私の思いと技術的覚え書き

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損保ジャパン社のAI見積に感じること

2020-03-26 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 つい先日聞きかじった、損保ジャパン(正確には損保ジャパン日本興亜)が昨年11月より運用を開始した画像からAIで見積を作成し、支払いを進めるということを改めて考え、現時点で懸念される事項について書き留めてみたい。

 この損保ジャパン社のAI見積の概要は、写真1および2の内容のものだ。すなわち、SNSのLINEチャット機能で、保険契約者(もしくは被保険者や代理人)が撮影した画像を送信し、AIと称するコンピュータープログラムで見積を作成し、その金額の下限と上限を報告するものだという。

 ここからは、拙人の想像も含むが、直ぐ修理する場合は修理工場(できるだけ指定工場)へ入庫誘導させ、確定した修理費を支払うのであろう。もし、直ぐ修理しないと場合は、担当者との打ち合わせにおいて、保険契約者と合意できた金額について確定とし、それに基づき過失割合とか免責金額を加味し保険金支払いを進めるということだろう。

 さて、ここで問題として想像できることを以下に列記する。
①果たしてAIと称するもので、何処まで妥当性のある見積ができるのだろうか?
 そもそも拙人はAI、すなわち人工知能なんてものの完成度にいささか懐疑的を持つ。AIと称しても、通常のコンピュータープログラムと同様で、一定のアルゴリズム(手順)で判断を行い、結論を出すに過ぎないものだ。そこには、人間であれば、経験と勘に裏打ちされた、様々な思考と判断だとか、車両の特徴、変形の具合など、およそ無限とも思える様々な要件を勘案し、見積作成が行われるのだが・・・。果たして、今回のAIが何処まで、深掘りできるアルゴリズムを持っているのか、表面をさらっとなめる、極めて幼稚なものである可能性もあるのかもしれない。
※当件については、当方も長年損保に関わった者として、多少は損保ジャパン関係者にもコネクションがある。この件を質してみると、現在のところAI見積を改めて人間が検査し、適宜修正して妥当値を補完しているというのが実態の様だ。

②そもそも画像を契約者サイドに撮影させるというリスクが判っているのか?
 写真は真実を映すものとは必ずしも云えない。撮影する角度や照明(光線)の具合によっても、変形は大きくも小さくも、あたかもなかったかの如く見えたりするものだ。それと、その思考をもっと進めてしまうと、何らかの悪意のある加工を施し、撮影する可能性も排除できないだろう。つまり、もっと具体的例を記せば、明らかに修理ができるレベルの傷を、取替相当の変形に拡大する余地を生みやしないだろうかということだ。

③損保の保険対応については、損害額を決める前段階として、いわゆる整合性の確認という動作が欠かさず求められる。すなわち、その事故損傷が、届出のあった事故によるものであるのかどうかという、モラルリスク(道徳的危険)の排除のために行う極めて重要な動作だ。保険会社は、善良な契約者から保険料を集め、その善良な契約者が万一の事故の際、保険金として支払うことで成立している。もし、そこに不良な契約者が紛れ込んでいて、見境なしに保険金を支払うと、善良な契約者にとって不公平となるばかりでなく、最終的には保険会社の収益を悪化させ、保険料の値上げすら結び付く問題となる。だから、モラルリスク案件については、極力排除に努めなければならないのが保険会社の使命となるのだ。

④これによって実際は直さない場合が増えるだろう。つまり修理工場の入庫量が減るだろうと予想される。景気減退が継続する現代社会においては、そのまま走れるという前提においては、事故の修理を満足にしないまま乗り続ける事例は多い。今回のAI見積では、それをますます加速させるという懸念を持つと同時に、それでなくとも入庫台数(処理台数)の減少に喘ぐ板金工場の苦境を増すだろうと予想される。



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