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最新マスプロダクションを眺めつつ思う その2(指数の矛盾)

2022-04-25 | コラム
最新マスプロダクションを眺めつつ思う その2(指数の矛盾)
 前回、最新型RAV4の左フロントドアの取替という作業過程を見ながら、最新プロダクション技術のことを論じたが、今回はこれの修理についての指数と云うべきものの、極一部に限定した矛盾というものを記して見たい。これは、クルマの事故車リペアのプロの方へ向けたものなので、一般の方には理解し難い点があるだろうがご容赦願いたい。

 そもそも、自動車整備でも事故車リペアにおいても、現在の国交省(過去の運輸省)では、修理費用とは、自己判断での工数ではなく、なるべく客観的な科学的資料を根拠にした工数を前提にし、そこに自社の原価計算に基づいた時間単価(レバーレートとか対応単価と呼ぶ)を乗じて算出しなさいと指導してきているのだ。だから、個人的にこれこれ工数を要したからとか、何ら原価的な根拠ない単価を使用しての料金を請求することを慎むべしという局長通達が出されているのが歴史なのだ。

 そうは云っても、自動車整備やボデーリペアにおけるすべの作業において、客観的な資料がある訳でもないのだが、少なくとも該当する作業は、その様な資料を使用し、ない場合はその様な資料も参考にしつつ、そこから類推するなどして、なるべく客観性と透明性のある修理費用の積算に留意することが求められるべきだろう。

 ところで、日本のボデーリペアについては、損害保険会社が共同出資した(株)自研センターという組織において策定されており、かつてはそれを保険料率算定会という同じく損保の共同出資した非営利法人たる機関が公示していたのだが、何時の間にやらコグニビジョン(旧日本アウダテックス)という一般民間企業が販売権を持ってしまっていると云う不思議さがある。ここでは、そのことは本件の趣旨と異なるので、ここまでとする。

 そこで、この指数だが、事故リペアを前提とした工数に相当(つまり時間)なのだが、指数と呼んでいるのだが、その各種前提条件を見渡すと、色々と不思議だなぁということに気付く。そこで、今回取り上げるのは、前提条件の「車両」に記されている以下の前提条件だ。

車両 1~2年使用(2~3万キロ走行)した車両で、修復歴がなく、汚れや錆び付きは経度の状態の車両

 と云うことだが、一般財団法人自動車検査登録情報協会が公表している平均車齢集計では、平成30年末の乗用車(除軽)では13.2年であるとされており、これは過去最高であり、この平均車齢は近年徐々に高齢化していると記されている。ちなみに同年の貨物車の平均車齢集計では17.7年と集計され、乗用車と同じく過去最高と記されている。

 と云うことを知ると、およそ世の自整業やBP業に事故車として入庫する車両の平均車齢が、1~2年使用などと云うことは、およそあり得ないという話になるのだが、これについて誰も意見が出されていないのだろうか。

 ただ、自研センターの肩を持つつもりは一切ないが、前提条件を平均車齢に置くことは、およそ困難となることが予想できる。つまり、その平均車齢10年を超えると云うことは、車両の程度は千差万別であり、どの状態を平均に置くかということが極めて困難と云うことになるだろう。

 一方、指数は示した様にかなり新しい車両を前提としており、仮に平均車齢に達していなくとも、例えば錆や汚れが多いと云う事故車は前提条件が異なるので、それなりの手当を行うのが妥当と云うべき場合があると云えるだろう。特にボルトが錆び付いていて、空回りして取れないとか、固着していてねじ切れたという場合も想定しなければならないのではないだろうか。

 それと、今回感心持ちつつ見たRAV4は新しい車両だが、ドアパネルはその下方が大きく凹損しているのだが、おそらく交換に際して、ドアレギュレターとかドアロック関係を抜き出すのに、変型したままでは困難なので、ドアアウターパネルを粗切りして作業性を確保したと想定できるのだが、この作業時間は当然のこととしてドア取替の指数には含まれていない。こういう場合、事後であれば当然、ドア取替とは別に該当作業を別計上してしかるべきだし、見積段階でそのことが予見できる場合は、見積に計上することも考慮してしかるべきだろう。しかし、この辺りのことを、特に見積段階で現在の損保調査員たる子供達に理解させるのは苦労するところだろう。

 ついでにもう一つのことを記す。2枚目の写真だが、該当車のリヤドアヒンジ部を写しているのだが、ドア側のボルトが塗装されていなく、亜鉛メッキボルトになっているが、この理由は判るだろうか。

 この亜鉛メッキボルト(場合により黒染め防食ボルト)は、塗装完了後の艤装ラインで、室内の組付けを効率化させる目的で、一時的にドアを外しているためだ。ここで、国産車では、同ボルトはネジ根元がテーパー加工されたセンタリングボルトを使用しており、再度のドア組付けで、何ら留意しないでネジを締めれば、ドアの位置はピタリと合う。つまり、国産車では、ドアヒンジの付くピラー側、ドア本体、ドアヒンジの3点の寸法精度がおそらく±0.5mm程度に管理できているから成立するのだ。

 ところが多くの輸入車(品質に優れると云う独車でも)は、ヒンジとの間にスペーサー(シム)が入っており、ヒンジとボルトの隙間も±2mm程度の調整代を設けてある。ここで、輸入車では、やはり艤装ラインでドアを外し組付け性をよくするためドアを外すが、ヒンジ位置の狂いを生じさせない目的で、ヒンジピンが抜き取れる構造を採用しているのだ。つまり、ボデーやドア個別部品の寸法精度が国産車ほど達成できていないのが多くの輸入車なのだ。

 ここで、輸入車のドア取替を考えてみると、取替そのものはヒンジピンを抜き差しするだけで簡単だろうと思うと大間違いで、そのヒンジ位置はその個別のボデー、個別のドアのバラツキに合わせ、ヒンジ位置と高さ(スペーサー)で調整されているので、新しいドアを組付けヒンジピンを入れてもドアチリが一致する保証はまったくないのだ。

 ここで云いたいのは、単純なドア取替でも輸入車と国産車の場合で、こういう要素の違いがあることを知って欲しいと云うことで記した。

 なお、誤解しないで欲しいのは、輸入車が寸法精度のバラツキが大きいから、その品質が低いとか走りのフィールが国産車に劣ると云うことは、まったく別次元のことで、信頼性はともかくとして、輸入車の特にフィールが劣ると云うことは、特に独車に限ればまったくない。

#指数の矛盾 #前提条件の新しい車両と平均車齢の大きな格差


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