私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

過剰請求事案の回想(修理費協定まで約4ヶ月間を要した事案)

2023-05-13 | 賠償交渉事例の記録
過剰請求事案の回想(修理費協定まで約4ヶ月間を要した事案)

1.本件事故状況と問題点など
 契約車両は新車登録後8カ月、走行2千キロ弱と極新しいベンツ500SLの車両単独事故である。損傷は路面段差を高速で乗り越え車両がジャンプ着地した際に、車両下面の各部を擦過損傷したというものである。
 立会した結果は、ホイールの変形(左前後2本)の他、車両下部のマフラー、アンダーカバー、前後左右のスポイラーカバー等に、路面と擦過したスリ傷もしくは割損が生じているものである。しかし、これらスリ傷は、決して大きなものではなく、部位によっては、極軽度なものも多いと判じられるものであった。
 以上の様な損傷状態であるが、工場見積は例え僅かであってもキズの生じた部品はすべて新品交換、タイヤおよびサスペンション等は現状で明らかに損傷はあるとは見えないが、すべて心配だから等としてオーバーホールと新品交換というもの。さらに、デフキャリアの最下面にスリ傷があるが、デフキャリアAssy交換というものまである。


 この様な、保険会社側と修理工場側でその損害見積に大きな乖離が生じた場合、つまり修理費合意(協定)困難事案においては、世にはさまざまな類型があるのかと思う。そこで私見として思うのだが、何れにしても企業規模が大きい強者たる保険会社としては、一方的な強者の論理だけを言い放ち、弱者側が折れるのを傍観するということはモラル的に許されないと意識している。ただし、民事賠償訴訟などにおいては、請求者に立証責任があると言われる場合が多い。このことを楯にして、そういう案件は放置しておけば良いんだという考え方を述べる損保担当者もいるのだが、そこは別の要素として考えなければならないだろう。

 そもそも、入庫工場とこの様な争いが生じ、そのまま放置したとすれば、1日でも早く車両を元通り普及して乗りたい契約者としては、工場主導の経緯報告を聞き、なんで保険会社は元通りする費用を出し惜しむという意見を当然として持つだろう。従って、こういう修理費の合意困難事案については、まずは契約者にその理由をしっかり理解してもらう必用がある。

2.契約者との打ち合わせ
 この契約は、契約者住所および代理店共、東京ではなく大阪であり、当初は大阪損害サービス課を経由して、代理店経由で契約者への報告を依頼していた。しかし、そのレスポンス(反応)などが鈍いことを察知すると共に、当方から契約者本人に直接電話を入れることで、契約者との連絡を密とすることに努めた。この事案は横浜時代の案件だが、これが契約者が東京在住なら、おそらく電話でなく面談により、各種資料を持参しつつ、面談により契約者との意志疎通を深めたであろう。
 契約者は比較的若いアパレル系の経営者という感じの方であり、関西弁で一見すると強い調子でしゃべるのだが、当方も開き直って、「この車両購入先販売店兼今回の入庫工場は異常なんです!このクルマの正規ディラーであるヤナセ社でも、この様な修理費は請求してこないし、その品質も確かなことは理解されるでしょう。」程度のことを明確に述べた。その結果として契約者からは、「保険会社がそこまで云うのなら、ヤナセで修理してもらって構わない。オレは1日でも早くクルマの修理完成を望んでいるんだ。」との返事を受けるに至った。

3.入庫工場との再三の打ち合わせ
 入庫工場は、契約車両の販売元であるが並行輸入ベンツ等にAMG、ロリンザー等のドレスアップパーツを組み付けドレスアップして販売する業者である。(通称…なんちゃって仕様なる車両)なお、工場担当者は性は異なるが社長さんの奥さんらしい女性(当時御年40歳代?)であったが、ビックリするような高圧的な物言いなのである。曰く、新車に近い車なのだから例え僅かなキズであっても、新品に替えて修理するのが当然等というもの。そして、二言目には「そんなこというのはあなただけ、他の保険会社はすべて認めている」、「上司に替わりなさいよ」等々なのである。その上、電話中等で折り返しの電話を要請してもほとんど返事もよこさないのである。

 そもそも、私は損害調査員として活動する中、現在でも希に近隣の修理工場へ訪問する機会もあるが、社長と云うよりそこの奥さんの方との信頼関係が強い場合が多いと自負ししている。それは、日頃の活動において、社長とのけんけんがくがくの論争をすることがあるが、そういう場合でも決して高圧的な言動は慎んで来たし、そういう折衝を見ている奥さんからして見れば、こりゃどっちに部があるかは理解して来られたとではないかと想像している。ある場合は。社長とケンカ状態になり、奥さんが「あんた(社長のこと)、イイカゲンにしなさいよ。保険会社だって限度はあるし困ってるじゃないの!」なんて助けてもらうこともあった。つまり何が云いたいのかと云えば、ある論争をする場合、決して驕り高ぶらず、周辺で聞く者に道理を理解してもらうという意識があった故と思っている。従って、工場訪問などして、社長とも情報交換など交流はするが、社長不在で奥さんが居る様な場合は、工場の金策を含めやりくり話などして、単に工場との技術交流論だけでなく、中小零細企業のありがちな、苦労話を聞く機会も得てきたのだ。

 ということで、経営者(もしくは女性見積担当者)が女性だから苦手という意識はないのだが、得てして技術論とか相場感がまるで欠落していて、ただただ金額だけを訴求して来るタイプというのは、男性にも女性にもいるのだが、まいったなぁということになる訳だ。
 しかし、今回の場合は、まずは契約者をガッチリ押さえてしまったと云うところで、さりげなく、「○○さん(契約者)とは何度か打ち合わせしており、1日も早くクルマの完成を願っており、オタク状以上の品質が確保できる前提で正規ディラーでの修理も理解してもらったところです」と切り出すと、返事は「じゃあどうすれば良いのよ?」と初めて、当方の主張に耳を傾ける姿が出てくるのだ。

4.交渉経緯の時系列および概要
 当方は、かなり以前から、大きな見積乖離が生じたりした場合は、言葉で説明するだけでなく、なるべく文章化して意見を述べたり、問い質したりして来た。それは、ある意味と上当然であって、1つの見積案件で20カ所を超える疑問点がある様な場合。これを一々問い質していたら、時間が掛かるわ、そもそもケンカになってすべてを述べる以前にケンカになり決裂するだろう。であれば、予め文章を提示しておき、見てくれましたか、それぞれ意見を聞きたいと云う態度で臨めば、必ずしも当方主張のすべてが通らないにしても、意見の表明は果たせるし、先の例ではないが、「で、(総額を)幾らにすれば良いの?」という回答へ結び付くと云うことになる事例が多いということなのだ。
 また、当方が予想もしなかった、この意見だがね、家はこう考えると云う新たな発見もあり、勉強になることしかりだと思っている。
 私の横浜時代は、専任課長職で配下の調査員を指導する立場にあったが、予め問題を感じた案件は事前相談を徹底させると共に、相談を受けた案件は、自ら積極的に介入しつつ、同行立会をしつつ、場合によりこれは問題が多すぎるから、この質問書を提示なさいなと、その下書きまでを作って渡しても、こんな質問をぶつけることにある意味恐怖を感じる者も多くて平行したものだ。つまり、調査員とは口で勝負で、如何に相手の機嫌を損ねないで、こちらの立場を判ってもらえるかにあると云う理解をしているのだろうと想像するのだが、だから文章が良いと私は信じているのだ。つまり、幾ら丁寧口調で話しても、数多い質問を重ねて行けば、どんなに温厚な経営者であっても、苛立ちは強まり、爆発するの当たり前のことで、文章を読み下したなら、ここまでケチ付けてきたが、さて、それぞれ反論できるかと冷静になって考えてみれば、その難しさを感じないとすれば、余程の自信家だろう。
 本件交渉も見積細部を交渉を進めるに当たっては、会話中心での交渉を一定制限し、出来るだけ文書をFAXを送付する様に努めたのである。本件に関わるFAX送付数は総計25本にも上った。

時系列経緯
① 一次工場見積が提示(582万円)

車両立会実施後、程なくして提示された工場見積は580万円というものだった。
② アジャスター自己見積提示
約70万円の自己見積を提示する。
③ 二次工場見積が提示(394万円)

幾らかは見積額は低下したというものの約400万円という驚愕すべきもの。工場担当者との打合せだけでは、協定困難であり、このままで推移すれば契約者クレームに発展することは明かとして、契約者との打合せを強化することとして進めた。
④ アジャスター自己見積再提示 90万円
 先の契約者との電話による打合せが一定功を奏し、契約者からは修理工場をヤナセ社など信頼できるところであれば変更して構わないとの発言を受けた。
 しかし、工場担当者とはほとんど会話的な打合せが不可能なことから、添付の補足文書と共に自己見積を送付した。その要旨は、足回りなどは計測して異常があった場合に認めること。スポイラーは修理が可能。マフラー関係は、キズをミガキ修理。ロリンザーパーツは交換を認める部分について、市場価格相当として30%レスを要請等である。
⑤ 修理工場変更の折衝
 入庫工場とは契約者も工場変更してでも早く確実な修理を望んでいることを訴求しつつ折衝を進めた結果、ヤナセ系の他工場へ移送しての修理(メカニカル関係のみ)が行われることとなった。
⑥ アジャスター自己見積再々提示150万円



先のヤナセ系他工場との打合せ内容を含み、自己見積を修正し再提示した。
⑦ 三次工場見積が提示(190万円)

 修理費協定を督促する当方に対し、約束より遅れて3次の工場見積が提示された。そして、協定に向け折衝を開始したが、高圧的にほとんど譲歩しない工場担当者から「本社の電話番号を教えろ」等と恫喝を受けるに至ったのである。その後、予期した通り本社経由でのクレーム扱いとなったのである。
⑧ 最終損害(175万円)
 最終額決定に当方は直接関わっていないが、意見を求められた当方としては、中間値(190vs150)までの譲歩であれば止むなしとのことを伝え、ほぼ中間値での修理費協定に至ったのであった。

5.雑感
 正直云って、この横浜専任課長時代の私は、調査担当マネージャーとして、私の損保在籍中でこれ程酷い筆頭総合職と巡り合ったことは不幸な事態だと思っている。大学が何処卒だから優秀とかいささかも思わぬが、この東海大卒のほぼ同年齢課長総合職だが、ほぼ査定正義という言葉の理解を知らず、そのくせ調査員(アジャスター)を小馬鹿にしており、本社クレームとかにムチャクチャ弱く、誰が考えてもあり得ないだろうという損害でも証拠見出せないから払うという主張を平気で行うという男だった。そのくせ、上昇思考は強く、車内メール便で、当時の損業部長(本社)宛ての付け届け物品を皆の見ている前で平然と発送すると云う恥知らず者だった。
 この事案では、本社クレームを受けて。当方指示の中間地での妥結となったが、この他には同じく本社クレームで完全敗北させられた不正事案が2件、対物案件で車体番号の打刻が改竄されており所有者本人か不明の案件を、この事案は警察に申告して調査確認すべしと云う当方の助言を無視して全額支払った案件が1件と、主要なものだけで3件の不正な、もしくは調査不足のまま支払いを行った案件がある。それでも。定年前の数年間出先の損調部長職まで上り詰めたのだから、立派なものよこの会社はと思わざるを得ない。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。