私の思いと技術的覚え書き

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加工硬化とはなんぞや・・・

2018-11-12 | 技術系情報
 顔見知りの整備士などと話をしていて、「私は整備も板金も塗装もできるんだぜ」という、端的に云えば自慢話を聞くことがあります。それはそれで結構なことだと聞きますが、私はちょっと意地悪く「加工硬化って判るかい?」と聞くとポカンとして返事がありません。そんな金属の基本的性質も知らないまま、まともな板金ができようもないだろうなと思う訳です。ましてや信頼を増す顧客への説明もできない、事故の7割の比率と聞く保険事故絡みで対等に価格決定(見積)をすることも出来ないのではないかとの感も持っているのです。ここには板金業の方も多く、そんなことは知っているという方も多いのを承知で、いまさらながら「加工硬化」について記してみます。

 金属は塑性変形(永久変形)を生じると加工硬化という現象を持ちます。この理由の純科学的説明はできかねますが、私は以下の様に理解しています。金属の分子レベルでの結晶構造は、体心立方格子と云って超拡大するとジャングルジムみたいな構造をしています。そこで、変形することで格子が変形することにより、それ以上変形し難くなり、また戻り難くなることから生じるのが硬化現象であると理解しています。

 このことは、写真(図)1の薄いブリキ片を左右の指で変形が戻らなくなる(塑性)まで変形させ、その後逆に力を加えて元に戻すと、変形の中心部たる塑性部位の変形は残ることで判るでしょう。

 また、クルマの構造を見ていくと、外装面ではドアやルーフなどにプレスラインが入っていたり、強度部位にはアングルとかチャンネル、ボックスなど強い折り曲げ面が多用されていますが、これも素材強度を上げる大きな要素であることが知れます。

 写真の2および3は、BMWミニの右サイドフレーム前部の座屈状態を示します。かなり酷い座屈ですから前部をカット交換する場合もあるでしょう。しかし、これをいきなりカットして交換するとしたら、そうとうにボンクラな作業者であり、幾ら整備書通りにカット交換してもまともには直らないでしょう。フレーム修正作業の大前提として、粗出し(もしくは粗引き)修正作業を行い、座屈変形部位のさらに深部の歪みを十分抜き取り、特にサスペンションピボット部位やエンジンマウント部位の寸法が基準に直ったのを確認してからのカット交換という段取りでしょう。
 また、カット交換しないで修正して直すという手法もあり得あるでしょう。ただ、写真の大きな座屈を生じたサイドフレームをまともに引けばどうなるか? 間違いなく加工硬化した該当部位はほとんど伸びずに、ぶち切れてしまうことでしょう。もしくは、この事例の様な前部でなく、サイドフレームのもっと深部に歪み変形が生じている場合、フレーム修正機の全能力を出し切ったら(能力的には乗用車用でほぼ20トン、トラック用で50トン)どうなるでしょうか? ここまでの引き力を与えると、たいがいサイドフレームとダッシュパネルを結合しているスポット溶接が剥離し始めるでしょう。では、どうしたら、そこまで力を掛けないで直して行くかということを少し記してみましょう。一つは、過熱軟化させて行う方法、そして、もう一つはサイドフレームなどの角断面であれば、クロージングプレートを外し、開断面にすることで剛性を弱めて引く方法などが考えられるでしょう。その他にも、適宜補助固定を追加し、該当部位以外に力が働かない様に工夫する作業が行われていますが、優れたボデー修正者はこの辺りのことを良く判っているものです。



追記
 写真のBMWミニのサイドフレームですが、一般的なサイドフレームが四角断面なのに対し、大雑把には8角形(オクタゴン)の断面を持っています。このオクタゴン柱は、一般的な四角断面より剛性が高くなると云われています。その理由、断面を構成する角が増えることで加工硬化が与える影響が大きいこともあるのでしょう。採用車は一時期のBMWだとか国産車でのRX8などでも採用されていましたが、コスト高の点もあるのでしょうが、昨今は見掛けなくなりつつあります。しかし、ラフテレーンクレーンの箱ジブなど、従来の四角から、オクタゴン化に変化しているなどの事例も見られます。


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2021-02-23 12:29:07
加工硬化を知らない=板金の質が低い ではない。加工硬化を知らなくても腕の立つ人はたくさんいる。自称エンジニアだが、強度と剛性の区別もついていないバカ。とても腹が立つ記事。
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