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ガソリンとディーゼルの燃焼方式

2019-01-21 | 技術系情報
 ガソリンエンジンは火花点火で、ディーゼルは圧縮着火だというところは、およそクルマに関わる者なら誰でも知ってる常識でしょう。ここでは、点火もしくは着火後の燃焼方式の違いに注目して記して見たいと思います。

 ガソリンとディーゼルの燃焼方式の違いは、ガソリンが予混合気燃焼と呼ばれる、予め空気と燃料を混ぜ合わせた燃焼であり、ディーゼルは拡散燃焼とよばれる単独の燃料が周辺の空気を取り込みながら燃焼するという違いがあります。一般的な特徴としては、次の様な差異があるそうです。

予混合気燃焼
 ・燃焼の反応速度が大きい
 ・すすが発生しにくい

拡散燃焼
 ・燃焼量を広範囲に調整できる
 ・すすが発生しやすい

ガソリンエンジンの燃焼
 ガソリンの火花点火では、スパークプラグの点火により火炎核が形成され、それが周辺に火炎伝播して燃焼するという理屈ぐらいは知っているところでしょう。ところで、この火炎伝播の速度ですが、常温状圧で計測すると、0.4m/secと大して早いものではないのです。つまり、ガソリンなど可燃物がメラメラと燃え伝わる速度であって、比較的ゆっくりしたものなのです。

 仮にシリンダボア径100mmとして、スパークプラグがほぼ中央の燃焼室を想像してみます。火花点火位置から最外縁となるシリンダ縁まで僅か5cm(0.05m)です。しかし、仮に先の0.4m/sec で燃え広がるとしたら、0.125秒を要してしまいます。ここで600rpmのアイドル回転での秒間回転数は1/60だから10回転/secであり、1回転するのに要する時間は0.1secだから、点火してから1回転以上も火炎伝播に要するならガソリンエンジンは成立しません。

 ものの本だとか大学京教授が記している小難しい論文(すべては理解し難いが)を読むと、現実のエンジンでは600rpmでの火炎速度は15m/sec程らしことが判ります。さらに、倍の1,200rpmでの火炎速度は、30m/secと早くなります。このガソリンエンジンでの、ほぼ回転速度に応じた火炎速度の増加ですが、大きな要素としては乱流があるそうです。それを、ある大学教授は「天の恵み」と評しています。

 なお、火炎伝播速度(精密には異なる様だが概略は燃焼速度)は回転数に応じて早まるが、点火から火炎核が形成されるまでの速度は、ほぼ一定だから回転数が上がるほど点火進角を早める必要が生じます。実際のエンジンでは、テストベンチにおいて回転数に応じた最適点火時期(出力と排ガス)を計測し、制御用ECUの進角マップを作成している様です。

 しかし、火炎伝播という限界がある以上、ガソリンエンジンのボアは現実的な限界が生じてきます。また、ボアを小さくロングストロークにすれば、ピストンスピードの限界を来すし、幾らツインスパークにしたところで限界はあるのです。第二次世界大戦の航空機など3万ccを超えるマルチシリンダー(星形)のレシプロエンジンまでが作られ、排気タービン過給で2千馬力を遙かに超えましたが、超ハイオク(オクタン価110)を要求した様だし、最大出力回転も3千rpmというところだった様です。
 一般的には単室排気量は1,000ccが実用現実的な限界となる様だ。かといって極小排気量の単室排気量も、フリクションロスの点等で不利となり、単室排気量の理想は500cc前後となる様子が伺える。つまり、単室500ccで4気筒なら2,000cc、6気筒なら3,000cc、8気筒なら4,000ccという訳である。だから。BMWその他で単室500ccで熱効率を極めたピストンや燃焼室形状(バルブ関係共)をモジュラーエンジンたるラインアップで使い回し、3気筒1,500ccなるエンジンが生まれてくる素地が生み出されたのだろう。

ディーゼルエンジンの燃焼
 ガソリンの様な火炎伝播に起因するボア制限がないのが、拡散燃焼たるディーゼルエンジンの利点となります。船舶用の機関など、ボア系が数mともなるエンジンが存在し、100rpmに満たない様な低回転で、内燃機関として最高の熱効率(50%超)を生み出しています。但し、ガソリン予混合燃焼が持っている、回転数に応じた火炎伝播の高速化は、拡散燃焼たるディーゼルエンジンにはないそうです。ここにディーゼルエンジンが高回転できない、すなわち回転数で馬力(仕事率)を稼ぎ出すことが難しいという宿命がある訳なのです。

※写真は試験エンジン(ガソリン4弁)の火炎が燃え広がる様子を撮影したものです。以前紹介した「レーシングエンジンの徹底研究」(林 義正著)に記してある通り、火炎は高温の排気バルブ側に引き寄せられつつ燃え広がることが良く判ります。


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