私の思いと技術的覚え書き

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【再掲】ホンダの大発明のこと

2021-10-29 | 技術系情報
 このホンダが初採用したサイドパネル一体のボデー組み立て工法は、結果として単にハンダを使わなくて済むという単純なものではない。それは、およそボデー寸法の中で一番の高精度が要求されるドアヒンジ取付部(つまりピラー部)の高精度と共に、車体組み付けの合理化に寄与する基本的製造工法として世界中で認知されたのだ。

 これは想像だが、ホンダは当初この工法が、自動車製造の革新となることを意識しなかったのだろう。従って、特許も取得していなかったと思える。ホンダの初採用から2、30年を経て、この工法は世界中の自動車製造で、デファクトスタンダードとして普及してしまうのだ。  

 さて、今回はボデーワークのことであり、整備というより板金の分野となる。予てよりの私見だが、整備屋はボデーおよび塗装の知識を、板金および塗装屋は整備の知識を、つまりクルマの総体的知識を持ち対応することが極めて重要だと認識している。その様な意味を込めて記してみたい。

 本題の「大発明」のことであるが、発明というとちょっと大げさかもしれぬが、このホンダオリジナルの車両組み立てにおける一部工法は、現在の乗用車においては、国産のすべてのみならず、ベンツ、BMW、VWなど、EU諸国や米国を含み、世界中でコンベンショナル(極一般的)な工法として採用されている。

 その一部工法とは、AピラーからBピラーそしてCピラーおよびリヤフェンダーを含めた一体のサイドアウターパネルをプレス成型し、ルーフパネルとの接合部(スポット溶接)をモールディングで隠す処理を行うことを指す。このホンダオリジナル工法の初の採用車種は、1300クーペだったそうだ。(これは事後に知るのだが一番の採用車は軽のホンダZだったそうだ。)その意図は、創業社長の宗一郎氏の「ハンダを使うな!」という指示が起点となったと云うことである。それ以前のホンダを含め世界中のクルマは、サイドパネルのそれぞれは別プレス成型品であり、特にCピラー上部は、最後にルーフを被せ、凹部をスポット接合後、ハンダ盛り成型を行い、次工程の塗装工程を行っていたのだ。

 ところで、ホンダのサイドパネル一体成型後、直ちに世界中のクルマメーカーが製造工法を変更した訳ではない。トヨタなど、別パーツのCピラー(含むリヤフェンダー)とルーフの接合を、ハンダを使わず、アークブレージング(MIG溶接と類似した自動供給される真鍮ロウ芯線と母材とのアーク熱でロウ接合する工法)により行なうことで進化していた。また、例えばベンツなど、Cピラー根元にガーニッシュを設け、これによりスポット接合部を隠すという処理が行われたりしていた。

 ところが、ホンダオリジナルのサイドパネル一体構造は、数十年を経て、世界中でコンベンショナルな工法となった。それは何故かと想像してみると、ボデー寸法精度として、極めてシビアとなるドア廻りのチリを極めて高精度に達成できるとか、生産効率が極めて向上できるという辺りとなるのであろう。なお、現在のクルマではテーラードブランク鋼板と呼ばれる、ABC各ピラーアウターやルーフサイドアウターおよびロッカーアウターなどの部位を、要求に応じた板厚でレーザービーム溶接し、一体となったブランク(打ち抜き)鋼板をプレス成型することで、クラッシュ特性(およびボデー剛性)と軽量化の両立を図っている。

 さらに時代は進歩して、ルーフ外観にモールがないクルマも出始めている。しかし、それでも昔のクルマと違い、サイドアウターパネルは一体成型品が使用されている。

 それはどういう工法かといえば、サイドアウターのルーフサイド部とルーフをレーザーブレージングにより連続ロウ付接合することで行うもので、VWがゴルフ5以降で採用し始めたものだ。最近、元祖ホンダでも、新型N-BOXで同様の工法を取り始めた様だ。(ホンダではレーザーブレーズと呼称する)

事後談
 このサイドパネル一体式工法であるが、補給部品は各パート別にカットして供給されるので、個別事故の対応に大きな問題はない。但し、スズキだけはカットパーツを供給しない体制を頑なに取り続けており、利用者がカットして使用し、不要な部分は廃棄するという過大な負担を利用者に要求する企業姿勢は如何なものかと感じるところではある。なお、ルーフパネルについては、モール付きの場合はモールさえ取れば、比較的容易に切り離しが可能となる。

 さて、問題は、近年VWが先鞭を付け、最近ホンダも一部車種で使い出したレーザーブレージングの場合だろう。正直いって、この工法の補修は板金屋泣かせだろうと想像している。そもそも切り離しにおいて、やたら加熱すると残部パネルに熱歪を生じる可能性が生じるだろう。かといって、粗切り後にサンディング研削で旧パネルを除去するのも相当な工数を要するだろう。そして、問題は新パネルをロウ付けなりMIG付けなりしたとして、その面仕上げに要する工数を想像すると半端でないことを想像する。ちなみに、補修用として板金工場レベルで使えるレーザー溶接機というのは現存しないし、例えあったところで、大メーカーのNC制御ロボットが使える訳もないので無意味なのだ。






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