私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

プリウスそしてトヨタデザインのグループシンクを解く

2022-12-28 | コラム
プリウスそしてトヨタデザインのグループシンクを解く
 トヨタプリウスが発表され、年明け早々には納車が開始される様だ。このプリウスだが、初代からだと25年以上、2代目(20型)以降でも次年で丸20年を経るという車種だが、この道40年を超える自動車論者として、いささか長文となるが種々云いたいところを記してみたい。

1.プリウス20型移行の変遷
 トヨタのプリウスが既に新型(60型となるのだろう)が発表され、年明け早々には販売が開始されるらしい。おそらく、既に製造ラインの切り替えはほぼ完了し量産試作も始まっているからこそ、世界各地で試乗車が公開されているのだろう。

 ここで、プリウスの20型から60型まで(40型はαでワゴンタイプなので除く)の4車種のサイドビューをほぼ同じ縮尺で並べてみた。製造年は20型が2003年だから、次年2023年となるのだから、20年ほぼ細部デザインは違えども、外形の大きな違いはないまま20年も作り続けて来たと云うことに驚く。この相似形のサイドビューデザインの特徴は、まず急傾斜のフロントウインドガラス、サイドビューでは判り難いが、フロントウインドは左右フロントピラー側でラウンドしていない平面に近い形状だ。リヤの形状だが、正にセダンと云うよりクーペスタイルのハッチバックドアという構造もまったく同じだ。

2.新型(60型で気づく変更)
 もう少し細部を眺めると、最新と云われる60型だが、リヤドアの後部を伸ばし、リヤフェンダーを覆う、ワンボックス車に多いヒドンフェンダー構造を採用しているのが判るのと、正確な寸法までは計測していないが、ドアベルトラインが高く、グリーンハウス(室内ガラスに囲まれたエリア)ハイトが縮小された、米国のカスタムカーで時々見るチョップドトップ(各ピラーを短くしてルーフを下げる)にしている様に見える。実寸として全高が低くはなってはいないと想像できるから、ベルトラインを上げ、グラスハイトの比率を下げているのだろう。この狙いは、概観デザインもあるが、側面のサイドポールインパクト性能を睨んだのではないだろうか。

 それと、サイドミラー(ドアミラー)の装着位置だが、30型だけがドアパネル側に付くが、その他はドアベルトライン上のガーニッシュに付く。このことは、運転者の頭部基準高さが、30型が数センチの差だろうが、もっとも高い設定になっていると想像できる。それと、欧州車でベンツやBMWでも、ミラーがベルトモール上に付くクルマが多く、ドアパネルに付くクルマは比較的少ないのだが、実のところ空力とか風切り音上は、ドアパネル側に付け、ミラー本体とドアパネルを離した方が有利なのだが、この構造は、ドアパネルに付くように見えても、実はその内側に位置する厚板のリインフォースメントに装着する必用があったり、構造やパーツ数が増えることでコスト上不利となるのだ。

 なお、30型から50型にモデルチェンジされた際、リヤサスペンションがそれまでのツイストビーム式(リジットサスの一種)から完全なIRS(インデペンデェントリヤサスペンション)に変更されたのと、新型ボデー(TNGAと称する)を採用する第1号車だと喧伝され、一部だがLSW(レーザースクリューウエルディング)接合とかホットプレス材の採用が喧伝されたのだが、新型60では何れも使用しないで、従来同等以上の剛性もしくは破壊強度を確保したという広報がなされている。

3.プリウスでの長期車両コンセプト維持と、車両コストへの執着
 ここからは、実際にこれら各車のボデー構造を明細に観察していないので、確たる証拠もないあくまで想像だが、この20年間の4世代車間で、まったく同一のプラットフォームを踏襲しているとまでは思っていないが、相当な共通部品がある構造だろうと云うことは想定できる。これは、外板のことではなく、内板でも、例えば、前後サイドメンバーのリインホースメントとか、フロア下面のアンダーリインホースメントとか、上面のフロアクロスメンバーなどの大物と云うより比較的小さい補強部品のたぐいだろうと思える。そもそも、こういう小物部品は、生産プラントでプレス加工して作ることは、多くの車両メーカーでも希で、協力工場の比較的小型プレスマシンと比較的小さいプレス型で作らせている場合が多い。また、フロアパネルなど大物部品とかサイドフレームの全形を形作る大物パネルも、細部の形状は違えども、基本形状は同一で、要するにCAD図面の一部として寸法形状を変更したり、ボルトやクリップの止まる位置や数を変更したりの小変更で済ませていると云う想像ができるところだ。

 なぜ、フルモデルチェンジしても、なるべく旧部品の流用とか一部変更しての転用をするかと云うことだが、これは設計や金型製造のコスト対策もあるが、まったく新型新設計でまるで異なる内板構造ボデーとなると、幾らスーパーコンピューターで予測計算するとしても、実証実験を繰り返し、の問題を試作段階で繰り返し潰していくリードタイムはバカにならないコストを要するからだ。それが、一定互換部品を流用したり転用することで、最低限の目標要求を満たすことは極めて容易となるということが予測されるし、量産生産においても、プレス型が流用できるだけに限らず、該当溶接治具も互換を持つので、量産ラインの変更も少なくできる。

 そもそも、この20年を振り返ってみれば、カタログなどの謳い文句はともかくとして、開発資源として投入するコストは、ハンドリングやコーナリングスタビリティ(安定性)という要素は希薄化しつつ、ASV関係に代表されるハードウェアのブラッシュアップと云うより、ソフトウェア制御の開発を主眼としたコスト配分となっていることは明かだろう。このことは、製造物の故障発生率が、初期が高く、その後安定期に入り、そして寿命を迎えて後期発生が上昇するバスタブカーブ(風呂桶型曲線)を描くことは旧来から知られているとことだが、本来耐久テストを十分やっていればまず発現することないリコールが増大しているという事実からも類推することができる。つまり、現在の新車開発における評価というのは、テストドライバーの官能試験に頼る人物時間を要する試験を省略し、シミュレーション試験などで済まされ、多くの場合は、ソフトウェアの制御たるパラメーターとかアルゴリズムの変更という手法で解消しているという事例が、そのことを傍証していると見ているところだ。

4.トヨタを覆うグループシンクの傾向
 このプリウスだが、現代車の抱える悪質デザインの集大成を成し遂げた車種だろうと見ている。その割には、その思いはまったく私の私見で、トヨタの業績は向上し、世界No1企業となっているのだが、何れはホンダの藤沢武雄氏が繰り返した「万物流転」の法則がある限り、未来永劫はあり得ない。

➀急傾斜フロント平面ガラス
 この欠点は過去に何度も記して来た。右前方の視界の悪さ。晴天逆光下でのガラス表面反射による前方透視の欠如。大した降雨でなくとも、雨滴の滞留による水膜の厚さで、ワイパー吹き払いするものの前方視界の悪化。室内側からフロントガラスまでの距離が遠く、運転席に座ったままでは手が届かず、汚れの除去が不能など、その欠点を上げたらキリがない。そもそも、もっとスポーティな86でさえ、この様な急傾斜フロントガラスにしていないのは、タイトコーナーなどでの前方視界の悪さを知るからだろう。

②正にクーペも見まがうリヤ傾斜
 これの欠点も上げたらキリがない。平面近い上下高さがないリヤインドラスは汚れ埃が堆積しやすく上下高さがないことも相まって後方視界が極めて悪い。後端部が運転席から見える訳でもなく、そもそも車両の後方限界が超音波センサーなどない素の状態として悪すぎる。そもそもリヤハッチ車は、リヤシートバックに位置するべきバルクヘッドがなく、一般セダンにより捻り剛性が低下し易い。また、ルーフはほとんど平面部がなく、後席乗員のヘッドクリアランスを稼ぐため、シートクッション座面を下げるしかない。また、タクシー車に転用する場合にしばしば不評を受けているが、後席ドアから乗り込むに際し、ドアが狭くルーフが低いこともあり乗り込み難い。そもそも、こういうクーペスタイルが成立する車種は、2ドアスポーツ車だけだと確信している。

③クループシンクの惹起
 フロントガラスの急傾斜は世界的にプリウスなみなのはスーパーカーに類する車種程度なのだが、後部の旧来のノッチバックスタイルは、ベンツやBMW、そしてプリウス以外のセダンタイプ車にも広範に普及した。車両のデザインにも流行廃りがあるのだが、トヨタも含め、他者のヒットデザインを真似るという、いわば無難なグループシンクと云うべき思想が蔓延しているのは間違いないところだろう。そして、そのグループシンクがもっとも酷い企業が、世界No1のトヨタという企業なのだろうと思っている。

 確かにプリウスという車種は、燃費の良いこともあり、平均購入者の年齢層は、決して低くはなく、田舎の極普通の堅実な暮らしをしている方の車庫に保管されている場面を見る場合も多い。そういう方が、決してスポーティなスタイルを好んで購入しているとは到底思えない。そういう中で、こういう車両デザインとしては、コンベンショナルセダンとは異質な車が保管されている奇異な姿を見て、失笑を繰り返しているのだが、つくづく思うのは、日本人の価値感とは、評価尺度に自分がないとうことを表していると理解しているところだ。つまり、人が世間が良いと思うものを良いと隷従する気質そのものが日本の悪習たるもので、これは消えることはないのかもしれない。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。