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 私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

和製DB600のこと

2018-09-18 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 先月の前期(08/08)に原田コレクションで隼を見て来たことを記しました。その際、合わせて眺めたDB600ライセンス製造のアツタエンジン(現日産系サプライヤーである愛知機械)の部分写真を一部紹介してみます。

 DB600シリーズは、名称からも判るが独ダイムラーベンツ社が航空機用エンジンとして製造した、倒立V12水冷エンジン、4バルブヘッド、ディーゼルエンジンと類似のメカニカルポンプによるシリンダー直接噴射と凝ったメカニズムを持っています。これを当時、日本では独から設計図などを入手し、海軍がアツタエンジンとして愛知航空機が、陸軍が川崎航空機が、それぞれ製造していたとのことです。しかし、当時の日本には、これら長物エンジンの十分な加工精度を生み出せる工作機械がなく、その信頼性などが不十分なまま、海軍の彗星(すいせい)などでは、完成した機体にエンジン供給が間に合わず、途中から空冷星形エンジン機に改修されてしまったとか・・・。

 そんな戦前の日本の工業技術ですが、戦後は著しく発展しました。多軸マシニングセンターとかNC旋盤や各種3次元計測器、工業用ロボットなどの分野で、日本の各メーカーは世界最先端を走っているのは間違いないところでしょう。その前段階として、鉄鋼素材メーカーが良質な鋼を作り、それを基板素材として超高精度なベアリングを作り出し、キサゲというサブミクロンの領域にまで平滑度を追い込む定盤だとか各種機械のベッドを生み出せる様になったというのが、その理由ではないのかと想像しています。

 例えば、現在の内燃機関のベアリング(親・子)はオートバイや小型汎用エンジンでない限り、プレーンベアリング(平滑り軸受け:以下メタル)が使用されるが、このメタルはほとんどケルメット(銅を基材とし鉛を含む)にホワイトメタル(鈴、鉛合金)の薄膜をオーバーレイしたものが使用されます。基本的にメタルはかなり柔らかい材質だが、一方接するクランク軸は特殊鋼を鍛造加工で素型し機械加工で精密に真円度、真直度(いわゆるライン)、表面粗さを高精度に仕上げ、表面硬化も施して仕上げられます。この構成によって、必要十分なオイル供給が行われる限り、メタルの摩耗はぼ生じず半永久的と云われています。また、エンジンの稼働初期だとか、何らかの異物がメタル表面に紛れ込んでも、メタルが柔らかいことによりある程度の異物は埋め込まれ、軸側を攻撃して摩耗させることはないという信頼性が持たされていると理解しています。そんな、メタルですが、鉛とか錫の融点は200度に満たないという低いものです。何らかの原因で、オイル供給が不足したり、油温が上がり過ぎたりすれば、あっという間にメタルは流れ溶け、もしくは軸と供回りして瞬く間に摩耗してしまいます。

写真の説明
①アツタエンジンの全景。(上部がクランク側カバーでオイルパンを持たないドライサンプ式)
②ヘッド・シリンダー部(シリンダーとヘッドは一体式鋳造式)
③片バンクのシリンダー下部より見る。コンロッド形状に注目。
④反対側のシリンダー下部より見る。コンロッド形状が異なる。(これにより左右のシリンダーはオフセットがない。)
⑤4バルブ機構であるが、ヘッドとシリンダーと一体構造である。(大変加工が難しいだろう。)
⑥クランクシャフトとクランクケース(カットされている)。
⑦クランクベアリング(親)は、ローラーベアリング(半割キャリアで支持)を使用。1ヶ所明らかに高温で変色している。ライン(真直度)が出てないのだろうか・・・。
⑧メカニカルポンプ(12気筒)は一体物という長大なもの。








余談
 ホンダの設計者兼F1チーム監督の中村良夫氏は、その著述で次の様な記述をしている。ホンダの第1期F1活動の頃、クランクベアリングはモーターサイクルと同様に、オール転がり軸受け(ニードルローラベアリング)を多用していた。当時の日本にはバンダーベル社の様な優良なるプレーンベアリングメーカーがなかったと記していたが、それはベアリング単独だけの問題ではなく、クランク軸およびブロックジャーナルの真円度、真直度が十分ではなかったのではなかろうかと想像する。この点、プレーンベアリングよりメカニカルベアリングの方が、多少は振れだとかオイル供給に対する余裕はあるのだろうとも想像するのだ。しかし、長期間の耐摩耗では劣るし、何よりも半割構造にしない限り、組立型クランクとなり、大幅に重量(慣性も)増と剛性低下を招いてしまう。

もう一つの余談
 DB600は独のメッサーシュミット用であるが、英国ロールスロイス社で設計製造したRRマーリン(隼科の鳥の名)は、スピットファイアーから始まり米国P51にも搭載された傑作エンジンだ。DB600よりおよそ、コンベンショナルな設計のV12水冷エンジンだが、高い性能と信頼性を誇ったという。

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