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BMW E90 燃料フィードホース破壊問題を分析する

2022-09-14 | 技術系情報
BMW E90 燃料フィードホース破壊問題を分析する
 この記述は、現在関わり中のBMW・E90・323i(日本型式ABA-VB23)について、燃料ホースが暴発するように破壊し燃料もれを生じた件について、希なる現象として関連事項を含め記録するものだ。

 該当車のE90・323iは車体番号末尾7桁より判断される製造年は2007年5月であり車検証の初度登録年2007年9月と比べても差異は小さいものだが、製造後既に15年を経過している。15年を経過した燃料や冷却水ホースは破損しても、一般論としては格別の不思議さはない。ラバーホースなどゴム製品は、タイヤもそうだが、長期間の使用によりゴムの劣化は進行し、ひび割れなどの外見上の異常と共に、それが加圧されている場合には、破壊という現象が起きても何ら不思議ではないところだ。

 一般的な乗用車のタイヤでは、空気圧は200KPa強程度が定格圧の場合が多いが、フューエルホースも現在の電子制御式燃料噴射エンジンでは、例え一般的なポート噴射方式であってもタイヤと同じく200KPa(正確にはプレッシャーレギュレターに大気圧を作用させその絶体差圧)がフューエルフィードラインには作用している。プレッシャーレギュレター以降のフューエルリターンラインでは、それよりかなり低い圧力となるのであるが、まったく無圧と云うことではない。

 過去の経験からだが、この様なある程度の高圧配管もしくはホースのもれとか破壊というのは、他物などの衝突したとか絶えず触れ合うことで、その摩擦から摩耗したとか云うのでない限り、そのトラブルの多くは配管なりホースエンドの接合部(ホースバンドとかユニオン部やホースの端部カシメ処理部近くで生じる場面が多いと知見している。これは、その様な端部には、どうしても局部的な応力が働き易いとか、バンドなどの締め付けにより、ホースなどのゴムの硬化や劣化という問題が生じ易いと云うことと無縁ではないだろう。

 ところが今回の燃料もれが生じたフューエルホースの破壊該当部は、まったくのホースの中間部であり、数センチ離れた部位にホースがエンジン揺動で動かない様に拘束するクランプがあるとはいえ、そのクランプ部に要因は考えられず、しかもエンジン動作中のエンジンの触れ振動で、該当ホース部が他物と擦れ合うとか当たるという状態にはなく、しかもホースの該当破壊部以外には、何ら老化や衰損を伺わせる亀裂などは皆無であったというところが非常に特異な点なのだ。

 本件トラブルの燃料もれ破壊を生じたホースの該当部位を図もしくは写真No.1~9に示すが、該当ホースは車体後方の燃料ポンプから、床下に配管された燃料パイプのダッシュパネル部付近と、エンジンシリンダーヘッド上方のフューエルデリバリチューブを結合するホース両端がワンタッチクリップ処理された長さや約60cmほどのホースの中間部であり、エンジン搭載状態では、縦置きFRエンジンのダッシュパネルとの間に位置する外見目視では確認困難な部位に生じたホースの破壊だった。




 実のところこの該当車だが、一時抹消状態で確かな年数は不明だが少なくとも5年ほどは放置状態であったのを、所有者が再び登録して乗りたいと云うことで、該当修理工場で中古車新規車検を取得後、燃料補給のためガソリンスタンドで給油中、該当スタンド係員が燃料臭いとの指摘があり、エンジン後方下部より燃料が滴ることを発見し、慌てて原因究明により該当ホース部の破壊を発見したというのがトラブル発現の経緯だ。

 該当工場主も呻いていたが、もし燃料もれの発現がもっと早期に生じ、例えば中古車新規の検査ライン中で燃料もれから引火したとすれば、新聞に掲載されるような車検場内での火災事件となり、その賠償責任額も含め大事になっていただろうということなのだ。幸いだったのは、該当ホースの配置が、エンジン中心部より左寄りだったことから、滴下したガソリンが、エンジン右側に配置された排気管系に滴下することがなかった点であるが、これも時間の問題で、約200KPaの加圧燃料は相当な勢いで噴出しただろうから、もし引火したらたちまちエンジンルームから大規模に発火し、消火器程度では鎮火が困難な状態に陥っても不思議ではなかったものだろう。

 さて、前置きが非常に長くなったが、損保時代より現在に至るまで、特に世の工業製品に関わるトラブルには、その成因の根源は何かと云うことに常に感心を傾けて来たところだが、このBMWフューエルホースの破壊トラブルには、感心を抱きつつ一定の原因追及を試みたが、世の関連識者の参考になればと報告するものだ。

 そもそも、BMWで同様のフューエルラインの燃料もれとかそれから生じる火災に類する現象は国交省の「不具合情報の検索」でサラッと見たところ、類似現象はほぼ見当たらなかった。そもそも、今回の現象を知り、該当の不具合燃料ホースを交換し、取り外した旧装着部品の燃料ホースを観察するが、該当の破損部は明らかに爆発したかの様な外への破れと膨らみが生じているのだが、それ以外のホースラバー外見とかホース両端部のクイックカプラーカシメ部などにも、脆化や衰損を伺わせる様な劣化はいささかも観察されないものだった。

 この辺りは該当部を写した写真を参照して欲しいが、注目すべきは該当ホースは外径14mmm、内径7mm、ホース肉厚3mmほどであるが、ホース断面にはメッシュ状の繊維層がホースラバーで包み込まれている。これは、タイヤなどでも同様の繊維とか、トレッド(路面に接する平面部)の内側には、スチールベルトが「たが状」に巻き締められている構造になっている。この繊維の材質は確かめた訳ではないが、アラミド繊維と呼ばれる(商品名としてはケブラーなど)比強度の高い化学繊維が使用されており、強度と共に、ホースの柔軟性を損なわない様に作られている。今回のホース内圧による外側への膨張爆発と云うべき現象だが、微細に観察してもこのメッシュ繊維に切断などの現象が見られないと云うのが、不思議の一つなのだった。






 そんなことで、該当ホース損傷部を切断し、ホース外周を軸方向に切断し、ホース内面を露出させる様に広げて写したのが写真(No.10,11)だが、ホース内面には肉厚0.2mmほどの透明樹脂の芯(以降ライナーと呼ぶ)があり、その外側を繊維層をサンドイッチしたゴム層が取り巻いているという構造だと云うことが判った。



 さらに、写真を見てもらえば判るが、今回爆発したかの様な損傷を生じた該当部の、この薄板ライナー部には約20mm弱におよび軸方向に割れが生じていることが判った。このライナー部の縦割れは、当初はもっと小さいものだったが徐々に拡大しつつ、今回のホース部の解剖検査によりさらに拡大した可能性もある。しかし、何れにせよ、燃料たるガソリンの透過を防ぐライナーに割れが生じ、長期間のガソリンに該当ラバーホースが犯され、最終的には内圧で吹き飛んだということであろう。

 なお、燃料としてガソリンを使用するホースであるため、耐ガソリンへの耐性はそれなりに有しているはずなのだが、樹脂にしてもゴムにしても、これら固形物質は元々固まる前は流動性ある液体もしくは半固体(ゲル状物)なのだが、これが樹脂の場合は重合と呼び、ゴムの場合は加硫と呼ぶ何れも架橋反応で固体として安定化し、耐溶剤性などを高めるのだが、それなりの溶剤に浸漬させ続けた場合、膨潤という現象が起こることが知られている。

 この膨潤とは、例えば新車ライン塗装で使用される熱硬化型塗料とか、補修塗装で使用される2液ウレタン塗料では、硬化後(架橋反応後)はガソリンやシンナーなど強い耐溶剤性を示すと云われるが、それら溶剤に浸漬させ続けた結果として膨潤という現象が生じる。これは、該当素材の分子中に溶剤分子が入り込み、その物質が本来持つ物性を低下させつつ、物質容積も溶剤を含み膨らむという現象なのだ。

 私自身の体験たる実例でも、新車焼き付け塗装もしくはウレタン塗装で、耐シンナー特性のある塗膜表面を拭う程度の処理にはビクともしないが、そのシンナーなりの浸漬を長時間続けると、該当塗膜は溶け出しはしないものの、軟化しつつ機械的摩擦力で剥がれ始めるという現象で慌てることがある。それとか、2年程前から全世界で1千万台を越えるリコールを生み出したデンソーの燃料ポンプの本体となるポンプインペラとケーシング樹脂部がその架橋反応の不適切なセッティングにより、膨潤で寸法が増加し、インペラとケーシングが接触することで、ポンプの回転が不可能となり、大量リコールの原因となったことが知られている。

 今回のホース破壊の現象を微細に観察すると、該当ライナーの外側を覆う、ラバーは補強するメッシュ繊維樹脂を残し、ゴムの本体は粉砕されたかのように残らず消えているが、長期間の膨潤により結合力を失った結果がなした現象だろう。

 なお、該当ライナーの正しい樹脂名は不明であるが、耐溶剤性に極めて強いフッ素樹脂系かフェノール樹脂系の素材ではないかと想像する。なお、樹脂は大別すると熱可塑性と熱硬化性に区分されるが、今回の該当ライナー部をライターの火炎で過熱する実験を行ったところ、加温により該当ライナーは軟化することはなく、加温を続けると炭化することから、熱硬化型樹脂であろう。なお、例外はあるが、一般事例としては、熱硬化型の方に耐溶剤性の強い樹脂素材が多いと云うこともある。

 以上記して来て、今回の燃料ホースの破壊が、内部ライナーに生じたクラックが原因となったと云うのが私の判断となるが、それが何によって生じたのかという疑問が生じる。これはあくまで想像の域になることであるが、新品製造時に予めライナーの欠陥が生じたまま、その廻りをラバーとメッシュ樹脂で加硫して製造したという可能性もあるのだが、それなら該当ホースを製造するサプライヤーの他の車種でも同様のトラブルが多発することになるだろう。そのことを考慮すると、該当車でのみ、該当部にて、今回の現象が生じたというところを考慮すると、新車製造時に、該当ホースはデリバリーチューブ側に該当ホースをコネクティングさせた状態で、完成車体にエンジン・トランスミッションとフロントサスペンションを一体で、車両下部よりボデーとドッキングさせる工程があることが想像できるが、この際にエンジン位置が後方へずれたまま上昇させることで、ボデー側のダッシュセンタートンネル前端部付近に接触させてしまったのではないだろうか。その結果として、該当ホース部位は強く潰れ変型を生じ、この際に同ライナー部のホース軸方向の亀裂を生じさせたのではないだろうか。だとすれば、この今回のトラブルは15年前に仕組まれた要因により内在されていたと云うべきものだが、このことを客観的に証明することは甚だ困難であろう。

 なお、最後にガソリンの耐腐食性に関わる知見として幾つか述べておきたい。昨今は旧車がある意味一部の層ではあろうが、人気を生じているところであるが、さほどの旧車でなくても、数年とか放置した車両の燃料タンク周辺を観察したとき、タンク内面とか金属類の錆びに驚くことは多いが、それと共に、タンク内のラバーホースとか樹脂製燃料ゲージフロートの脆化具合を知り驚くことがある。燃料タンクは既に20年以上前から樹脂製(主にPP基材樹脂)が多くなったが、そもそもタンク内に使用される樹脂フロートとかラバーホースなどは、耐ガソリンなど溶剤性に優れた樹脂を使用しているのだが、特にタンク内のガソリンが少量気味だと、ガソリンの揮発成分は放散しつつ、残留ガソリンの変質が生じることが、ものの記述には記されてることが多い。曰わく、揮発成分の放散により残留ガソリンの粘度が増加しつつ、本来の赤着色から褐色に変色すると共に刺激臭を増す。ガソリンに含まれるアルケンが空気中の酸素で酸化され蟻酸や酢酸に変化しつつ酸性度を増す。これにより金属部の腐食とか、耐溶剤性の高い樹脂を侵し始めると云うことの様だ。このことは、今回のライナー亀裂を生じさせたとは想定できないが、そこから外部ラバーに浸透した膨潤を促進させたと云う可能性も否定できないだろう。


#BMW・E90燃料もれ #燃料ホース破壊 #ホース破壊分析


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