私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

ホンダの大発明のこと

2018-05-02 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 本題の前に、家のオヤジはとっくに冥界に旅立っているのだが、オヤジでもない者に、あれやこれやと名指しで意見を封じ込めようと感じるコメント記述者がいる。これも、小生の不徳の致すところと思うしかないが、持って生まれた気性は直し様もない。また、直すつもりも金輪際ないのであって、変わらず自由気ままな毒舌論評を継続する所存であることを明記したい。

 さて、今回の話題は、ボデーワークのことであり、整備というより板金の分野となる。予てよりの私見だが、整備屋はボデーおよび塗装の知識を、板金および塗装屋は整備の知識を、つまりクルマの総体的知識を持ち対応することが極めて重要だと認識している。その様な意味を込めて記してみたい。

 本題の「大発明」のことであるが、発明というとちょっと大げさかもしれぬが、このホンダオリジナルの車両組み立てにおける一部工法は、現在の乗用車においては、国産のすべてのみならず、ベンツ、BMW、VWなど、EU諸国や米国を含み、世界中でコンベンショナル(極一般的)な工法として採用されているものだ。

 その一部工法とは、AピラーからBピラーそしてCピラーおよびリヤフェンダーを含めた一体のサイドアウターパネルをプレス成型し、ルーフパネルとの接合部(スポット溶接)をモールディングで隠す処理を行うことを指す。このホンダオリジナル工法の初の採用車種は、1300クーペだったそうだ。その意図は、創業社長の宗一郎氏の「ハンダを使うな!」という指示が起点となったと云うことである。それ以前のホンダを含め世界中のクルマは、サイドパネルのそれぞれは別プレス成型品であり、特にCピラー上部は、最後にルーフを被せ、凹部をスポット接合後、ハンダ盛り成型を行い、次工程の塗装工程を行っていたのだ。

 ところで、ホンダのサイドパネル一体成型後、直ちに世界中のクルマメーカーが製造工法を変更した訳ではない。トヨタなど、別パーツのCピラー(含むリヤフェンダー)とルーフの接合を、ハンダを使わず、アークブレージング(MIG溶接と類似した自動供給される真鍮ロウ芯線と母材とのアーク熱でロウ接合する工法)により行なうことで進化していた。また、例えばベンツなど、Cピラー根元にガーニッシュを設け、これによりスポット接合部を隠すという処理が行われたりしていた。

 ところが、ホンダオリジナルのサイドパネル一体構造は、数十年を経て、世界中でコンベンショナルな工法となった。それは何故かと想像してみると、ボデー寸法精度として、極めてシビアとなるドア廻りのチリを極めて高精度に達成できるとか、生産効率が極めて向上できるという辺りとなるのであろう。なお、現在のクルマではテーラードブランク鋼板と呼ばれる、ABC各ピラーアウターやルーフサイドアウターおよびロッカーアウターなどの部位を、要求に応じた板厚でレーザービーム溶接し、一体となったブランク(打ち抜き)鋼板をプレス成型することで、クラッシュ特性(およびボデー剛性)と軽量化の両立を図っている。

 さらに時代は進歩して、ルーフ外観にモールがないクルマも出始めている。しかし、それでも昔のクルマと違い、サイドアウターパネルは一体成型品が使用されている。それは何故かということだが、サイドアウターのルーフサイド部とルーフをレーザーブレージングにより連続ロウ付接合することで行うもので、VWがゴルフ5以降で採用し始めたものだ。最近、元祖ホンダでも、新型N-BOXで同様の工法を取り始めた様だ。(ホンダではレーザーブレーズと呼称する)

事後談
 このサイドパネル一体式工法であるが、補給部品は各パート別にカットして供給されるので、個別事故の対応に大きな問題はない。但し、スズキだけはカットパーツを供給しない体制を取り続けており、利用者がカットして使用し、不要な部分は廃棄するという過大な負担を利用者に要求する企業姿勢は如何なものかと感じるところではある。なお、ルーフパネルについては、モール付きの場合はモールさえ取れば、比較的容易に切り離しが可能となる。

 さて、問題は、レーザーブレージングの場合だ。正直いって、この工法の補修は板金屋泣かせだろうと想像している。そもそも切り離しにおいて、やたら加熱すると残部パネルに熱歪を生じる可能性が生じるだろう。かといって、粗切り後にサンディング研削で旧パネルを除去するのも相当な手数を要するだろう。そして、問題は新パネルをロウ付けなりMIG付けなりしたとして、その面仕上げに要する工数を想像すると半端でないことを想像する。ちなみに、補修用として板金工場レベルで使えるレーザー溶接機というのは現在存在しないし、例えあったところで、大メーカーのNC制御ロボットが使える訳もないのだ。

※写真は①ホンダ1300クーペのルーフ部、②ホンダN-BOXルーフ部断面写真、③同断面の筆者作図概略図。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。