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スリンガータイプオイルシールについて

2019-12-24 | 車両修理関連
 先日、クランクシャフト焼き付きの5Lディーゼルエンジン(4M50)のクランクリヤオイルシール周辺を分解する機会があったので、大型車などで使用されている、いわゆるスリンガータイプのオイルシールについて、その実物写真と共に書き留めてみたい。

 回転軸のシールは、様々なタイプが使用されている。その封入物質が液体だとか半固体(グリス)だとか、圧力が作用するかどうかなどに応じて使い分けられているのだろう。たぶん、現代メカなら分解したことがないと想像されるウォーターポンプ軸の水密にはメカニカルシールというガーボン板をスプリングである程度加圧しつつ、微小な冷却水で潤滑することで水密を行っていることを知らぬ者が多いと認識している。これは、日頃何でも知ってると自信満々のメカなどに、「メカニカルシールって判るかい?」と質問すると、ほぼ返事がないことから認識しているのだが・・・。

 さて、本題のオイルシールだが、コンベンショナル(一般的)な方式としては、写真6および7の式がほとんどだろう。トヨタなどではタイプTオイルシールと呼ばれているもので、オイルシールのリップ部(ベロ)が軸に密着し、ベロ部はコイルスプリングで狭められている場合が多いという方式だ。

 ところが、大型車のエンジンではクランク軸が太い、特に後端部はフライホイールもしくはオートマのドライブプレートが付くために一段と径を大きくしている場合が多い。想像だが、これがために周速度が上がりシールが持たないとか、いかなゴム製のシールといえども長期間の使用において、クランク軸側が段付き摩耗を生じ、オイルが漏れてシールだけの取替で修復が困難となる怖れもあることを懸念し、該当クランク軸にスリンガーという垂直円盤を圧入し、この垂直面にオイルシールのリップ部を押し当ててシーリングしている。(写真1~5参照)ここでは、この方式をスリンガータイプのオイルシールと呼ぶことで説明を続けたい。

 このスリンガータイプでは、回転体の垂直面でシールしているため、シール外側へ僅かに漏れ出たオイルは遠心力で吹き飛ばされ、シール内側に戻ることを促す。また、写真4を見てもらえば判るが、スリンガーの垂直面表面には渦巻き状の溝がエンジン回転(前方よりみて右廻り)に伴い、外側へオイルを流すために施されている。(この様な溝機構をラビリンスと呼ぶ場合がある。)

 ところで、このスリンガータイプでオイル漏れを生じて、オイルシールだけを取り替える場合は特段問題はないのだが、スリンガー自体も摩耗が生じるなどして取替たいという場合、高精度にスリンガーの垂直生を保ちつつ、メーカー設計通りの位置に圧入する必用があることは、この構造を知っていれば頷けることだろう。スリンガーの垂直性や位置が狂っていると、スリンガーの振れが生じることや、適正にオイルシールリップ部との接触が得られずオイル漏れが生じてしまうことになる。

 ということで、コンベンショナルなオイルシールであれば、シールの周辺を小型ハンマーで適宜打撃しつつ、リテーナー面一とすれば用が足りるなんて思っていると、オイル漏れは治らないどころが、さらに深刻化することだろう。メーカーなどでは、スリンガー圧入用のSST(専用特殊工具)を用意している場合が多い様だ。なお、参考記述として、以下の過去記事も参照されたい。

大型車のクランクオイルシール構造への疑問(と質問) 2018-05-07
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/ac9ce8e1373767e353809e63d8da9e38








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