クルマの事故は、人、車、環境の三要因によると云われている。この内、クルマそのものに内在する欠陥に起因するものは、リコール対策などの処置で対応はなされるとはいうものの、その根源はエンジニア(設計者、整備者など)の良心に掛かっていると思うのだ。このことは、東北震災でチェエルノブイリを越える壊滅的破壊を生じ、未だに対処的対策などに莫大なコストを投入しつつも、明確な安全性など打ち出せないままでいる原発でも同様の事象が多分いに内在していると感じることだ。
さて、クルマの話しに戻す。今から14年前、2002年1月に横浜市で走行中の三菱ふそうの大型トラクタから脱落したタイヤが、歩行中の母子を直撃して母親が死亡した事故は、その後の三菱社およびふそう社の一連のリコール隠し問題に発展し、大きな社会的関心を生み出したものだった。ここでは、この三菱リコール隠しの端緒となった、大型トラックのタイヤ脱落事故について、何故生じたのかを書き留めてみる。
一般に乗用車でも貨物車でもタイヤ脱落が生じる事例は、タイヤ(ホイール)をハブに止めているハブボルト(もしくはナット)の締め付けが緩く、ボルトの緩みによるボルト軸部の剪断荷重からボルトの折損に至る場合が第一に想像される。もしくは、その車軸(前輪であればナックル・スピンドル)に折損を生じた結果も想定されることだが、ふそう車のタイヤ脱落では、そのどちらでもなく、ハブのフランジ部に円周上に亀裂を生じ、タイヤ、ハブフランジ、ブレーキドラムという一連部品が一体で脱落してしまうという現象が起きたのだった。
当時、事故後の様々なメディアが伝える記事からは、ハブとホイールの当たり面に摩耗を生じているものがあり、これが事故原因に結び付いたかの様な説明もあったものだ。これは、自動車の構造とか整備の知識を持った者からすれば、そんな部分に摩耗が生じることは通常考えられないがと、首を捻りつつ奇異な報道だと聞いた記憶がある。その後、調査の進展に連れ、ふそう社の大型車用のハブとして、A~F型までのモデルが次々に改変して作られていたことが判明するのだ。このことは同社が同ハブの設計寿命の短さ(疲労寿命の短さ)を認識し、フランジ部の肉厚を厚くするなどの改変を行っていたことが伺われることなのだ。しかし、ブレーキドラムとの互換を取る必要上(ハブだけの交換で対策費用を圧縮したいということ)、フランジ付け根の角(すみ)Rを、より大きくするなど根本対策は取られることなく、D型ハブでは返って疲労寿命を短くしてしまった様なのだ。これは想像の交えた仮定の例だが、大型トラックでは走行100万キロ超のクルマも珍しくはない。そこで、設計する場合には、十分な余裕も見込み、累計走行400万キロに相当する繰り返し荷重での疲労寿命を見込んだ機械的な強度計算を持って望むのが、設計者の良心というものだろう。
考えて見れば、前輪車軸となるスピンドルは、特殊鋼の型鍛造で製作され、表面硬化などの熱処理も施し、高い機械的強度と疲労強度を持たせている。そして整備の際にも、亀裂検査など十分な検査が行われるのが当然とされている。一方、スピンドルにベアリングを介して組み合わされるハブは、鋳造製であり宿命的に内部に欠陥を内在する可能性も高く、素材の粘り強さも特殊鋼には到底及ばない強度しか見込めないものだ。従って、設計的には、肉厚を厚くするなど、素材の強度不足を補う設計がなされる。なお、整備の際では、特別摩耗を生じる部品との意識は薄く、余程の大きな亀裂でもない限り、見落としてしまうものであろう。
車両メーカーでは、鋳鉄製ハブの強度を十分低いものとして見積もり、素材の肉厚を十分取るなどの設計によって、車齢を十分まっとうする疲労強度を持たせる責を負うのだが、再検証によれば最終のF型ハブでも一部車種では100万キロを遙かに下回る疲労強度しかなかったというのが現実だった様だ。このことは、担当設計者および責任者などエンジニアが、小手先の改変により、如何に会社の損失を小さくさせたかったかということを示すことだ。つまり人命より企業利益優先ということであり、そもそもエンジニアとしての良心がなかった判断せざるを得ない、極めて悲しい現実を示しているのだ。
なお、大型車のハブ破損問題では、ふそう社だけが問題化した訳だが、コスト的問題があるのだろうが、そもそも論としては、乗用車と異なり負荷の著しく大きな大型貨物車等では、ハブも特殊鋼の型鍛造製とするなどの根本的対処が必用ではなかろうかと感じる次第だ。
さて、クルマの話しに戻す。今から14年前、2002年1月に横浜市で走行中の三菱ふそうの大型トラクタから脱落したタイヤが、歩行中の母子を直撃して母親が死亡した事故は、その後の三菱社およびふそう社の一連のリコール隠し問題に発展し、大きな社会的関心を生み出したものだった。ここでは、この三菱リコール隠しの端緒となった、大型トラックのタイヤ脱落事故について、何故生じたのかを書き留めてみる。
一般に乗用車でも貨物車でもタイヤ脱落が生じる事例は、タイヤ(ホイール)をハブに止めているハブボルト(もしくはナット)の締め付けが緩く、ボルトの緩みによるボルト軸部の剪断荷重からボルトの折損に至る場合が第一に想像される。もしくは、その車軸(前輪であればナックル・スピンドル)に折損を生じた結果も想定されることだが、ふそう車のタイヤ脱落では、そのどちらでもなく、ハブのフランジ部に円周上に亀裂を生じ、タイヤ、ハブフランジ、ブレーキドラムという一連部品が一体で脱落してしまうという現象が起きたのだった。
当時、事故後の様々なメディアが伝える記事からは、ハブとホイールの当たり面に摩耗を生じているものがあり、これが事故原因に結び付いたかの様な説明もあったものだ。これは、自動車の構造とか整備の知識を持った者からすれば、そんな部分に摩耗が生じることは通常考えられないがと、首を捻りつつ奇異な報道だと聞いた記憶がある。その後、調査の進展に連れ、ふそう社の大型車用のハブとして、A~F型までのモデルが次々に改変して作られていたことが判明するのだ。このことは同社が同ハブの設計寿命の短さ(疲労寿命の短さ)を認識し、フランジ部の肉厚を厚くするなどの改変を行っていたことが伺われることなのだ。しかし、ブレーキドラムとの互換を取る必要上(ハブだけの交換で対策費用を圧縮したいということ)、フランジ付け根の角(すみ)Rを、より大きくするなど根本対策は取られることなく、D型ハブでは返って疲労寿命を短くしてしまった様なのだ。これは想像の交えた仮定の例だが、大型トラックでは走行100万キロ超のクルマも珍しくはない。そこで、設計する場合には、十分な余裕も見込み、累計走行400万キロに相当する繰り返し荷重での疲労寿命を見込んだ機械的な強度計算を持って望むのが、設計者の良心というものだろう。
考えて見れば、前輪車軸となるスピンドルは、特殊鋼の型鍛造で製作され、表面硬化などの熱処理も施し、高い機械的強度と疲労強度を持たせている。そして整備の際にも、亀裂検査など十分な検査が行われるのが当然とされている。一方、スピンドルにベアリングを介して組み合わされるハブは、鋳造製であり宿命的に内部に欠陥を内在する可能性も高く、素材の粘り強さも特殊鋼には到底及ばない強度しか見込めないものだ。従って、設計的には、肉厚を厚くするなど、素材の強度不足を補う設計がなされる。なお、整備の際では、特別摩耗を生じる部品との意識は薄く、余程の大きな亀裂でもない限り、見落としてしまうものであろう。
車両メーカーでは、鋳鉄製ハブの強度を十分低いものとして見積もり、素材の肉厚を十分取るなどの設計によって、車齢を十分まっとうする疲労強度を持たせる責を負うのだが、再検証によれば最終のF型ハブでも一部車種では100万キロを遙かに下回る疲労強度しかなかったというのが現実だった様だ。このことは、担当設計者および責任者などエンジニアが、小手先の改変により、如何に会社の損失を小さくさせたかったかということを示すことだ。つまり人命より企業利益優先ということであり、そもそもエンジニアとしての良心がなかった判断せざるを得ない、極めて悲しい現実を示しているのだ。
なお、大型車のハブ破損問題では、ふそう社だけが問題化した訳だが、コスト的問題があるのだろうが、そもそも論としては、乗用車と異なり負荷の著しく大きな大型貨物車等では、ハブも特殊鋼の型鍛造製とするなどの根本的対処が必用ではなかろうかと感じる次第だ。
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