私の思いと技術的覚え書き

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疲労破壊の恐ろしさ

2016-12-12 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 昨年末にM14とかなり太いボルトを弛めようとして、破断を生じてしまった経験のことを記す。ボルトの破断面を観察すると、ざらついた脆性破壊の一部に、わずかに起点となったと思われる疲労破壊様の部分があることに気づいたのだ。疲労破壊とは材料の許容応力以下でも、繰り返しの応力により破壊が進行し破断に至るというものだ。

 ものの本の記述によれば、マクロ的には材料の弾性範囲内の小さな応力であっても、原子論レベルのミクロ的状態において、極一部の原子が元あった位置に戻らない非弾性的ふるまい(転移と呼ばれる現象)を生じ、それが積み重なって疲労を生み出すということだ。

 疲労破壊の破断面には、マクロ的には波打ち際様のビーチマークが観察されることが多いと云われているが、必ずしも絶対生じるとはいえない様だ。電子顕微鏡などのミクロ観察によれば、ストライエーションと呼ばれる縞模様が観察されるとのことだ。今回の件のボルトは、ざらついた脆性破壊の中に、比較的なめらかな疲労破壊の起点が内在していたというもので、この疲労は何れはさらに成長し破断するに至ったのであろうかと想像されるのだ。

 この疲労破壊に対する耐性は、設計における安全率にも影響を与える問題である。クルマや一般の機械では、その用途や予想される荷重と繰り返し応力数を勘案し、安全率が決められる。例えば、クルマや一般機械などでは、5から場合により20位までの安全率を見込んで設計される。しかし、航空・宇宙産業機器では、その重量に対する要求上、安全率を1.2程度しか取れないという宿命を持つ。だから、定期的かつ厳格な総分解と点検・検査が欠かせない。クルマの場合は、十分な安全率を見込んで設計され、航空機の様な厳格な分解検査はコスト上からも行われることはない。しかし、材料の欠陥内在率など不安定さへの見込み過小や、繰り返し応力の見込み過小や信頼性試験の不足など、不十分な強度のプロダクトがあれば、疲労破壊も起こり得るのだろう。

 最後に、クルマの車両保険などにおける扱いについて記す。保険の扱いでは、一般に「偶然外来の事故」が対象とされる。そして、いわゆる自然損耗や故障と云われるべき現象は保険の対象とはならない。つまり疲労破壊が原因ということになれば、偶然外来ではなく過去から積み上げられてきた故障損害に該当し、保険の扱いでいう「保険金を支払わない場合」に該当するのが一般的となる。


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