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また懲りずに血税5兆円を…!? 国策「日の丸ジェット」の見果てぬ夢に「エリート官僚」たちが固執する「大ひんしゅくの理由」

2024-04-24 | コラム
また懲りずに血税5兆円を…!? 国策「日の丸ジェット」の見果てぬ夢に「エリート官僚」たちが固執する「大ひんしゅくの理由」
4/23(火) 6:05配信 現代ビジネス
次の投入額は「ケタ違いになる」

 「YS-11以来、約40年ぶりの日の丸旅客機」との経済産業省の甘言に乗せられた三菱重工業が約1兆円の資金を溶かした末、ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発を断念してからわずか1年余。国の出資金500億円を棄損させた経産省が性懲りもなく「日の丸ジェット機」開発の国策プロジェクトに再び動き出し、霞が関や市場でひんしゅくを買っている。

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 伊吹英明局長(1991年旧通商産業省)率いる製造産業局が公表した新たな「航空機産業戦略」は、旧MRJ失敗の原因を「1社単独開発による限界」や「政府の支援不足」などと勝手に総括。「貴重な教訓」(同局幹部)を学んだ三菱重工に加え、川崎重工業やIHIなど航空宇宙メーカー、水素エンジンを開発する自動車メーカーなど日本の技術力を結集し、今後10年間で官民併せて5兆円を投資して、脱炭素時代に適合した次世代航空機を2035年ごろをめどに開発するとぶち上げた。

 「日の丸航空機」の開発・供給体制の構築については、産業のすそ野が広く、経済成長に資する新たな基幹産業と期待できる上、戦闘機開発など防衛産業の競争力強化にも通じる「安全保障上も極めて重要なプロジェクト」などと喧伝。伊吹局長周辺筋は「要素技術の研究開発支援にとどまった、旧MRJのようなチンケな国費投入はもうしない。今回は機体やエンジンの開発から整備手続きの確立、商用飛行に不可欠な『型式証明』の取得まで国が丸抱えで支援する。投入額は桁違いになる」と嘯く。

 数千億円から1兆円レベルの支援を想定しているようで、その元手は脱炭素化推進のために政府が発行する「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」総額20兆円を当て込んでいるという。本来、電源の脱炭素化や省エネ技術推進などに使うはずのGX債を、産業政策にも“流用”する腹積もりなのだろう。

「クールジャパン」の二の舞いか
 ちなみに、伊吹局長は自民党重鎮だった伊吹文明元衆院議長の長男。商務情報政策局クリエイティブ産業課長(現クールジャパン政策課長)時代に、日本文化を世界に知らしめるとして官民ファンド「クールジャパン機構」を企画立案した人物だ。

 その後、同機構は手掛けた事業がことごとく上手く行かず、赤字垂れ流し状態となり、有力OBから「毛並みは抜群だが、政策の詰めが甘いボンボン」などと後ろ指をさされた過去を持つ。だが、血税が毀損されても本人は馬耳東風の体で局長に出世。そんな人物が差配するのだから、「MRJ2・0」構想がいかに危ういか想像が付こうというものだ。

 実際、クールジャパンと同様に日の丸航空機開発への再チャレンジも成算があるわけではない。2008年に始まった旧MRJが、開発に約15年もかけながら事業断念に追い込まれた最大の要因は、欧米当局から型式証明を取得できなかったからだ。これをクリアするノウハウは未だに日本の官民にはない。

 伊吹局長らは米ボーイングなど欧米の航空機メーカーの協力を仰ぐ方針だが、完成機市場で競争を挑もうとする敵(日本勢)に塩を送るようなことを果たしてするだろうか。実際、三菱重工は旧MRJの型式証明取得で、部品納入先として親密だった米ボーイングに助力を頼んだが、「十分な協力が得られなかった」(元役員)という。

当の三菱は及び腰
 「脱炭素化はゲームチェンジ。航空機の次世代動力分野では、日本勢には高い開発ポテンシャルがある」との算段も、役所ならではの楽観論と言わざるを得ない。欧州エアバスは2020年に3種類の水素航空機のコンセプトをすでに発表済みで、2035年の実用化に向けて計画を着々と進めている。また、米ボーイングの大口取引先である米ゼネラル・エレクトリック(GE)が仏サフランと共同で水素も使える航空機エンジンの開発を進めるなど、欧米勢は次世代エンジンの実証段階に入っているからだ。

 製造産業局のある幹部は「日本も自動車分野の水素エンジン開発では先行している」と反論するが、躯体の大きさや貨客の積載量、安全性の要件が異なる航空機に容易に技術転用できるほど現実は甘くないだろう。

 最大の問題は、肝心の民間企業側が乗り気ではないことだ。三菱重工のある幹部は「経産省から『あと一歩だった』などといくら煽てられても、経営危機まで取り沙汰されたトラウマは消えない。ジェット機開発に再び挑もうなんて雰囲気は皆無だ」と吐き捨てる。川崎重工やIHIなど他のメーカーも、旧MRJの悲惨な末路を目の当たりにしているだけに「甘言には乗らない」などと消極的だ。

 経産省が目論む自動車メーカーの参画も「ガソリン車から電気自動車(EV)への世界的なシフトが起きる中、我々は本業での生き残りに必死。官僚のリベンジに付き合っていられる暇はない」(業界筋)などと期待薄だ。

「高度経済成長期」への郷愁
 にもかかわらず、こんな無謀な国策プロジェクトが罷り通る背景には、GX債や経済安保関連予算などの潤沢な軍資金を得た中、民間市場に介入し特定産業や企業を優遇して育成を図ろうとする「ターゲティング派」が経産省内を跋扈していることがある。

 「経済安保」を掲げて、国内外の半導体メーカーの工場建設に巨額の補助金をバラまく野原諭・商務情報政策局長(1991年旧通産省)らがその代表格。岸田文雄政権にGX戦略を吹き込んだ飯田祐二事務次官(1988年同)や、実質国有化されている東京電力ホールディングス役員への出向経験があり、元次官の嶋田隆首相秘書官(1982年同)の直系とされる山下隆一経済産業政策局長(1989年同)ら主要幹部は、軒並みターゲティング派で占められている。

 彼らの頭にあるのは、1960年代の高度成長期に特定産業に大量の補助金を投入して育成を図る「特定産業振興臨時措置法(特振法)」を駆使して経済振興を進めた、佐橋滋企業局長(当時)らへの郷愁だという。その活躍ぶりは城山三郎の小説『官僚たちの夏』のモデルともなったが、そんな統制的な政策手法が今のグローバル競争の時代にも通用すると考えているなら、アナクロニズムというほかないだろう。

 実際、元祖ターゲット派は、1980年代に日米貿易摩擦が起きると、産業保護的な官民一体の行政姿勢を米国から「ノートリアスMITI(悪名高き通産省)」と厳しく批判され、退潮している。その後は世界的な新自由主義の流れを受けて、経産省内でも役所は公平なルールなど事業環境の整備に徹し、市場や企業の自由競争やイノベーションを促そうとする「フレームワーク派」が主流となった。2001~2006年の小泉純一郎政権時代には「規制改革省に変身する」などと公言する官僚もいたほどだ。だが、中国の経済的な台頭による日本経済の凋落ぶりが鮮明になると一転、ターゲティング派が徐々に息を吹き返した。

歪んだエリート主義
 20万部を超えるベストセラー『TPP亡国論』(2011年)を著した中野剛志・商務情報政策局消費・流通政策課長(1996年旧通産省、学者を経て2012年に経産省に復帰)ら「経済ナショナリズム」を声高に唱える官僚も現れ、2021年に「経済産業政策の新機軸」が発表されるに至り、ターゲティング派回帰の流れが決定的になった。

 当時、官房総務課長として新機軸策定を主導した井上博男・資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部長(1994年同)や多田明弘前次官(1986年同)らは「伝統的なターゲティング派による産業の保護・振興とも、政府の関与を狭める構造改革路線(フレームワーク派)とも違う、国益の追求をミッションとする第三の道だ」などと強調するが、目指すところは『官僚たちの夏』の世界と変わらない。根底には「目先の利益を追うばかりの愚かな民間経営者に代わって、エリート官僚が産業を仕切る方が日本経済を活性化できるとの歪んだ選民思想」(有力OB)が透けて見える。

 官邸や永田町、マスコミまでも経産省発の「経済安保」や「脱炭素化」の主張に翻弄される中、本来は無謀な財政支出に歯止めをかける役割の財務省も、なすすべもない様子。血税が野放図に消費される無責任な産業政策が当面、続きそうだ。週刊現代(講談社)


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