私の思いと技術的覚え書き

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サスペンションのラバーブッシュを思う

2009-01-10 | 車両修理関連

 クルマのサスペンションは、各アームの長さや配置といった構成(これらを総称してジオメトリーと呼ぶ)が大きな要件となりますが、各アーム類の可動接続部位を眺めるとボールジョイントとラバーブッシュの2種類に大別されると思います。

 レーシングカー等、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)を除外し、ひたすらサスペンションの性能を追求し、長期間の耐久性を除外した様なクルマでは、ラバーブッシュを排除し、ピローボールというジョイントが多用されます。これは、市販車で使用されるボールジョイントと同様に、まったく遊びがなく、しかもプレロード(フリクション)も極少ないというものですが、多用な環境下で長期間の使用がなされる市販車に使用できるものではありません。

 市販車においても、NVHを除外してしまえば、サスペンションの可動部を総てボールジョイント化してまう方法があるんでしょうが、現実にはその様なクルマはありません。フロントサスペンションで云えば、ステアリングを左右に切るナックルという部分とサスペンションアームとの接続はボールジョイントですが、サスペンションアームとボデーとの接続部位は、ラバーブッシュが使用されています。

 このラバーブッシュですが、使用されている箇所を観察すると同じラバーブッシュと云っても、使用部分によってブッシュの容量(ラバーの容積)が異なっていることに気づかされます。つまり、積極的に大きく動かせる様に大容量のブッシュが使われている部分と、その逆に強い入力があっても動く範囲が限られた極少ない小容量のブッシュが使用されている部位です。

 このことを具体的にフロントサスペンションで記してみますと、フロントタイヤを前後に動かす(逃がす)部分のラバーブッシュは大容量が使用されています。一方、、タイヤの左右の動き、すなわちコーナリング時のキャンバー剛性(路面に対するタイヤの垂直度)を決める部位のブッシュには、少容量(薄いラバー)のブッシュが使用されているのが、どのクルマにも共通したものなのです。

 また、大容量のブッシュ等に多いのですが、特定の方向に「すぐり」という空間を設けて、動き易くしたタイプのものも見られます。

 もう少しフロントサスペンションを具体的に分類して見ますと、ロワアームがA型アームのクルマもあるますが、これは少数派であり、大多数はテンションロッドタイプかL型ロワアームの2種のタイプが大多数を占めていると思います。(この他にテンションロッドを逆にしたコンプレッションロッドタイプもありますが、これも少数派です。)

 昔のFR車ではテンションロッドタイプが一般的でしたが、FF車の登場と共にL型ロワアームタイプが一般化したと思います。その後、FR車でもL型ロアアームタイプのクルマも登場しています。

 テンションロッド式とL型ロワアームですが、どちらが優れているという決定的な点はないのだろうと思います。但し、事故車の損害見積に当たって、このサスペンション型式の違いをあまり意識していない方が希にいますが、困ったもんだと思うことがあります。

 すなわち、テンションロッドタイプは、タイヤに直入力がなくとも、テンションロッドの取付部位の変位があればフロントタイヤは後退してしまいます。この場合、サスペンションの構成部品で損傷している部品は、テンションロッドブラケット位のものです。

 一方、L型ロアアームタイプでは、車両前部を相当大きくぶつけても、フロントタイヤが後退することはありません。もし、フロントタイヤが後退している様であれば、タイヤもしくはアーム類への直入力があり、アーム類に曲がりが生じている可能性がある訳です。


追記E46frsas

 写真はBMW3シリーズ(E46型)のフロントサスペ ンション付近を写したものです。これ以前のE36型も同様でしたが、L型ロアアームタイプで、キャンバー方向の受けは、まったく遊びのないボールジョイントが使用され、後部のラバーブッシュは大容量のブッシュで、タイヤの前後に伴う力を左右に逃がしていることが判ります。しかし、最新の3シリーズ(1シリーズも共通)であるE90型では、テンションロッドタイプで、仮想キングピンを持つダブルジョイントタイプに変更されています。

 整備を行う者には常識の云わずもながのことですが、ラバーブッシュの固定ボルトの締め付けは、静止加重状態で行うことが基本です。ブッシュはラバーが捻られて働くものであって、変な位置でブッシュが固定されると、車高が不揃いとなってしまったり、ブッシュの寿命を縮めてしまったりというトラブルを生じます。




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