DCT(ディアル・クラッチ・トランスミッション)を採用した国産のクルマが昨年2車種が発売になっています。ランサーエボリューションXとニッサンGTRです。なお、海外では既にVW・アウディ系車で採用されています。
何れも2組の湿式多板クラッチを持ち、トランスミッション機構は基本的に従来のマニュアルトランスミッション(MT)と同様のギヤ機構を持つものです。トルコンは使用していませんので、伝達ロスは従来のMT車と同等であり、しかも湿式多板クラッチで従来のMT車の乾式単板クラッチより耐久性も高いと想像されます。また、2組のクラッチを切り替えることにより、予め次段への変速を済ましておき、実変速では単に2組のクラッチの切り替えるだけで極短時間にシフト操作が完了しますし、変速時にほとんどスロットル戻す必要もありません。この様に、従来のトルコン式ATを凌ぐ有利な点を持っています。若干心配なのが、発進時のスムーズネスさがどの程度であろうかという点ですが、これは今後の制御ソフトウェア次第で、相当に改善が期待できると想像されます。よりダイレクト感を追求したスポーティーカーのみならず、省燃費とイージードライブを両立しつつ追求できるメカニズムであろうと感じます。従って、今後の他メーカーでも採用車種は増加して行くものと想像されますし、ATMの代名詞であったトルコンを一定程度は駆逐していくものと想像しています。トヨタ系のMTメーカーであるアイシンAI等は、今や必死になって開発を進めているものと想像されます。
今回のランサーエボリューションのものは独ゲトラグ社製ですが、GTRものは愛知機械製です。(共にクラッチ部分はボルグワーナー製)愛知機械は、かねてからニッサン系のMTを製造していたメーカーですが、過去にはコニーという名称のクルマを製造していたこともあるメーカーです。そして、もっと過去の大戦中には、熱田エンジンを製造していたメーカーでもあります。ダイムラーベンツ製のDB601という液冷倒立V12型エンジン(34千cc、1100HPでメッサーシュミットBf109に搭載)をライセンス生産したものですが、当時の日本の工作技術では、十分な性能を発揮することができなかったと伝えられています。このエンジンは、倒立V12でシリンダーヘッド側が下面になる水冷エンジンで、当然にドライサンプ潤滑、オールローラーベアリング軸受け、流体継手式の二段スーパーチャージャー、シリンダー直接噴射と非常に凝ったエンジンであった様ですので、無理もなかったことと想像されます。熱田エンジンは海軍系の「彗星」という機体に搭載されていましたが、結局後期型では空冷星形エンジンに換装されてしまった様です。面白い話ですが、このダイムラーベンツのDB601のライセンス生産は、陸軍系の「飛燕」という機体にもライセンス品が搭載されましたが、こちらは川崎重工製であり、愛知機械と川崎重工では、それぞれ別々にライセンスを買い取った様です。陸海軍の不仲を示す逸話とも感じられる話です。
※熱田エンジンのことは、過去の紀行文内の「2005/09/04ゼロ戦のこと」でも写真と共に若干記しています。