現代車は、ほぼ100%エアバッグは標準装備されているが、そもそも自動車整備関係者でも道路運送車両法の保安基準で、エアバッグの義務付け装着は規定されていないことを意識する者は少ない様だ。
では、何故にこれ程普及したのかだが、各国の交通局に当たる機関(日本だと国交省の下部組織で、独立行政法人・自動車事故対策機構(NASVA)でJNCAPとして試験し、その評価が公開される様になっているからだ。もう少し細密に補足すれば、衝突車内でもっとも生死に関わるHIC(頭部障害)の値は、1000で脳震盪状態で、これを越えると死亡の確率は極めて高まる。エアバッグ装備より、HIC値は大幅に低減できることから、事実上付けずにいれない装備となっているのだ。
それと、この記事で注目してもらいたいのは、エアバッグとベルトテンショナーは一見同時に作動している様だが、その有効衝突速度としての作動要件が、ベルトテンショナーの方が、5km/h小さいと云うことだ。つまり、実事故では、極短時間の出来事で、同時作動している様に見えても、先にベルトテンショナーが作動し、続いてエアバッグが作動するという順序となる。だから、衝突の具合によっては、ベルトテンショナーだけ作動して、エアバッグは作動しないという事態もあり得るのだ。
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(元記事2000年7月4日記)
相当以前に記した記事で今更の感を持つところもあるが、知っていて当然の知識として再掲してみる。
1.プリテンショナーが作動してエアバッグが作動しない疑問
そもそも、この記事を記すことになったのは、ある配下から以下の質問を受けたことによる。実地検分したトヨタ車(レビンAE110系)において、左右前席のシートベルトプリテンショナーは確かに作動しているのだが、運転席および助手席のエアバッグが作動していないという。こんなことがあり得るのであろうか? もしや、エアバッグの不発ではないか? 不発だとすれば(作動していない)エアバッグを交換した方が良いのではないか? といった内容であった。
2.トヨタ系板金内製工場長の話
そこで、某県のカローラ店系のBP内製工場長より聴取した所、プリテンショナーのみ作動してエアバッグが作動していないという今回質問のケースは、同工場でも過去にも経験しているとのことであった。この場合、左右プリテンショナーおよびセンターエアバッグセンサー(ECU)を交換したとのこと。
3.トヨタ新型車解説書より
手元にあったプリウスの新型車解説書を確認したところ、関係ページに以下の記述がある。つまり、この内容からも、プリテンショナーの方がエアバッグに比べ作動の速度条件が低く設定されており、本件質問のケースは正常作動として十分にあり得ることと判明した。
※この図の下欄においてまったく動かず変形しないコンクリート壁とはバリア衝突のことだ。それに対し、同重量の停止車両の速度は2倍になっている。つまり、衝突相手物が∞大の場合と、同重量同士の衝突では、速度が倍になっても、減速度は同一となることを示している。この概念は、同重量への衝突で速度が倍になるが、バリア換算速度は等価ということを示す。このことは、重量差の衝突において、極めて重要な事項となる。