本日、日本F1グランプリが終了しました。残念なことに、トヨタやホンダ共日本メーカーは、やはり勝てませんでした。過去に全盛時代を築き、それなりのノウハウを保持していると思われるホンダでさえ、再参戦し出してからの成績は鳴かず飛ばずの状態が続いています。また、トヨタは今やGMを超える世界最大のカーメーカーとなることが確実視されている中で、相当な資金を注ぎ込んでいるはずなのでしょうが、全然勝てません。レースに勝利するには、当然に人・物・金の問題があるのでしょうが、この内の何かが欠けているのが現状なのでしょう。
さて、現在のF1マシーン(に限らずプロトタイプレーシングカーの多く)のメインモノコックにはカーボンファイバーを使用した素材(カーボンコンポジットマテリアル:炭素繊維複合材)の一体成型品が使用されています。レーシングマシーンの車体の歴史としては、各種パイプ状の鋼管をトラス状に組み合わせたフレーム構造(いわゆるスペースフレーム)から始まり、各種アルミ板を組み合わせてボックス断面としたモノコック構造へと変遷して来ました。そして、現在の主流となるカーボンファイバーによる一体成形のモノコックへと至っています。なお、カーボン素材については、当初は従来のGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)を、単にカーボン繊維に置き換えたもの(CFRP:通称ウェットカーボンと云う)でした。現在主流となっているカーボンコンポジット材は、カーボン繊維と熱硬化性樹脂をオートクレーブという釜の中で高温・高圧で焼成させたもの(通称ドライカーボンと云う)であり、より比強度を高めています。
伝え聞くレーシングカーの安全性について、カーボンコンポジット材が主流となってから、衝突安全性が著しく向上し、レーシングドライバーの死亡事故や足の骨折といった負傷が大幅に低下した様です。如何にカーボンコンポジット材が、高い破壊強度や高剛性を有していることが判る事例と思います。それでも、レーシングドライバーとは、アイルトンセナの死亡事故の例を出すまでもなく、常に死と隣り合わせの職業であることに変わりはないのですが。
市販車でのカーボンコンポジット材の採用ですが、メインモノコックへの採用例は、いわゆるスーパーカーの世界(その中でも取り分けスーパーなクルマ)だけに限られます。フェーラーリ社で云えば、F40(ウェットカーボン)、F50およびエンツォ(ドライカーボン)だけです。それ以外の他社では、マクラーレンF1(ウェットカーボン?+アルミハニカム)、メルセデスベンツSLRマクラーレン(ドライカーボン?+Frアルミサブフレーム)、ポルシェカレラGT(ドライカーボン?)等の極少ないクルマが採用車です。
ところで、これらカーボンコンポジット材の基礎材料となる炭素繊維の素材メーカーですが、日本のメーカー(東レや三菱レイヨンといった10社に満たない企業群)のシェアが世界的に圧倒している様です。ですから、各F1メーカー(コンストラクター)共に、日本製の素材を入手して使用しているはずです。昨日記した、国産支援戦闘機F-2の主翼のカーボンコンポジット材一体成形の件についても、先端技術の独占?を恐れた米国の圧力から、日米共同開発となった経緯もある様子です。また、ボーイング社の次世代中型旅客機である787型機(2008年5月就航予定)の生産が既に開始されている様ですが、カーボンコンポジット材を中心とした日本企業の協力も欠かせないものとなっている様子です。
最後に、クルマにおけるカーボンコンポジット材の修理性のことを記してみます。基本的にウェットカーボンまでは、従来のGFRPと同様な修理が可能と想像されます。しかし、ドライカーボン材では、表面的なキズの復元はともかく、内部まで達する深いクラックや凸部の欠落等が生じた場合の修理は、その強度を含めた復元は困難となるものと想像されます。
また、カーボンコンポジット材で塗装仕上げされている部位は、カーボン特有の編み目状の模様が塗膜表面に表出されています(フェラーリF50等顕著に観察されます)が、単にパテ付けしたのではこの編み目状の塗膜面を復元するのは困難なことだと思います。この辺りのことは、またの機会に記して見たいと思います。
参考リンク
・炭素繊維協会
・(株)童夢カーボンマジック ※ご存じ、林みのる氏が経営する日本のレーシングコンストラクター
追記
BMWのニューM3(E90)がデビューしました。ルーフパネルにカーボンコンポジットパネルが採用されています。しかも、カーボンパネルであることを誇示する如く、ルーフはクリアー塗装仕上げ。V8・4,000cc、420ps/8,300rpmですから、走るでしょうね。しかし、価格は996万円也、とても手が出ません。