樹脂溶接は果たして本来強度に戻せるのか・樹脂工具屋欺瞞?
この件は、拙人は樹脂(高分子ポリマー素材)の専門家ではないが、自動車などの様々なマスプロダクション製造とか修理に関わり40年余を過ごして来た実務家としての意見を記して見たい。
そもそも、樹脂溶接なる言葉自体は、既に自動車の樹脂バンパーが使用されだした30数年前頃から、高温エアーを吐出するエアドライヤーとか半田ゴテを使用した修理というのは一部で行われ出していたがメジャーにはなれなかった。つまり、普及はしなかったのだ。
ところが、金属製品の溶接は、当初のガス溶接からアーク放電熱を利用した電気溶接(被覆溶接棒とか芯線ワイヤーを自動供給する半自動溶接をMIGと呼ぶ)とか、溶接端子に高温に耐えるタングステンを使用し、外気を遮断するイナートガスにCO2などより外気遮断瀬能を向上させたアルゴンガスを使用するTIGが普及してきた。
また、昨今では、レーザーを使用した、さらに高温かつ照射面積が小さく、細かい細工ができたり、溶接表面の品質が比較的良好なレーザー溶接が異種板厚間の連続溶接としてテーラードブランク鋼板などにも使用されるし、一部車両メーカーでは、スポット溶接に変わり線溶接として使用されて来ている。
一方、電気にしてもスポットにしても電流コントロールに、PWM制御(パルスワイズモジュレーション=デューディー比制御)を利用して、電流というか電力を連続可変で制御することで、溶接品質とか扱い易さの向上が図られている。
この金属の溶接と樹脂の溶接を比べた場合、まず樹脂の溶接では、その余裕温度が金属に比べれば圧倒的に低温で容易に溶けるのだが、樹脂は溶けていきなり液体になると云うより半固体のゲル化する性状が強いということがある。
この点、金属の場合も、溶融温度の境目近くでは半固体状態もあり得るのだが、溶融部を観察すると溶融池と呼ばれる様に、完全に液体となり、そこに溶接金属が滴下されて分子同士が確実に混合なされるということがある。
そして、金属溶接の場合は、溶接棒の金属組成を工夫することにより、ブローホール(空間)などない完璧な溶接がなされた場合、溶接部を含む金属片を引っ張り試験機で極限テストを行うと、溶接部で破断するのではなく、溶接部近郊の元の金属素地部で破壊することが知られている。つまり、このことは溶接部の機械的性質が、素地金属部を上回るということを示しているのだ。
ただし、この溶接部位近くの素地金属部が破壊すると云うことは、応力集中により疲労破壊を起こし易いということにもなり、特に応力の大きい、もしくは応力に対して安全係数の低い場合には、応力集中を起こし難い溶接形状(例えば母材に垂直でなく横三角形の様に応力変化を急変させない様な形状)を工夫する必要がある。
さて、樹脂の場合だが、樹脂を加温し、完全に液体化できれば、金属溶接と同様に分子同士の混合は促進されると考えられるのだが、多くの樹脂溶接ではゲル化の状態で溶接と云うより溶着と呼ぶべき状態で接合されている場合が多い様に経験上も思える。
そもそも、樹脂溶接部を観察していて、金属の様に溶融池の状態になっていることを見たことはない。つまり、ほとんどゲル化の状態で、樹脂同士が溶け合って溶着されていて、せめて半田ごてとか金属へらなどで、ゲル化した樹脂の表面層を混合する程度のことしかできないない様に思える。
樹脂の加温を増やし温度上昇させれば良いかと云えば、一定温を超えると発火燃焼してしまい、そうなると樹脂自体が炭化してしまうので、これは完全に強度を低下させる問題となってしまうのだろう。そこで、金属溶接の場合の高温酸化による金属の機械的性質低下を防止するのと似ているが、酸化というより発火燃焼を防止するため、イナートガスにチッ素を使用する溶接機が出ている様だ。
これでも金属の厚板溶接では開先角度という上開きの傾斜を作り、溶接を積み重ねて行く手法が取られるのだが、イナートガス相当の雰囲気中で高温にしても溶融池という程には樹脂分子が液化しておらず、結果として溶着の域の効果しか持たない場合が多い様に思えてしまうところだ。
ただ、製品によっては、薄板樹脂を厚板樹脂に接合する場合なので、溶着よる強度で十分という場合もあるのだろうが、多くの樹脂成型品で溶接強度が金属並みに協力なら、もっとマスプロダクションでも樹脂溶接が使用されていて不思議ではない様に思えるのだが、実際のところその様な場面で使用される接合は、溶接でも溶着でもない、接着剤による接合法がほとんどだろう。
というのが、科学者でなく実務家として見た、現状の樹脂溶接の限界ではないのかと思うところなのだが、樹脂溶接をすべて否定するつりはないことを強調したい。つまり、樹脂溶接もしくは溶着により接合はできるが、あくまでその強度は本来強度を上回ることは期待できないので、適宜心材としてのコンポジット化(鉄筋コンクリートとか炭素繊維樹脂に相当)とか裏当てによる補強を要しないと本来強度の確保は困難と思えている。
なお、接着も樹脂の溶着も同じだが、その表明性状としての「濡れ性」というのが大きな問題となってくる。これは、簡単に云えば水を弾く性質という様なものであるが、多くの重要接着部(前後ガラスとか構造用エポキシ)では、その素材に応じたプライマーを間に入れることで濡れ性の問題をある程度回避している。
この濡れ性とはちょっと意味合いが異なるが、冷延圧延鋼板(SPCC)などの表面精度の高い鋼板を塗装する場合も、小面積であれば適度な粒度でサンディングして表面を適度にあらす(凹凸にする)ことで、密着面積を増やして剥がれなど起きない様に留意している。
自動車のマスプロダクションの様に、大量かつ高面積の場合は、リン酸亜鉛溶液中に一定時間の浸漬を行うことで、表面を適度に荒らすと共に表面に極薄いリン酸亜鉛皮膜を形成して、短期間の防錆を施す。この鋼板を通称「ボンデ鋼板」と呼ぶが、処理前に比べ、鈍い反射のつや消し状態になり、適度に表面が荒らされていることが判る。
この件は、拙人は樹脂(高分子ポリマー素材)の専門家ではないが、自動車などの様々なマスプロダクション製造とか修理に関わり40年余を過ごして来た実務家としての意見を記して見たい。
そもそも、樹脂溶接なる言葉自体は、既に自動車の樹脂バンパーが使用されだした30数年前頃から、高温エアーを吐出するエアドライヤーとか半田ゴテを使用した修理というのは一部で行われ出していたがメジャーにはなれなかった。つまり、普及はしなかったのだ。
ところが、金属製品の溶接は、当初のガス溶接からアーク放電熱を利用した電気溶接(被覆溶接棒とか芯線ワイヤーを自動供給する半自動溶接をMIGと呼ぶ)とか、溶接端子に高温に耐えるタングステンを使用し、外気を遮断するイナートガスにCO2などより外気遮断瀬能を向上させたアルゴンガスを使用するTIGが普及してきた。
また、昨今では、レーザーを使用した、さらに高温かつ照射面積が小さく、細かい細工ができたり、溶接表面の品質が比較的良好なレーザー溶接が異種板厚間の連続溶接としてテーラードブランク鋼板などにも使用されるし、一部車両メーカーでは、スポット溶接に変わり線溶接として使用されて来ている。
一方、電気にしてもスポットにしても電流コントロールに、PWM制御(パルスワイズモジュレーション=デューディー比制御)を利用して、電流というか電力を連続可変で制御することで、溶接品質とか扱い易さの向上が図られている。
この金属の溶接と樹脂の溶接を比べた場合、まず樹脂の溶接では、その余裕温度が金属に比べれば圧倒的に低温で容易に溶けるのだが、樹脂は溶けていきなり液体になると云うより半固体のゲル化する性状が強いということがある。
この点、金属の場合も、溶融温度の境目近くでは半固体状態もあり得るのだが、溶融部を観察すると溶融池と呼ばれる様に、完全に液体となり、そこに溶接金属が滴下されて分子同士が確実に混合なされるということがある。
そして、金属溶接の場合は、溶接棒の金属組成を工夫することにより、ブローホール(空間)などない完璧な溶接がなされた場合、溶接部を含む金属片を引っ張り試験機で極限テストを行うと、溶接部で破断するのではなく、溶接部近郊の元の金属素地部で破壊することが知られている。つまり、このことは溶接部の機械的性質が、素地金属部を上回るということを示しているのだ。
ただし、この溶接部位近くの素地金属部が破壊すると云うことは、応力集中により疲労破壊を起こし易いということにもなり、特に応力の大きい、もしくは応力に対して安全係数の低い場合には、応力集中を起こし難い溶接形状(例えば母材に垂直でなく横三角形の様に応力変化を急変させない様な形状)を工夫する必要がある。
さて、樹脂の場合だが、樹脂を加温し、完全に液体化できれば、金属溶接と同様に分子同士の混合は促進されると考えられるのだが、多くの樹脂溶接ではゲル化の状態で溶接と云うより溶着と呼ぶべき状態で接合されている場合が多い様に経験上も思える。
そもそも、樹脂溶接部を観察していて、金属の様に溶融池の状態になっていることを見たことはない。つまり、ほとんどゲル化の状態で、樹脂同士が溶け合って溶着されていて、せめて半田ごてとか金属へらなどで、ゲル化した樹脂の表面層を混合する程度のことしかできないない様に思える。
樹脂の加温を増やし温度上昇させれば良いかと云えば、一定温を超えると発火燃焼してしまい、そうなると樹脂自体が炭化してしまうので、これは完全に強度を低下させる問題となってしまうのだろう。そこで、金属溶接の場合の高温酸化による金属の機械的性質低下を防止するのと似ているが、酸化というより発火燃焼を防止するため、イナートガスにチッ素を使用する溶接機が出ている様だ。
これでも金属の厚板溶接では開先角度という上開きの傾斜を作り、溶接を積み重ねて行く手法が取られるのだが、イナートガス相当の雰囲気中で高温にしても溶融池という程には樹脂分子が液化しておらず、結果として溶着の域の効果しか持たない場合が多い様に思えてしまうところだ。
ただ、製品によっては、薄板樹脂を厚板樹脂に接合する場合なので、溶着よる強度で十分という場合もあるのだろうが、多くの樹脂成型品で溶接強度が金属並みに協力なら、もっとマスプロダクションでも樹脂溶接が使用されていて不思議ではない様に思えるのだが、実際のところその様な場面で使用される接合は、溶接でも溶着でもない、接着剤による接合法がほとんどだろう。
というのが、科学者でなく実務家として見た、現状の樹脂溶接の限界ではないのかと思うところなのだが、樹脂溶接をすべて否定するつりはないことを強調したい。つまり、樹脂溶接もしくは溶着により接合はできるが、あくまでその強度は本来強度を上回ることは期待できないので、適宜心材としてのコンポジット化(鉄筋コンクリートとか炭素繊維樹脂に相当)とか裏当てによる補強を要しないと本来強度の確保は困難と思えている。
なお、接着も樹脂の溶着も同じだが、その表明性状としての「濡れ性」というのが大きな問題となってくる。これは、簡単に云えば水を弾く性質という様なものであるが、多くの重要接着部(前後ガラスとか構造用エポキシ)では、その素材に応じたプライマーを間に入れることで濡れ性の問題をある程度回避している。
この濡れ性とはちょっと意味合いが異なるが、冷延圧延鋼板(SPCC)などの表面精度の高い鋼板を塗装する場合も、小面積であれば適度な粒度でサンディングして表面を適度にあらす(凹凸にする)ことで、密着面積を増やして剥がれなど起きない様に留意している。
自動車のマスプロダクションの様に、大量かつ高面積の場合は、リン酸亜鉛溶液中に一定時間の浸漬を行うことで、表面を適度に荒らすと共に表面に極薄いリン酸亜鉛皮膜を形成して、短期間の防錆を施す。この鋼板を通称「ボンデ鋼板」と呼ぶが、処理前に比べ、鈍い反射のつや消し状態になり、適度に表面が荒らされていることが判る。