだが、一番大きいのは前部ストラクチャ(サイドフレームとかその上部のフェンダーエプロン部)を共通化することで、車体前部のクラッシュ特性を、繰り返し衝突テスト数を減じても、確実に同等の性能要件を確保できると云うところにあるのだろうと想像する。これにより、まったく新設計のプラットフォームの新型車であれば、例えスーパーコンピューターでの潰れ特性をある程度予測できたとしても、試作車両を繰り返し衝突テストし、不具合を修正していく作業が大幅に軽減できることで、リードタイムを圧縮し、コスト低減できると云うところにある。

 さて、RAV4からだいぶ話しが逸れたが、プリウス50からトヨタではTNGA(Toyota New Global Architecture)と呼ぶ新しい工法がとりあえずサイドボデーの接合に取り入れだしている。このTNGAの核となる技術として、従来のスポット溶接に変わり、LSW(Laser screw welding)がある。
 このLSWを説明するに前に、従来のスポット溶接とは、銅電極で接合する複数枚の鋼板を挟んで大電流(鋼板で7千A程度)を通電させ、その時鋼板間に生じる抵抗に応じたジュール熱で溶融過熱し接合するものだ。一方、LSWとはレーザービームを照射して鋼板を溶融させるものだが、レーザービームを小さな弧を描く様に照射し、あたかもスポットのナゲット様に局所的な溶融を生じさせることで接合する手法なのだ。

 溶接には、電気の放電を利用するアーク溶接とか、酸素・アセチレンガスの高温を利用して高温を作り出し溶接する手法があり、現在でも厚物溶接にはアーク溶接(MIGやTIGなどがある)が多用されているのだが、これの欠点としては、主に薄物部材の溶接を行った場合、溶接の盛り上がり(ビード)が生じることから、溶接後にそれを研削して仕上げる手間が生じると云うことがある。そこで、マスプロダクション化しひたすら作業効率を重視する場合には、後処理が不要なスポット溶接が多用されてきたという実情があるのだ。

 ただし、スポット溶接の場合、溶接の間隔が短くなると、銅電極間に流れる電流だけでなく、既溶接部を通して流れる電流(これを無効分流と呼ぶ)が大きくなり、短いスポット間隔での打点が困難もしくは強度低下を生じると云うことがある。それと、片面スポットと呼ぶが、電極を挟めない袋状部のスポット溶接においては、十分な加圧力の保持が困難で、十分強度のあるスポット溶接が困難という問題もあったのだ。ただし、新車製造プラントにおいては、個別パーツのスポット接合の順序を工夫するなどして、なるべく片面スポットを行わないで済む工夫を行い、その問題のクリアをしてきたのだと知見している。

 そこで、今次のLSWだが、スポット溶接で云う片面スポットに準じる、溶接部の片側からのレーザービームの照射によるのだが、スポット間隔の短さによる無効分流の問題を除外できるところが利点となる。ただし、電極で挟み込み加圧するという要素がないため、予めパネル間の密着を保証する目的で、ある程度の間隔で既存のスポットを行い、パネル間の密着を確保しておく必用がある。

 今回、RAV4のルーフサイド部を観察して判ったが、既存スポットのナゲット(溶接部の凹部)径は約5Φ程度、LSWの径は8Φ程度と大きく、おそらく溶接打点1点当たりの強度も十分高いものと想像できる。しかも、このルーフサイド部は、場所にもよるが鋼板の最大重ね枚数4枚が接合されているが、これでも十分な溶接強度が保てるということだと理解されるところだ。

 従来レーザービームの溶接というと、テーラードブランク鋼板(板厚差のある鋼板)同士の高品質接合(主にサイド一体成型パネル)に使用されたり、VWでは線溶接として組み合わせパネル間の溶接に利用されて来たが、これだと事故リペアなどで該当パネルの切り離しに、スポットカッター(ドリルエンドミルを平形で切削する器具)での作業が困難ということがあったが、LSWの場合は、従来のスポットカッター(その切削径は考慮する要がある)で可能と云う利点があるだろう。

 なお、ボデーリペアで新部品を溶接接合する場合、予め重ねる鋼板に穴開け加工しておき、その穴を埋め込む様な溶接(プラグ溶接と呼ぶ)を行い接合する。

 最後に、このRAV4も、それ以前のプリウスとかCH-Rについても、世のデザイン評価は決して悪くない様だが、拙人としてはまるで魅力を感じないデザインだと断じているところだ。しかし、そのパネルのチリの狭さとか、微少なうっすらとしたプレスライン加工とか、連続するさほど強くないプレスラインの仕上がり精度というべきものには、目を見張る技術的進歩を感じるところだ。このことは、バンパーカバーと、その内側に嵌め込まれたグリルガーニッシュ類のビッシリした填まり具合と云いい、金型製造技術の精度の高さがあったればこそ、ここまでのプレス加工とか樹脂射出成型ができるのだろうと驚きを持って眺める次第だ。


#現代車の接合技術 #金型精度の発展


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