私の思いと技術的覚え書き

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熱交換器の話

2011-05-17 | 事故と事件
 熱交換器の話を記してみましょう。
 前半は、詳しいつもりのクルマに使用されているラジエーターとかクーラー用コンデンサーなどと関連することについてを記してみます。また、後半は詳しくないですが話題の原発用の熱交換器のことについて、知る範囲のことを記してみましょう。
 クルマの内燃機関は、消費する燃料エネルギーが持つ30%弱(ガソリンエンジンの場合、ディーゼルではもう少し高い)しか運動エネルギーは取り出せません。ですから、残りの70%強は廃熱エネルギーとして放熱してやらないと、オーバーヒートを生じて継続した運転ができません。ですから、エンジンで燃焼した余熱を、ラジエーターと呼ばれる熱交換器とエンジンとの間を。冷媒と呼ばれる冷却水を循環させ、熱を移動することによって、空気への放熱により冷却しているのです。
 クルマのエンジン冷却用冷媒としては、現在LLC(ロングライフクーラント)というものが使用されています。これはエチレン・グリコール系の溶剤を水で希釈したもので、これにより寒冷時の凍結や、冷却機構内部の腐蝕を防止しています。
 昔のクルマでは、夏場は通常の水を使用し、氷点下以下になる寒冷時のみ不凍液という冷媒に入れ替えて使用していました。この様な理由で、粘土の高い不凍液を入れっぱなしにして夏場にオーバーヒートを生じたりすることがありました。また、河川水を長期間入れっぱなしで使用したクルマでは、ラジエーター内部とかエンジン配管に使用された金属配管に腐蝕が生じて水漏れが生じたり、スケールという錆と湯垢によりラジエーター内の水管と呼ばれる細い管に詰まりを生じてオーバーヒートを生じるトラブルもあったものです。
 運転中の冷却水温度は昔は80度C程度が適正だったと思います。しかし、最近のクルマでは、若干高めに設定されている様に思われます。冷却水は温度が上がると膨張しますが、ラジエータキャップという冷却水の注入口には、加圧弁機構を持っており、0.8気圧+α
程度までの加圧がなされる仕組みになっています。この加圧力が、最近のクルマでは高めに設定される傾向が伺わる様です。
 この加圧機構により、オーバーヒート気味で100度Cを超えても冷却水は沸騰せず、その様な局面においては、温度差が大きい故に高い冷却性能を発揮できるのです。但し、配管中に使用されているラバーホースなどは経年劣化による亀裂だとか硬化により、破裂などの損傷を強いてしまうことがあります。また。ラジエーターの水管の上下(一般的ラジエーターの場合、サイドフロータイプでは左右)にはタンクと呼ばれるラバーホースの接続口が装着されるく部位があります。これが昔は金属(黄銅製)だったのですが、現在は樹脂素材(ナイロンとかPP系樹脂)になっていますが、古くなって樹脂が硬化などの劣化を起こしている場合、破裂する事例を見ることもあります。
 もう一つの、クルマ用熱交換器としてコンデンサーのことを記してみましょう。
 これは、エアコン用のクーラーシステムとして、冷媒にフロン(従来はR12でしたがオゾン層に悪影響ありとしてクルマ用としてはR134aに変更)を使用したものです。クーラー用コンプレッサーで圧縮されたフロンは、熱交換器たるコンデンサー内の通路を通り、空気によって冷やされて液化します。液化した冷媒は、室内のエバポレーターと呼ばれる熱交換器の入り口にあるエキスパンションバルブと呼ばれる細く絞られた通路を通過しつつつ、続くエバポレーター内の広い空間に噴き出されることにより気化し、気化潜熱という原理により廻りの熱を奪い冷やされます。この冷えたエバポレーターをファンによる空気を通過させることにより冷風を作り出しているのです。
 クーラー機構の故障としては、コンデンサーの装着位置が車両最前部ですから、事故により物理的損傷を受けることは比較的多いものです。また、コンプレッサーは、入力回転軸を持っているが故に、シール機構がありますが、この摩耗や劣化により冷媒ガスが漏れてしまうというケースは、比較的多いといえるでしょう。その他、エキスパンションバルブの詰まりや、冷媒中に水分が入っている場合の氷結、エバポレーターの構造的な漏れの多発する車両(いわゆる製造欠陥でしょう)があったことが思いだされます。
 さて、原発の熱交換器というか冷却系のことを判る範囲で少し記してみましょう。
 熱効率としては、クルマ(ガソリンエンジン)より、ちょっとだけ高いでしょうが、やはり3分の2程度は廃熱として熱交換器を通して放熱しているのです。
 しかも、たちの悪いことに、制御棒を全挿入し核分裂反応を止めた”停止”呼ばれる状態にしても、燃料自体が放射線を出す際の崩壊熱という作用により発熱を続け、冷却を続けないと燃料自体が溶ける程(つまりメルトダウン)のだそうです。
 原子炉の場合は、熱交換器を二重に使用しています。すなわち、一次系および二次系と呼ばれる機構です。一次系は直接原子炉圧力容器内に冷媒が循環しますから、冷媒は放射能を帯びてしまいます。そこで、二次系と呼ばれる2番目の熱交換器により海水との熱交換を行う仕組みだそうです。
 しかし、今次の福島第一以前の原子炉の事故において、冷却機構の故障というか事故は、非常に多かった様に感じています。今回、浜岡原発が全停止しましたが、一次系の冷媒中に海水が混入しているのが発見されたとの報道です。つまり二次系熱交換器内の細管に漏れが生じていたのでしょう。この様なトラブルは、今まで何度も何度も繰り返されてきたものです。
 原発の配管のことを記して見ます。原発の一次系と呼ばれる冷却機構の加圧は3気圧程とクルマ用と比べると随分高くなる様です。当然、配管などはラバーホースなどが使用されることはなく、すべて金属製の十分な強度を持った配管が使用されているはずです。
 しかし、例えば福島第一原発では、原子炉(圧力容器と格納容器)は原子炉建屋にありますが、一次系および二次系の熱交換器は、タービン建屋という別棟に設置されているそうです。もし、地震を受けた場合、その長い配管通路においては、各バルブなどの接続部を多数含むでしょうし、地震動の動きに合わせて、すべてが完全同期して動くとは到底考えられません。すなわち、配管接続部もしくは配管途中に想定外の高い剪断力が働き破断に至る可能性は、何時起こらないとも保証できないものなのです。
 最後に。「もんじゅ」という高速増殖炉のことに触れてみます。この、おどろおどろしくも感じる名前の炉ですが、燃やした核燃料以上の新たな核分裂物質が生成される夢の炉と云われるものです。
 しかし、炉内に高密度に多量の核燃料を充填していること、冷却冷媒にナトリウムを使用していることなど、予てからその危険性を指摘されている鳴り物入りのものです。
 この、「もんじゅ」ナトリウムについては、稼働早々に漏出事故(1995年)を生じ、修復工事を行い10年後に再稼働しました。ところが、またも早々に炉内に付属設備が落下し、引っ掛かるなどして引き抜けなるトラブルを生じたまま推移し、現在に至っているというしろものの様です。なお、報道などによると「もんじゅ」には、1日当たり5千万円を超える費用を消費し続けていると云いますから開いた口が塞がらないとは、このことを云うのでしょう。
 冷媒のナトリウムですが、冷媒能力は非常に高く高速増殖炉としては必須のものだそうです。しかし、ナトリウムは、空気中で自然発火し、水中では爆発的に燃焼するという極めて危険なものです。ですから、水を掛けての消火活動は不可能ですし、コンクリート表面に滴下しても、その水分で激しく燃焼し浸食してしまうそうです。「もんじゅ」の漏出事故の際も火災となり高温を発し、しばらく近づけなかったのです。建屋内の床は厚板のステンレス鋼板を敷き詰めてあるそうですが、漏出事故後の点検において、その一部が貫通するほどの溶損を生じていたと聞きます。
 原発大国フランスでは、同様の高速増殖炉「ス-パーフェニックス」を日本に先駆けて開発していましたが、相次ぐ事故などにより1998年に開発を中止したと聞きます。それでも、世界最大の地震多発国である日本では開発を続けていた訳ですが、凄まじい情熱と狂気に感動します。



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