EVユーザー約5割が「ガソリン車に戻りたい」……問題はやっぱり「充電」だった
7/23(火) 6:50配信 ビジネス+IT
図1:EV普及が頭打ちを迎えている(コックス・オートモーティブの資料より編集部作成)
EV普及が頭打ちを迎えている。その上、米国EVユーザーも46%が「ガソリン車に戻りたい」とマッキンゼーの調査で答えているという。こうした状況を招いた大きな要因が充電ステーションだ。中でも、EV充電で事実上の北米標準規格となったテスラが、4月に自社充電部門を閉鎖したのは業界に大きな衝撃が走った。これに対して、トヨタやホンダらのEV関連企業が新たな動きを見せる。本稿では、EV充電網の現状をまとめ、今後の動向を占う。
【詳細な図や写真】図3:色が濃いほど、数が多い。EVユーザーの多い大都市部に集中していることがわかる(ピュー・リサーチセンターより編集部作成)
46%が「ガソリン車に戻りたい」と回答
米国におけるEVの普及が頭打ちになっている。自動車市場調査企業の米コックス・オートモーティブがまとめた四半期ごとのEV新車販売台数と新車販売全体に占める割合(冒頭の図1)を見ると、「横ばいあるいは前年割れ」の傾向が顕著になった。
そして、コンサルティング大手のマッキンゼーが6月に発表した調査においては、現在米国でEVを保有する層の46%が「ガソリン車に戻りたい」と答えている。その大きな理由として挙げられるのが、充電網の整備が進んでいないことだ。特に公共の充電ステーション不足は深刻で、EV購入に前向きな消費者をためらわせる要因になっている。
その充電ステーションについて、米エネルギー省によれば全米で約6万7900軒が設置済みという。それらの施設には、公共の充電器と、限られたユーザーのみが使える充電器の合計18万8600個が備わっている。ちなみに米国石油協会(API)のレポートによれば、全米のガソリンスタンドの数はおよそ14万5000軒で、給油ノズルの数は150万個だった(図2)。
図2:依然としてガソリンスタンドの方が大きな数字を保っている
(米エネルギー省や米国石油協会のデータを基に筆者作成)
とは言え、EV充電ステーションは、2020年のわずか2万9000軒から、2024年には倍以上になっており、大きな進歩を遂げている。しかしその実態は、主にEVオーナーの多い大都市部に集中しており、特にEV普及率の高い西海岸と東海岸にはより多く設置されている(図3)。
どのような都市や小さな町にも当たり前のように存在するガソリンスタンドと比較して、EV充電ステーションは都会を一歩離れるとその数が圧倒的に少なく、都市部以外におけるEV販売の足を引っ張る結果になっているのだ。
次のページでは、充電ステーションの動向をさらに深堀しつつ、充電ステーションの増設を妨げる障壁を4点などについて解説します
充電器は「今の5倍以上」がまだ必要だが……
一方で、米エネルギー省が2023年6月におよそ1万人の米成人を対象に実施したアンケートにおいて、最寄りの公共充電ステーションまでの距離を答えてもらった回答の分布(図3)を見ると、自宅から1マイル(約1.6キロメートル)未満、あるいは1マイル以上2マイル(約3.2キロメートル)以下の範囲内に公共充電ステーションがあると回答した割合が全体の64%に上った(図4)。
さらには、全米のEV販売総数が330万台に達する中、充電器1個当たりのEVの数は2016年の7台から2024年には20台にまで増えた。一般的に充電ステーションでは充電器の稼働率が15%を超えると収益が見込めるが、30%に達すると「充電器がいつもふさがっている」と敬遠される。このバランスが難しいところだ。
つまり、EVの充電場所が近くにない「充電砂漠」は都市部を中心に解消されつつあるものの、EVの台数が増えて充電器の確保が困難になりつつあるのが、現在の米国の状況だ。充電器の数は、現在の5倍以上の100万個必要になるとの試算もある。当然、充電ステーションの増設が急がれるのだが、4つの原因などから、それがなかなか進まないようだ。
増設を妨げる「4つの障壁」、「ホンダら」に動きも?
ここでは、充電ステーションの増設を妨げる障壁を4点紹介する。
まず、米国のEV充電施設は信頼性が極めて低い。サンフランシスコ周辺のベイエリアは、EV普及率が37%と全米で最も普及している場所の1つだ。だが、カリフォルニア大学バークレー校が2022年に同地域で実施したEV充電施設の調査によると、公共EV充電施設全体の1/4以上が何らかの故障を抱えていることがわかった。
たとえば表示ディスプレイが壊れている、決済を実行できない、充電ケーブルが短すぎてEVに届かないなど、散々な状況だ。スタンフォード大学のブルース・ケイン教授は、「カリフォルニア州で2030年までに12万9000軒の充電ステーションを建設する目標は崇高だが、ぶっちゃけ率直に言わせてもらえば、非現実的だ」とAP通信に対して語った。
しかし、市場調査およびコンサルティング大手のJ.D.パワーの調べによると、2024年1~3月期には、状況は改善されつつあるという。全米規模では、EV充電大手のエレクトリファイ・アメリカの故障率は9%と前年同期の11%から改善され、最も信頼性の高いテスラのスーパーチャージャーは故障率が5%であった。
信頼性改善の兆しが見えた中、EV充電規格で事実上の北米標準となったテスラが4月に突然、経費削減を理由に充電部門500人を解雇し、閉鎖した。これが障壁の2点目だ。
人気のスーパーチャージャーが他社EVにも開放されることに期待していたライバルのEV各社には、大きな衝撃が走った。その後テスラは充電部門を再建したが、将来に不透明さが残り、スーパーチャージャー事業の展開も不透明なままだ。業界規模の充電網発展に向け、足並みが乱れたことは否めない。
3点目は、コンビニ併設のガソリンスタンドを全米で展開するケイシーズ・ゼネラル・ストアーズが、各店舗におけるEV充電器設置の計画を延期したことだ。同社は、EVの充電レベルが80%に達するまでに平均35分もの時間を要し、まだ実用の段階に達していないと判断。これに加え、CHAdeMOやCCSなど充電規格の淘汰が起こったことを考えると、今日の設備投資が明日には時代遅れになる可能性が高いからだという。
そして4点目は価格だ。便利な急速充電を提供するステーションでも、「充電価格が高すぎる」との不評が聞かれる。その一方で、充電時間の長いレベル2(交流)から、急速充電のレベル3(直流)への移行が進まず、現在建設が進む多くのレベル2施設は完工して間もなく時代遅れとなって投資が回収できない懸念もある。
こうした中、EVメーカーの独BMW、トヨタ、ホンダ、米ゼネラルモーターズ(GM)、韓国ヒョンデ、独メルセデスベンツ、欧州のステランティスが、テスラのスーパーチャージャーへの依存を減らすべく、北米でIONNAと名付けられたレベル3の急速充電網を立ち上げた。連邦政府の補助金による展開加速を目指す。
EV充電に1.2兆円、でも“情けない”状況を招いた「3つの理由」
米バイデン政権はEV普及に弾みをつけるべく、2030年までに全米で新たに50万軒のEV充電ステーションを増設する計画だ。財源も確保できている。具体的には、2021年に超党派で成立したインフラ法により、EV充電全体に75億ドル(約1兆2,121億円)、その内50億ドル(約8,981億円)を充電網の整備に対する補助金に充てることが決まっている。
この方針には、ユーザー心理に基づく根拠がある。2023年6月の米世論調査機関ピュー・リサーチセンターの調査によると、EV充電ステーションの近くに居住する回答者はすでにEVを保有しているか、あるいは購入を検討中と答える率が高いことが示されたからだ。
ところが、EV販売の急減速、その影響を受ける充電ステーションの中長期的な採算性の問題、自治体によってバラバラな建設に関わる規制、そしてEV普及推進の旗振り役である連邦政府自体の過剰な規制が、迅速な充電網の展開を妨げている。
西部オレゴン州選出のジェフ・マークリー上院議員は6月に、50億ドルの連邦補助金支出と2年以上の年月を経てもなお、7カ所の充電ステーションしかオープンできていない現状に不満を表明。「身内」であるはずのバイデン政権を、「実に情けない(just pathetic)」と批判した。
こうした状況を招いた第一の理由に挙げられるのは、誰が公共充電ステーションの建設主体となるべきなのか、政府にも業界にも市民の間にもコンセンサスが形成されていないという事実だ。その結果、EVメーカー、スタートアップ、小売など業種も目的も異なる各企業が独自に展開し、展開に統一性を欠く事態になっている。
第二に、充電ステーション建設の規制が各自治体で大きく異なり、許認可に数カ月、悪くすれば数年間の時間がかかることが障害だ。また、連邦レベルの「最低50マイル(約80キロメートル)ごとに充電ステーションを設置」という補助金支給基準が、人口密度が低いワイオミング州などに一律に当てはめられないとの批判がある。誰も住んでおらず、EVオーナーもほとんどいない大自然の中に充電ステーションを作るのは、意味がないからだ。
第三に、ステーション建設のために電力企業あるいはエネルギー事業体との協力が必要だが、それぞれの企業・事業体で価格面やグリッドの供給能力面で必ずしも足並みがそろっておらず、連邦政府も全体をまとめることができていない。さらに充電ステーション建設に際しては、バイデン政権が請負業者に対して人種やジェンダーの多様性、およびインクルージョンの基準に満たすことを要件にしたため、適合事業者を見つけて審査することに時間と労力が費やされ、肝心の展開が迅速に進んでいないのが現状だ。
このほかにも、EV製造で需要が高まる銅の価格が上昇し、EV普及が進んだシアトルなど主要都市の充電ステーションにおいて、銅を使ったケーブルが大量に盗難に遭うなど、皮肉な事態も起きている。充電器が混雑でふさがっているどころか、使用不能ではEV購入を検討する層がますます遠ざかるだろう。
こうした背景の下、EV購入に前向きであった米消費者の考えに変化が起きている。米AP通信とシカゴ大学が3月から4月にかけて6265人の米成人を対象に実施した世論調査では、40%の回答者が「EV充電には時間がかかり過ぎ、最寄りの充電ステーションがどこにあるかもわからない」と答えた。エレクトリファイ・アメリカではカリフォルニア州内のステーションにおける混雑時対策として、満充電を許可せず最大85%に制限したが、顧客のニーズと乖離しており、さらなるEV離れが懸念される。
この状況を少しでも反転させるには、アパートなど集合住宅の駐車場における充電器の設置・増設や、公道の路肩における充電器設置などが急がれる。だが、抜本的な問題である過剰な規制や政府・民間の足並みの乱れが解消されない限り、EV充電にまつわる課題は改善されず、それがEV普及の足を妨げ続けるだろう。執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎
#問題はやっぱり「充電」だった
7/23(火) 6:50配信 ビジネス+IT
図1:EV普及が頭打ちを迎えている(コックス・オートモーティブの資料より編集部作成)
EV普及が頭打ちを迎えている。その上、米国EVユーザーも46%が「ガソリン車に戻りたい」とマッキンゼーの調査で答えているという。こうした状況を招いた大きな要因が充電ステーションだ。中でも、EV充電で事実上の北米標準規格となったテスラが、4月に自社充電部門を閉鎖したのは業界に大きな衝撃が走った。これに対して、トヨタやホンダらのEV関連企業が新たな動きを見せる。本稿では、EV充電網の現状をまとめ、今後の動向を占う。
【詳細な図や写真】図3:色が濃いほど、数が多い。EVユーザーの多い大都市部に集中していることがわかる(ピュー・リサーチセンターより編集部作成)
46%が「ガソリン車に戻りたい」と回答
米国におけるEVの普及が頭打ちになっている。自動車市場調査企業の米コックス・オートモーティブがまとめた四半期ごとのEV新車販売台数と新車販売全体に占める割合(冒頭の図1)を見ると、「横ばいあるいは前年割れ」の傾向が顕著になった。
そして、コンサルティング大手のマッキンゼーが6月に発表した調査においては、現在米国でEVを保有する層の46%が「ガソリン車に戻りたい」と答えている。その大きな理由として挙げられるのが、充電網の整備が進んでいないことだ。特に公共の充電ステーション不足は深刻で、EV購入に前向きな消費者をためらわせる要因になっている。
その充電ステーションについて、米エネルギー省によれば全米で約6万7900軒が設置済みという。それらの施設には、公共の充電器と、限られたユーザーのみが使える充電器の合計18万8600個が備わっている。ちなみに米国石油協会(API)のレポートによれば、全米のガソリンスタンドの数はおよそ14万5000軒で、給油ノズルの数は150万個だった(図2)。
図2:依然としてガソリンスタンドの方が大きな数字を保っている
(米エネルギー省や米国石油協会のデータを基に筆者作成)
とは言え、EV充電ステーションは、2020年のわずか2万9000軒から、2024年には倍以上になっており、大きな進歩を遂げている。しかしその実態は、主にEVオーナーの多い大都市部に集中しており、特にEV普及率の高い西海岸と東海岸にはより多く設置されている(図3)。
どのような都市や小さな町にも当たり前のように存在するガソリンスタンドと比較して、EV充電ステーションは都会を一歩離れるとその数が圧倒的に少なく、都市部以外におけるEV販売の足を引っ張る結果になっているのだ。
次のページでは、充電ステーションの動向をさらに深堀しつつ、充電ステーションの増設を妨げる障壁を4点などについて解説します
充電器は「今の5倍以上」がまだ必要だが……
一方で、米エネルギー省が2023年6月におよそ1万人の米成人を対象に実施したアンケートにおいて、最寄りの公共充電ステーションまでの距離を答えてもらった回答の分布(図3)を見ると、自宅から1マイル(約1.6キロメートル)未満、あるいは1マイル以上2マイル(約3.2キロメートル)以下の範囲内に公共充電ステーションがあると回答した割合が全体の64%に上った(図4)。
さらには、全米のEV販売総数が330万台に達する中、充電器1個当たりのEVの数は2016年の7台から2024年には20台にまで増えた。一般的に充電ステーションでは充電器の稼働率が15%を超えると収益が見込めるが、30%に達すると「充電器がいつもふさがっている」と敬遠される。このバランスが難しいところだ。
つまり、EVの充電場所が近くにない「充電砂漠」は都市部を中心に解消されつつあるものの、EVの台数が増えて充電器の確保が困難になりつつあるのが、現在の米国の状況だ。充電器の数は、現在の5倍以上の100万個必要になるとの試算もある。当然、充電ステーションの増設が急がれるのだが、4つの原因などから、それがなかなか進まないようだ。
増設を妨げる「4つの障壁」、「ホンダら」に動きも?
ここでは、充電ステーションの増設を妨げる障壁を4点紹介する。
まず、米国のEV充電施設は信頼性が極めて低い。サンフランシスコ周辺のベイエリアは、EV普及率が37%と全米で最も普及している場所の1つだ。だが、カリフォルニア大学バークレー校が2022年に同地域で実施したEV充電施設の調査によると、公共EV充電施設全体の1/4以上が何らかの故障を抱えていることがわかった。
たとえば表示ディスプレイが壊れている、決済を実行できない、充電ケーブルが短すぎてEVに届かないなど、散々な状況だ。スタンフォード大学のブルース・ケイン教授は、「カリフォルニア州で2030年までに12万9000軒の充電ステーションを建設する目標は崇高だが、ぶっちゃけ率直に言わせてもらえば、非現実的だ」とAP通信に対して語った。
しかし、市場調査およびコンサルティング大手のJ.D.パワーの調べによると、2024年1~3月期には、状況は改善されつつあるという。全米規模では、EV充電大手のエレクトリファイ・アメリカの故障率は9%と前年同期の11%から改善され、最も信頼性の高いテスラのスーパーチャージャーは故障率が5%であった。
信頼性改善の兆しが見えた中、EV充電規格で事実上の北米標準となったテスラが4月に突然、経費削減を理由に充電部門500人を解雇し、閉鎖した。これが障壁の2点目だ。
人気のスーパーチャージャーが他社EVにも開放されることに期待していたライバルのEV各社には、大きな衝撃が走った。その後テスラは充電部門を再建したが、将来に不透明さが残り、スーパーチャージャー事業の展開も不透明なままだ。業界規模の充電網発展に向け、足並みが乱れたことは否めない。
3点目は、コンビニ併設のガソリンスタンドを全米で展開するケイシーズ・ゼネラル・ストアーズが、各店舗におけるEV充電器設置の計画を延期したことだ。同社は、EVの充電レベルが80%に達するまでに平均35分もの時間を要し、まだ実用の段階に達していないと判断。これに加え、CHAdeMOやCCSなど充電規格の淘汰が起こったことを考えると、今日の設備投資が明日には時代遅れになる可能性が高いからだという。
そして4点目は価格だ。便利な急速充電を提供するステーションでも、「充電価格が高すぎる」との不評が聞かれる。その一方で、充電時間の長いレベル2(交流)から、急速充電のレベル3(直流)への移行が進まず、現在建設が進む多くのレベル2施設は完工して間もなく時代遅れとなって投資が回収できない懸念もある。
こうした中、EVメーカーの独BMW、トヨタ、ホンダ、米ゼネラルモーターズ(GM)、韓国ヒョンデ、独メルセデスベンツ、欧州のステランティスが、テスラのスーパーチャージャーへの依存を減らすべく、北米でIONNAと名付けられたレベル3の急速充電網を立ち上げた。連邦政府の補助金による展開加速を目指す。
EV充電に1.2兆円、でも“情けない”状況を招いた「3つの理由」
米バイデン政権はEV普及に弾みをつけるべく、2030年までに全米で新たに50万軒のEV充電ステーションを増設する計画だ。財源も確保できている。具体的には、2021年に超党派で成立したインフラ法により、EV充電全体に75億ドル(約1兆2,121億円)、その内50億ドル(約8,981億円)を充電網の整備に対する補助金に充てることが決まっている。
この方針には、ユーザー心理に基づく根拠がある。2023年6月の米世論調査機関ピュー・リサーチセンターの調査によると、EV充電ステーションの近くに居住する回答者はすでにEVを保有しているか、あるいは購入を検討中と答える率が高いことが示されたからだ。
ところが、EV販売の急減速、その影響を受ける充電ステーションの中長期的な採算性の問題、自治体によってバラバラな建設に関わる規制、そしてEV普及推進の旗振り役である連邦政府自体の過剰な規制が、迅速な充電網の展開を妨げている。
西部オレゴン州選出のジェフ・マークリー上院議員は6月に、50億ドルの連邦補助金支出と2年以上の年月を経てもなお、7カ所の充電ステーションしかオープンできていない現状に不満を表明。「身内」であるはずのバイデン政権を、「実に情けない(just pathetic)」と批判した。
こうした状況を招いた第一の理由に挙げられるのは、誰が公共充電ステーションの建設主体となるべきなのか、政府にも業界にも市民の間にもコンセンサスが形成されていないという事実だ。その結果、EVメーカー、スタートアップ、小売など業種も目的も異なる各企業が独自に展開し、展開に統一性を欠く事態になっている。
第二に、充電ステーション建設の規制が各自治体で大きく異なり、許認可に数カ月、悪くすれば数年間の時間がかかることが障害だ。また、連邦レベルの「最低50マイル(約80キロメートル)ごとに充電ステーションを設置」という補助金支給基準が、人口密度が低いワイオミング州などに一律に当てはめられないとの批判がある。誰も住んでおらず、EVオーナーもほとんどいない大自然の中に充電ステーションを作るのは、意味がないからだ。
第三に、ステーション建設のために電力企業あるいはエネルギー事業体との協力が必要だが、それぞれの企業・事業体で価格面やグリッドの供給能力面で必ずしも足並みがそろっておらず、連邦政府も全体をまとめることができていない。さらに充電ステーション建設に際しては、バイデン政権が請負業者に対して人種やジェンダーの多様性、およびインクルージョンの基準に満たすことを要件にしたため、適合事業者を見つけて審査することに時間と労力が費やされ、肝心の展開が迅速に進んでいないのが現状だ。
このほかにも、EV製造で需要が高まる銅の価格が上昇し、EV普及が進んだシアトルなど主要都市の充電ステーションにおいて、銅を使ったケーブルが大量に盗難に遭うなど、皮肉な事態も起きている。充電器が混雑でふさがっているどころか、使用不能ではEV購入を検討する層がますます遠ざかるだろう。
こうした背景の下、EV購入に前向きであった米消費者の考えに変化が起きている。米AP通信とシカゴ大学が3月から4月にかけて6265人の米成人を対象に実施した世論調査では、40%の回答者が「EV充電には時間がかかり過ぎ、最寄りの充電ステーションがどこにあるかもわからない」と答えた。エレクトリファイ・アメリカではカリフォルニア州内のステーションにおける混雑時対策として、満充電を許可せず最大85%に制限したが、顧客のニーズと乖離しており、さらなるEV離れが懸念される。
この状況を少しでも反転させるには、アパートなど集合住宅の駐車場における充電器の設置・増設や、公道の路肩における充電器設置などが急がれる。だが、抜本的な問題である過剰な規制や政府・民間の足並みの乱れが解消されない限り、EV充電にまつわる課題は改善されず、それがEV普及の足を妨げ続けるだろう。執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎
#問題はやっぱり「充電」だった