私の思いと技術的覚え書き

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ベンツ=潰れない頑丈なクルマという神話

2016-09-28 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 時々クルマに精通してない方から「ベンツは頑丈で潰れないから安全だ!」みたいな話を投げ掛けられるが、まったくとんちんかんな話として苦笑している。仮に相当に車重は増えるが、戦車みたいな厚板鋼板でクルマを作り上げれば、時速50km/hのバリヤテストでも、ほとんど潰れないものとなるだろう。しかし、その時車内の減速度(G)は急激に立ち上がりピークGは空恐ろしいほどの値を示すだろう。これでは、幾ら生存空間が保たれエアバッグが作動しても、乗員に作用するライドダウンGから致死率は桁違いとなるに違いないだろう。車両が潰れることにより運動エネルギーを吸収しピークGを引き下げる。そして一方必要以上に潰れないこと(キャビン変形による生存空間の確保)が車両メーカーによる衝突テストやシミュレーションの目標となる。

 この事故時の潰れによる安全性の確保、すなわちクラッシャブルボデーの思想を世界で最初に取り入れたのがベンツ社である。写真のW201の前後のクラッシュだが、前後ドアのドアチリに注目したい。多少の狂いは伺えるが、この状態であればドアは手で開けることができるだろう。つまり、これ程まで車体の前後を圧壊されつつも、キャビンの変形は僅かなものに留まっていることを示している。また、後部では昔のクルマでは燃料タンクがトランク床下に設置されていたが、このクルマを含め現在車では、ほとんど後席座面の床下に設置されています。だから、これ程までに車両後部を潰すことで、運動エネルギーの吸収が可能となっていることも判る。

追記
 バリヤテストは、全面リジットバリアおよびオフセットバリヤ(運転席側車幅の40%を被突)、サイドインパクト(停止車両の側面にムービングバリヤを衝突させる)が行われていたが、近年ポール衝突というテストが追加されている。これは車両を移動式板に載せ、横方向に移動させつつ、運転者頭部付近に鋼製ポールに衝突させるという厳しいものだ。近年の車体の拡幅化は、これの影響も大と考えている。
 もうひとつ、新しいバリヤ試験として微小オフセットというものも出てきた。運転席側オフセット量を20%とし、前面のエネルギー吸収機構のメインとなるサイドフレームへの入力を回避させたものだ。これも、極めて厳しい試験で、前輪はもぎ取れ、フロントピラーは直入力を受け、フロントドアは後退変形するというものだ。しかも。これだけの偏芯衝突となると、入力反力が相当斜めになるから、運転者の頭部はエアバッグで受け止めきれない場合が多々あるのが、YouTubeから見取れる。

IIHS スモールオフセット試験・ワースト車種


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