私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

ルポルタージュ・損害調査員 その7【賠償額の確定も一種の示談ということ】

2022-06-22 | コラム
ルポルタージュ・損害調査員 その7【賠償額の確定も一種の示談ということ】
 第7回目のルポルタージュとして記すが、昨今の損保調査員(技術アジャスター)は自他ともに見積屋であることを認識しているということがある。それと、私が損保在職中に、先輩もしくは後輩で、この仕事を継続するのが精神的に辛く、退職を決断するという機会を何度か見てきて、その中には理由を聞き、説得を試みたケースもあるのだ。この様な中で、退職を決意した理由に「示談の心労が辛い」という理由があるのだが、このことについて論じてみたい。

 つまり、この退職決意者は損害見積の調査であれば、被害者などとの当事者から罵声を浴びされることもなく、分損で大概の場合、修理工場と修理費の合意(これを損保では協定と呼んでいる)するのであれば、互いに専門知識の中で多少の非難の応酬はあったにせよ、対被害者との様にまったく理不尽な問題をぶつけられる様な問題もなく気分が落ち込む様なこともないというものだろう。

 ここで、私の意見は、対修理工場と修理費協定という行為も、示談とまったく同じで、保険会社は専門家同士の修理費の打ち合わせ合意であり、その修理費の代理合意行為をあえて協定と呼び、非弁行為ではないと見せているのだが、私にいわせりゃ、自分のクルマでもなものを幾ら専門家だろうがかってに修理費を決める権利などありゃしないのであって、この協定という名称の行為は、一種の示談行為(それが直ちに賠償額ではないのだが、賠償額を決める基本要素額となるから)に違いないと思っている。

 しかも、損害賠償の示談も、修理費の協定も、話し合い合意し、双方の了解を得るという点では、示談とまったく同じことなのだと理解している。ただし、損害調査の場合は、中には協定をあえてしないという場合が幾つかあり得る。つまり、端的なのが全損の場合、そして修理工場の主張が高額すぎて協定を自ら拒否する場合、その逆に修理工場側が自らの主張を認められないならと協定を拒否する場合だろう。

 という様な論理からすれば、示談が心労で何て思考は下らないもので、逆上した被害者に対して、企業として逆上して言い返すことは控えるにしても、ムリして示談をする必用もないし、修理工場に対してもムリして協定する必用なんかないのだ。ただし、誤解しないでもらいたいのは、自分が逃げることを前提に、案件から逃げることを勧めている訳ではない。これを繰り返すと、あいつは仕事のできない者との烙印を押され、評価は下がり組織は必ずしも本人の望まない部署の異動とか、本人が依願退職を言い出すことも辞さない仕打ちに出て来るものだ。

 と云うことで、示談が決裂するにしても協定が行き詰まるにしても、自ら二度と交渉再開の余地をなくすような別れ方はしない様にしなければならないだろう。こういう交渉毎は、国家間の外交考交渉でも同じで、先の大戦で米国にいじめ抜かれた日本は、交渉を諦め、破れかぶれの戦争へとアホな決断をした訳だが、損保の場合でも、訴訟の場にステージアップする手もあるが、これは一調査員が結論できるレベルではないので、どうやって攻略するか知恵を絞るのが、この仕事の醍醐味だと私は思うところだ。

 被害者でも修理工場でも同じだが、その人物に影響を与えるオピニオンの存在を思考して見るのも一つだろうと思う。被害者の場合なら、その親とかダンナの事故であれば奥さんとか、さまざまな判例がそれに該当するのだろう。修理工場であれば、その仲間の工場とか車両の所有者などが該当するのではないだろうか。人間というのは、自己の主張はそれなりにするが、得てして対した論理もなく感情的な論拠で突っ張っているケースが結構多くて、冷静になれば、ちょっとムリを言い過ぎているなとか、もしこれが公の第三者の裁定を仰いだら恥を掻くのを怖れていると云うことがあるものだ。

 修理費の協定難解事案で思い出す案件を一つ記して見よう。これは当初私の立会事案ではなかったのだが、方向を受け、私の当時の情報網で、この修理工場の女担当者(経営者奥さん)が強烈なやり手ババアで各損保の評判は最悪の輸入車販売店だと理解できる案件だった。立会担当調査員の概算額としては概ね200万程度だが、その修理工場の見積額は900万と云うことで、これはこの担当者の手に余るなと判断し、私が引き継いで交渉に当たったのだが、あまりに強気で、どうして進めようかと思案した案件だ。

 そこで、まず思考したのは、その工場の外注先のBP工場との打ち合わせだった。概略伝えると、またやっているんですか、家には安くやらせといて吹っかけるんだから困ったもんですよと、その外注先BP工場でも呆れているという話しだった。こうなればと思い、車両所有者に連絡を入れ、ことの経緯を話し、この入庫工場の金額は異常であり、品質は保証しますから、最悪の場合は該当のディーラーに入庫して下さいとの了解を得た。ここまでの下準備を整え、再度の交渉で、このままこの見積を前提にするというのなら、車両は所有者の了解も得ているので、別の工場で施行させて戴くしかありませんねと述べると、一気にトーンダウンして当方の見積ベースに引き戻すことができたのだった。


#損害調査員ルポルタージュ #被害者との示談も修理費協定も示談の要素は同じ


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。