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ルポルタージュ・損害調査員 その18【仕事を引き受ける良識(ある事故鑑定人の話しから)】

2022-07-06 | コラム
ルポルタージュ・損害調査員 その18【仕事を引き受ける良識(ある事故鑑定人の話しから)】
 これは従前まで何度か当ブログにも内容を紹介させて戴いている、Y鑑定人から最近聞いた話しとして紹介したい。
 今から20年ほど前のことらしいが、ある日突然その鑑定人のお宅へ当時はさほど有名でなかった某企業の若手社員が交通事故の鑑定をお願いしたいとの訪問を突然の様に受けたと云う。何事かと訝しみつつ話しを聞くと、さるべき企業の社長さんのご令嬢が、会社の前で横断歩道を渡っている時にひかれて死亡した事故なのだといいつつ、とにかくこの場所の担当弁護士事務所へご足労願いたいと、往復交通費を置いて頼み込んで帰ったと云うのだ。

 Y鑑定人氏は、訝しみつつ、まあ新しい発見があるかもしれないと、約束の日に東京から100キロ程のその地におもむき、当該弁護士事務所を訪ねたという。そこで、担当の弁護士氏は、良く来て下さったと、早速参りましょうとその弁護士の運転する自動車で、当該企業の社長室を訪れたのだという。

 そこで、事故状況をたずねることになるのだが、かなり広い国道を挟んで当該企業の社屋が道の両側にあり、そこには信号付きの横断歩道もあるのだが、ある日社長の令嬢が、社用で社屋間を移動するため、横断歩道用の信号を守って横断中に、国道を走行していた乗用車が何らかの理由で発見が遅れたのだろう、止まり切れず令嬢をはね死亡させた事故だと云う。

 ここまで聞いて、と云うことは相手は横断歩道用の信号機を見落とすなり過失があったのことを認めて居るのですね?とたずねると、その通りとの返事と共に、相手は足が不自由で身体障害者用の車両(おそらく片手でハンドルを回し、もう一方の手のレバーで減速加速の制御をする装置が付いた車両だろう)だったのだ。なんとか鑑定できるかねというのが当該社長の言葉だったそうだ。つまり、当該社長にして見れば、賠償金を多くとかは考えていないだろうが、そういう身障者が自動車に乗って、娘をひき殺され、許せんと云う思いだと云うことが伝わったという。

 ここまで聞いて、Y鑑定人は、お聞きした事故は誰が見ても聞いても、その運転車が100%過失で悪いことに争いはないでしょう。なお、身障者だからと云うことですが、身障者でもそれなりの自動車に使用することで、国家が免許を与えているんですから、それを持って責任が加重される何てことはあり得ません。私共交通事故鑑定とは、あくまで客観的な事故状況等の調査や思考によって、事実関係を明らかにするのが業務であり、お聞きした内容では鑑定などお引き受けすることはできませんと断ったと云う。

 そんなやりとりの中、チラリととなりの弁護士氏の表情を伺うと、そうだろう、そうだろうと頷いていたという。そこからの帰り、当該弁護士が駅まで送ると云うのを、せっかくここまで来たのだからその辺をぶらりと見て適当に帰りますと云うことで別れたと云う。

 この後日談があって、それからしばらく経て、交通事故鑑定の同業を名乗るここではA氏としておくが、この事故の鑑定を引き受けたと云うことを人づてに耳にしたと云う。Y鑑定人とA氏の関係だが、Y鑑定人としてはどうでもいい程度の意識しかないのだが、従前からA氏がY氏を頼っていろいろ解析技法のことで知識を得ようと接触してくるので、渋々ながら付き合って来たという程度の方だという。この事故をAが引き受けたと聞いて、正に節操のないAらしい話しだと思ったと云うのが今回のY鑑定人の仕事を引き受けるプロとしての良識として聞いた内容だ。なお、この某企業だが、今や大発展を遂げ、全国主要都市に大型店舗を持つ量販店になっている有名企業だという。

 これを聞いて、自整BP業や調査員(アジャスター)にもいるが、相手の要望があり、それが金だけでなく自己のメリットになると思えば、節操も何もあったもんでなく、引き受ける場合があることを想像しつつ、幾らかはその様な場面を経験してきた。つまり、故障とか不具合でもないのに、顧客が故障だ不具合だと云うから修理なりを引き受けるというパターンだろう。だいぶ以前のディーラーサービスマン時代だが、そういう軽はずみなフロントがいて、こんなの故障じゃないよと、私が説明するとお客さんと一緒に車に乗りこうなんですよと説明することが度々あったことが思い出される。
 これは、損保と関わりだしてからも、代理店とか事故受付段階で、過剰に契約者に期待を持たせる様な話しをしてしまうと、その後の解決が苦労するのだ。


#ルポルタージュ・損害調査員 #仕事を引き受け段階での良識


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