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急速燃焼のカナメ・スキッシュとタンブル

2022-09-24 | コラム
急速燃焼のカナメ・スキッシュとタンブル
 かつての自動車デザイナー(ここではメカニカルデザイナーを指す)は、エンジンについては燃焼理論とかフリクションロスとか、主にハードウェアとしての改善を追求してきた。一方、シャシデザイナーも、サスペンションのジオメトリーとかコンプライアンスブッシュの容量とか特性やスプリングレートとダンパーのマッチングなど、やはりハードウェアの改善を追求してきた。

 ところが、CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)への動きが至近の課題となるに従い、ハードの改善については、これは極論となるがこの20年まったく革新はなくなったと云うのが私見たるクルマへの意見だ。つまり、この20年車両デザイナー達は、ハードウェアの革新より、バイワイヤテクノロジーとかダイナミック○○という動的可変機構を取り入れることにより、ハードウェアはそのままもしくは、さらに簡略化によるコスト低減しつつコンピューターコントロールによる、いわばハードでなくソフトによる改善に終始して来たと云えるのではないだろうか。

 この思考を沈思してみるに、現代のあらゆる産業において、世の動きも類似のものが根底にはある様に思っている。つまり、職業専門家は、自らの思考に頼るのではなく、コンピューターが集積したデータだけを持って、その確率とかを元に、根源的な思考を排除し、ひたすらリスクを避け上位職が決めた陳腐なマニュアルに従うことだけに精一杯の業務を行って来たのではないだろうか。

 至近のことだが、ある自動車板金経営者と意見交換をする中で、昨今は損保調査員が何かに付け「会社が認めない」とう云い方をしてくると云う話しがあった。私の10年前の現役時代でも、中にはその様な抗弁に終始する者はいたが、私自身は会社が決めたからと云う否定のしかたをしたことはこんりんざいなかった、道理が通らない問題は、その問題の本質として、どうして世の道理が通らないかを論議して来たつもりだ。つまり、私は一企業の従業員ではあるが、それと共にその職種の専門家として、会社の判断ではなく、専門家個人の意見として意見表明しつつ、ものごとの本質を見つめてきたつもりで、このことは現在の自営業になってさらに明確になったと思っている。

 これについて、親しい交友関係を維持する元同業者などと話すと、専門家たる職種のサラリーマン化に尽きるのではないかというところに至るのである。つまり、末端であろうが中間であろうが、場合によれば最上位の社長であろうが、サラリーマンという枠の中での思考に留まり、ものごとの本質をあえて見ないもしくは忌避しつつ、会社が決めていると逃げて責任を回避するという思考なのだろう。

 さて、何時もの如く本論前の前置きが長くなり過ぎたが、今回の本論はエンジンの燃焼において、特に火花点火式エンジン(オットーサイクル=ガソリンエンジン)のカナメとなる、燃焼速度に大きく関わりのあるピストンTDC(上死点)におけるスキッシュエリアがどうして必用となるのかについて記してみたい。なお、私は、大学などで学術的に燃焼理論を研修して来た者ではなく、ここで記すのは、過去さまざまな書籍や学術論文において、私なりにもっともな意見として評価した結果としてまとめたものだ。

 内燃機関としてはガソリンエンジンの火花点火によるオットーサイクルと、軽油を使用するディーゼルエンジンのディーゼルサイクルがあるが、ここではオットーサイクルを中心に述べる。オットーサイクルでは、火花点火による混合気の点火が周辺に燃え広がる火炎伝播という燃焼を行う。この火炎伝播だが、その速度は常温、常圧の開放された環境では0.4m/s程度と大して高速なものではない。ところが、エンジンン稼働中の火炎伝播速度はエンジン回転数によりどんどん高速になって行くことが現実問題としてある。このことを、ある大学教授は、オットーサイクルが持つ天の恵みであり、これがディーゼルにはないガソリンエンジン(オットーサイクル)の特徴であり、高回転を可能にしていると云う。

 では、何故稼働中の火炎伝播が速くなるのかと云うことだが、要点はシリンダー内に吸い込まれ圧縮される混合気の乱流(タービュランス)によるものだという。つまり、高速回転になるほど、ピストン速度が上がり、吸入ポート内を吸引される混合気の流速もあがるので、圧縮行程中にシリンダー内で発生する乱流は速くなることがある。

 この乱流だが、支離滅裂でメチャクチャに流れるという訳でなく、2種類に大別できると云う、1つは、シリンダー内を旋回する様に流れるものでスワールと呼ばれるそうだ。そして、もう一つは、シリンダー内で縦の渦を作り出すものでタンブルと呼ばれるという。

 一昔(20年程以前)の希薄燃焼エンジンなどで、吸気ポートを曲面状にしたり、専用のガイド翼を設けることで吸入混合気に恣意的にスワール渦流を生み出すものがあった。ところが、その後の試行錯誤とか研究により、燃焼速度改善には、スワールよりタンブルの方の寄与が大きいということが判って来て、最近ではスワール渦流云々を聞くことが少なくなった。

 さて、このシリンダー内の縦の乱流たるタンブルはどうやったら積極的に生み出せるかだが、ピストンTDCにおけるスキッシュの有無が大きな要因となることが判っているという。このスキッシュとは、シンダーヘッドに形成される燃焼室の周辺に、恣意的に平滑な部分を成型することで、ピストンTDCでは、ピストン上面と平滑なシリンダーヘッドは、ヘッドガスケットの厚み(0.3~1.0mm程度)分と極狭い範囲となり、これをスキッシュエリアと呼ぶが、ピストン上昇の圧縮行程終わり時には、ここでスキュシュ(squish:押し潰すの意)された混合気は、強く押し出され燃焼し室内に強いタンブルタービュランスを生み出すと云う。これにより、オットーサイクルが元来持つ、高回転で乱流が増すことで火炎伝播が速くなるを、さらに速くする急速燃焼が可能になると云うことの様だ。

 ここで、やはり一昔前に流行った、4弁エンジンを越える5弁とかの多弁エンジンが、何故近年なくなったかを考えて見たい。



 そもそも、4弁エンジンは、吸排気バルブを多弁化することで、吸排気高率を上げることが目的であり、4弁までは速やかに生産技術の向上と共に普及した。ただし、4弁の場合は各バルブをなるべく大きく設計しても、それを取り囲む輪郭線はシリンダボアの接線とは隣接せず、スキッシュエリアが生じる。ここで、吸気3、排気2の5弁エンジンとか、各バルブの傾斜を、前後面視だけでなく側面視でも傾斜させ、正に燃焼室をボア接線に隣接する様な設計のエンジンンも一部作られた様だが、この場合それなりにバルブは大径化できたり、燃焼室形状も、そのSV比と呼ぶが、燃焼室表面積/燃焼室容積ももっとも小さくできることにより、熱効率を上げるエンジンも考案され一部市販化された事例もあった様だが普及はしなかった。現在の4弁エンジンは、前後視だけが傾斜しつつ(このバルブ同士がなす角度を挟み角と呼ぶ)、その角度も小角度になりつつある。

 これは。4弁エンジンでは、燃焼室形状は屋根型(ペントルーフ)形状となるが、バルブ挟み角を小さくしつつ、燃焼室表面積をなるべく小さくしたいといという思想なのだろう。ただし、挟み角が小さくなるほど、バルブ傘径は小さくなるので、ガソリンエンジンでは、ディーゼルエンジンの様にバルブ挟み角をなくすまでのものはない。

 ここで、種々の書籍いよる論述によれば、自動車用オットーサイクルエンジン(ガソリンエンジン)としては、単シリンダー容積が500cc程度が、そのボアとストロークの寸法とか、ピストンとシリンダーの摩擦損失などから、最善のものという説が有力だ。となると。L4では総排気量2L、L6もしくはV6では3L、メカ的な複雑さだとか信頼性から最大気筒数となるV12もしくは水平対向もしくは180°V12では、6Lが最大排気量となる。

 単シリンダー500ccを越える、例えば第2次世界大戦の頃まで、現在の様なターボプロップやギヤードタービンがなかった時代、離昇馬力2000hpを越える様な星形14気筒エンジンなどがあったが、これらは単シリンダー容積が2Lを越えるものまであった。こうなると、幾らボアスローク比を大きくロングストローク設計にしたところで、広大なボア面積となり、これらエンジンはセンタープラグの1点点火でなく、2点などの高圧点火系を準備はしたが、火炎伝播による燃焼速度の限界から、高圧縮比は望めず、しかも燃料のガソリンは自己着火を防ぐため、最高級のアンチノック性のあるガソリンを使用しても、異常燃焼やノッキングの問題を克服するのは困難で、L当り出力は50hpがやっとだった様だ。この火炎伝播による異常燃焼とかノッキングは、プラグで点火して火炎が伝播する以前に、ボア周辺などのプラグから遠い部位では、序盤の燃焼で加圧されより自己着火し易い状態になっているにも関わらず、火炎伝播が間に合わなくなると云う限界が生み出すもので、オットーサイクルの限界を示すものだ。

 なお、ディーゼルでは、自己着火の拡散燃焼なので、ボア径による限界はなく、船舶用などではボア径数メートルのエンジンもあり、熱効率も50%を越えるが、仕事率たる馬力は回転数を上げねば得られないが、ディーゼルはガソリンに比べ燃焼速度自体が遅いので高速回転できないので、トルクは出ても、回転を上げることによる馬力は稼げない。


#火炎伝播 #スキッシュエリアが与える影響


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