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ルポルタージュ・損害調査員 その5【対物相手車全損全賠事案】

2022-06-19 | コラム
ルポルタージュ・損害調査員 その5【対物相手車全損全賠事案】
 第5回目のルポルタージュだが、対物全賠事案(100:0)で相手車全損という場合のことを記してみたい。
 約10年ちょっと以前の現職当時は、こういう事案は損害調査員(アジャスター)が行っていたのだが、昨今は分業化が進んでいて、女性担当者が苦労して電話で何度も話しをしていると云うが、気の毒だと思う反面、ムダなコトやってると思うところもある。

 そもそも損害調査員たるアジャスターは車両の単独調査で全損となれば、相手との示談のことなど大して気にもせず、レッドブック値か、およそ古いクルマは新車の10%見たいな考え方で報告書を作成してるんだろうが、中にはこれで止むないと諦めてくれる方もいるのかもしれないが、早々納得する方は少ないだろう。

 私の考え方だが、事故が被害者近郊であれば、全損全賠事案などは、車両を立会し全損と判断した者が示談までを行うことが被害者の理解を早め、早期示談完了する最大要素だと思っているのだ。しかし、昨今はやたら分業化されてしまい、ともかく最初は女性担当者が電話で示談の話しを行い当然話しは決着付かず、損害調査委員が行うのか、会社によっては物損事故担当者という職員(およそ地域型職員)とか、従来の調査員(アジャスター)だが、別の者が行うと云うことを聞くのだが・・・。

 こういう対物全損事案と云うのは、被害者側にしてみれば全損の意味するところは理解しているのだろうが、代わりのできれば少しでも長く乗れるクルマに買いかえたいという気持ちになるだろう。それを、このクルマは既に評価がないに等しいので10%提示で話しがまとまる訳もなかろうと思うところだ。そういう場合に、車両立会している者なら、車両の程度から、ある意味欠点というべきことまで見ている(現代アジャスターはそんなことまでみちゃいないかも)から、話しの中で「ですがね、事故なくてもエンジンオイルもれ酷いみたいですし」とか「サスペンションのガタも相当出ている様に見受けられますから」とか牽制する言葉も出て来る訳だ。

1.全損事案で苦労する相手業種
 過去、対物全損全賠事案で苦労した案件を回想してみると、結構苦労すると云うか、ああだこうだと云われるのは、やはり大型トラックとか、タクシーなどの商用車ではないかと思う。そもそも、こういう商用車は定率もしくは定額法の経理上の減価償却は5年とかになっているのだが、そういう数字を持ち出しても、到底話しは決着できないだろう。かといって、普通のマイカーの様に、中古車情報として信頼あるべきものもないし、どういう手法で折り合いを付けるかというのは結構苦労すると思うところだ。この辺りの具体的事案は書き難いところもあるは、以下に幾つか思考方法を記して見たい。

➀平均車齢というデータを元にして考えて見ること。

②走行距離を重視して思考して見ること。(高速路線系でない大型トラックで100万キロ。タクシーで50万キロというのが関連業界の一つの認識としてある。

2.まったく杓子定規で突っぱねられる業種
 パトカーとか救急車の全損事案というのもあって、なかなか面白いのだが、当初相手方は「このクルマは組織規約で何年使用するから幾ら掛かろうが直してもらわなきゃ困る」みたいなことを言い出すのだが、こういう行政役人は所詮自分のクルマじゃないし、まったく杓子定規に突っぱねてぜんぜん問題ない。不満なら、損害賠償訴訟を提訴して下さいでOKだ。

3.案外世間一般常識に疎く説得に手間の掛かる勤務者
 交渉毎を繰り返していると、この相手は世間の一般常識をまるで判っちゃいないと感じる場合がある。例えば、新車から1年乗ったクルマで全損なのだが、私はクルマを替えたくているんじゃない。だから1年乗ったから、価値の減価を云われても納得しかねるとか、大マジメに宣う職種の代表が、学校の教員ではないだろうか。それも、教員になって未だ若いと云うよりベテラン教員に多い様だ。おそらく根は悪い方でもないのだろうが、およそ日頃先生などと呼ばれている職種は、どうしても権威主義になりがちで、初めて会う私におよそ権威というより下に見ていることがあるのだろうと思う。このことは、教員だけでなく、医者(開業医より勤務医に多い)とかそれなりの民間一流企業であっても、エリート風の部課長クラス以上に時々いた。こういう方々というのは、その組織体で長年過ごす中で、それなりの地位を得てきた自信とか権威というものを自覚しているのだろうと思える。こういう方々の弱点は、社会的に明らかにさらに上の権威に極めて脆弱といういうことがある。だから、明らかに上の権威ある立場の人物を出すまでもなく、そういう権威ある方が記した書面などをコピーして手渡することで陥落は容易なのだ。

4.高額見積と示談
 これは、一般自整BP業にはまず使うことはないが、入庫工場がディーラーで、おそらく新車代替を進めたい思いも関与しているのだろうと想像するしかないか、一般論としての時価額を下回る分損なのだが、提示された見積が高過ぎて話しにならないと云う場合がある。こういうケースで、爵位定規に見積論を戦わせてどうなのかという前に、その現状車が幾らで事故車買い取り業社が引き取るかを並行して検討して見ることは、その事故車が中古市場価値が高い場合に大きなメリットを生み出す場合があり得る。つまり、それなりの買い取り額が確認できた場合は、分損なのだがあえて全損を宣言し、その代わり車両は引き上げが条件ですよと促すのだ。当然ディーラー提示見積を上回る金額となるので、どのディーラーでも喜び、示談もディーラーが説得するので即決着する。

 こういった事案では、予めこのクルマが最低でもどの程度の買取査定が出るかの相場観を持つ必用が調査員には求められるが、およそ全損での回収金を引くと、定時のディーラー見積を3、40万下回ることもざらだ。

 ただ、先にも記した様に、これが一般工場であったなら仕事を奪うことになるので、相当な悪質な高額見積を提示した場合以外は行ったことはない。こんなことを、今から10年以上前にはやってきたのだが、現代の「見積屋」と揶揄されるアジャスター諸君には、事案をもっとマクロ(巨視的)に見てもらいたいものだと思うところだ。


#損害調査員ルポルタージュ #示談体験談


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