物損事故調査員と日弁連協定
おそらく損保関係者それも損害調査関連の業に付く方以外に知られいない資格(というか取って付けた疑似資格というべきもの)があるのを知らない方の方が多いだろう。また、現在、この資格票もどきを所持している方にも、その意味とか日弁連協定の中身まで知る者は少ないと思われる。そんな意味を込めて、元損保調査員(アジャスター)であり、在職中は物損事故調査員資格票も所持していた者として、この実態を書き留めたい。
まず、この事項の歴史的経過を述べてみたい。これは、損保における示談代行の業務と極めて関連がある。
1.対人事故の示談代行
損害保険で、対人事故の示談代行サービスが取り入れられたのは、昭和49年(1974年)3月の、家庭用自動車保険(PAP)というものの導入にある。この導入に先立ち、日弁連から意見書が出された。この主な内容としては、損保が示談を行うことについて、弁護士法72条(以下非弁法)に抵触する可能性を指摘するものだった。この弁護士会と損保の打ち合わせにおいて、損保は保険金を支払うという中で、当該事故の準当事者性を有し、その示談行為が被害者救済を主目的とするものであり、単に非弁法の内容に形式的該当するからといえ、違法とは解釈されないという結論となった。ただし、以下の条件を前提とすることが確認された。
➀損保の示談は保険会社の社員が行うこと。これにより、示談行為における当事者性を確保すること。
②被害者直接請求権を導入すること。これにより、特段の支障のない限り被害者救済を行う前提で、しかも損保の当事者性を確保できるとした。以下にも細目はあるが省略する。
2.対物事故の示談代行
先の対人事故に続いて、対物事故に付いても示談代行サービスを前提とする家庭用自動車総合保険(SAP)というのが昭和56年(1981年)1月より商品開発が開始された。これについて、損保は先の対人示談での日弁連からの意地申し込みのこともあり、予め損保から日弁連に対し本商品の発売計画を伝え了承を求めた。
これについて、対人事故では、損保社員が示談代行を行うことで示談の当事者性が担保され合意に至っていたのだが、対物事故については、主に損保社員と云うより別法人となる調査員(アジャスター)が行うことを当事者性という意味で非弁行為と見なせるとして対物事故の示談代行サービスの商品認可をしないことを当時の大蔵省(現在の金融庁)に要望書を提出するに至った。
ここで、損保側の対物示談の適法としての理由を概略以下の様に主張していた。
➀対物事故は年間150万件も発生しており、これを弁護しないし損保社員だけで迅速に行うことは困難である。
②対物事故の被害物は圧倒的多数が自動車であり、これについて自動車の構造的な専門技術知識を持つアジャスターが行うことの合理性がある。
③示談において過失割合の認定については、法律知識が必要となるが、統計的に事故の75%(3/4)が過失割合のない全賠案件(100:0割合)であること、また過失割合についても、既に判例の集積により類型化されており(いわゆる判例タイムス)、研修を通じて容易に習得可能である。
以上の損保側の意見について、日弁連の中でも意見が分かれた。すなわち、当事者性のないアジャスターなどに示談を許すことは、あらゆる紛争に示談屋などの暗躍を許すから認めがたいとする意見、違法性を排除しつつ弁護士として積極的に関与してもいいのではという意見などである。
損保としては、実際問題として150万件ある対物示談のすべてを弁護士が関与することは現実には不可能だし、アジャスターによる示談を認めないとすれば、一般国民としては迅速適切な解決が閉ざされ合理性に欠けるという主張をして来た。
こうした損保と日弁連との意見の応酬の中で、昭和57年(1982年)7月に、損保と日弁連のとの間で、対物賠償保険の事故処理に関する協定書が調印され、これに従う限り、アジャスターなどによる対物示談代行は合法である旨の合意がなされた。
この協定書の実物は添付の内容として示すが、損保は対物事故について弁護士に委任し、その弁護士の下に、これを補助する物損事故調査員を配置する。つまり、対物事故は、弁護士指揮の元に物損事故調査員が活動し、それを担当弁護士は管理すると云うものだ。なお、協定書第4条には、物損事故調査員の関与する事故処理の範囲は、請求損害額30万円以下の物損事故に限定することが記されている。
しかし、昭和59年(1984年)より、損保調査員(アジャスター)かつ物損事故調査員として、幾多の示談に活動して来た私だが、この日弁連との協定の話しはかいつまんで聞いたが、その協定書事態を見せられることもなく、しかも担当弁護士の指揮で動いたなどと行くことは一切なかった。やってることは、私に関係なく、そこの部署長などが月一程度の間隔で、物損事故示談完結一覧表を担当弁護士に提示し、それぞれの示談項目に弁護士のメクラ印を受領する行為を見てきただけだ。また、対物事故30万円限度など、まるで意識になく、最高額1千万を超える損害請求額案件などまで行って来た。
しかし、現在の損保では、極一部(2社)を除いて、アジャスターの所属は、損保本体所属とされ、本件協定書で問題となっている、別会社による示談ということでは、クリアー化されている。これら2社では、極一部を除いて、示談には関与するアジャスターは少なくなっているだろう。
しかし、損保業界のリーディングカンパニー社では、かなり以前から電話での示談を女性担当者に移行させてきたが、この女性担当者の所属は、○○キャリアサービスという別法人である。
まとめ
そもそも、本日弁連との協定だが、日弁連は法令の違法性だとか合法性を類推することはあっても、それを決定する権利などはない。決定権を持つのは、国家権力として権利を与えられた裁判所だけである。いわば、この協定書とは、日弁連として訴訟にはしませんよ程度のもので、別の第三者が訴えた場合は、どういう裁定が下るのかで、それぞれの訴えの案件で判決は異なると思える。以上が、物損事故調査員の偽らざる実態である。現業で同職を担う者を非難するつもりは毛頭ないが、あまりにも理解不足のNet記事が多いので、あえて実態を書き留めたものだ。
おそらく損保関係者それも損害調査関連の業に付く方以外に知られいない資格(というか取って付けた疑似資格というべきもの)があるのを知らない方の方が多いだろう。また、現在、この資格票もどきを所持している方にも、その意味とか日弁連協定の中身まで知る者は少ないと思われる。そんな意味を込めて、元損保調査員(アジャスター)であり、在職中は物損事故調査員資格票も所持していた者として、この実態を書き留めたい。
まず、この事項の歴史的経過を述べてみたい。これは、損保における示談代行の業務と極めて関連がある。
1.対人事故の示談代行
損害保険で、対人事故の示談代行サービスが取り入れられたのは、昭和49年(1974年)3月の、家庭用自動車保険(PAP)というものの導入にある。この導入に先立ち、日弁連から意見書が出された。この主な内容としては、損保が示談を行うことについて、弁護士法72条(以下非弁法)に抵触する可能性を指摘するものだった。この弁護士会と損保の打ち合わせにおいて、損保は保険金を支払うという中で、当該事故の準当事者性を有し、その示談行為が被害者救済を主目的とするものであり、単に非弁法の内容に形式的該当するからといえ、違法とは解釈されないという結論となった。ただし、以下の条件を前提とすることが確認された。
➀損保の示談は保険会社の社員が行うこと。これにより、示談行為における当事者性を確保すること。
②被害者直接請求権を導入すること。これにより、特段の支障のない限り被害者救済を行う前提で、しかも損保の当事者性を確保できるとした。以下にも細目はあるが省略する。
2.対物事故の示談代行
先の対人事故に続いて、対物事故に付いても示談代行サービスを前提とする家庭用自動車総合保険(SAP)というのが昭和56年(1981年)1月より商品開発が開始された。これについて、損保は先の対人示談での日弁連からの意地申し込みのこともあり、予め損保から日弁連に対し本商品の発売計画を伝え了承を求めた。
これについて、対人事故では、損保社員が示談代行を行うことで示談の当事者性が担保され合意に至っていたのだが、対物事故については、主に損保社員と云うより別法人となる調査員(アジャスター)が行うことを当事者性という意味で非弁行為と見なせるとして対物事故の示談代行サービスの商品認可をしないことを当時の大蔵省(現在の金融庁)に要望書を提出するに至った。
ここで、損保側の対物示談の適法としての理由を概略以下の様に主張していた。
➀対物事故は年間150万件も発生しており、これを弁護しないし損保社員だけで迅速に行うことは困難である。
②対物事故の被害物は圧倒的多数が自動車であり、これについて自動車の構造的な専門技術知識を持つアジャスターが行うことの合理性がある。
③示談において過失割合の認定については、法律知識が必要となるが、統計的に事故の75%(3/4)が過失割合のない全賠案件(100:0割合)であること、また過失割合についても、既に判例の集積により類型化されており(いわゆる判例タイムス)、研修を通じて容易に習得可能である。
以上の損保側の意見について、日弁連の中でも意見が分かれた。すなわち、当事者性のないアジャスターなどに示談を許すことは、あらゆる紛争に示談屋などの暗躍を許すから認めがたいとする意見、違法性を排除しつつ弁護士として積極的に関与してもいいのではという意見などである。
損保としては、実際問題として150万件ある対物示談のすべてを弁護士が関与することは現実には不可能だし、アジャスターによる示談を認めないとすれば、一般国民としては迅速適切な解決が閉ざされ合理性に欠けるという主張をして来た。
こうした損保と日弁連との意見の応酬の中で、昭和57年(1982年)7月に、損保と日弁連のとの間で、対物賠償保険の事故処理に関する協定書が調印され、これに従う限り、アジャスターなどによる対物示談代行は合法である旨の合意がなされた。
この協定書の実物は添付の内容として示すが、損保は対物事故について弁護士に委任し、その弁護士の下に、これを補助する物損事故調査員を配置する。つまり、対物事故は、弁護士指揮の元に物損事故調査員が活動し、それを担当弁護士は管理すると云うものだ。なお、協定書第4条には、物損事故調査員の関与する事故処理の範囲は、請求損害額30万円以下の物損事故に限定することが記されている。
しかし、昭和59年(1984年)より、損保調査員(アジャスター)かつ物損事故調査員として、幾多の示談に活動して来た私だが、この日弁連との協定の話しはかいつまんで聞いたが、その協定書事態を見せられることもなく、しかも担当弁護士の指揮で動いたなどと行くことは一切なかった。やってることは、私に関係なく、そこの部署長などが月一程度の間隔で、物損事故示談完結一覧表を担当弁護士に提示し、それぞれの示談項目に弁護士のメクラ印を受領する行為を見てきただけだ。また、対物事故30万円限度など、まるで意識になく、最高額1千万を超える損害請求額案件などまで行って来た。
しかし、現在の損保では、極一部(2社)を除いて、アジャスターの所属は、損保本体所属とされ、本件協定書で問題となっている、別会社による示談ということでは、クリアー化されている。これら2社では、極一部を除いて、示談には関与するアジャスターは少なくなっているだろう。
しかし、損保業界のリーディングカンパニー社では、かなり以前から電話での示談を女性担当者に移行させてきたが、この女性担当者の所属は、○○キャリアサービスという別法人である。
まとめ
そもそも、本日弁連との協定だが、日弁連は法令の違法性だとか合法性を類推することはあっても、それを決定する権利などはない。決定権を持つのは、国家権力として権利を与えられた裁判所だけである。いわば、この協定書とは、日弁連として訴訟にはしませんよ程度のもので、別の第三者が訴えた場合は、どういう裁定が下るのかで、それぞれの訴えの案件で判決は異なると思える。以上が、物損事故調査員の偽らざる実態である。現業で同職を担う者を非難するつもりは毛頭ないが、あまりにも理解不足のNet記事が多いので、あえて実態を書き留めたものだ。