電子制御燃料噴射の昔話 その4
ここでは、燃料噴射装置の最終的な噴射アクチュエーターとなる噴射ノズルについて、ディーセルとガソリンをことを記して見たい。
まず、最初にレトロな旧式ディーゼルエンジン(現在コモンレール式と呼ばれる以前)の噴射ノズルについてだが、これは機械式インジェクションポンプで噴射されるが、噴射圧として50-60MPa程度で直噴用が若干高め、副室式(渦流室式など)が低めというもので、ガソリンの電子制御とかコモンレールで使用される電気信号を一切使用しないものだ。噴射圧が一定以上高まると、ノズル内のニードルが差圧で開弁して噴射を行うものだ。この時代の噴射ノズルのハンドポンプテスターというのがあって、ノズル1本づつを取り付けて、ハンドポンプを押し下げることで、高圧を作り出し、ノズルの開弁と噴霧状態を点検するものた。このテスターでは、ハンドルを押し下げる際に、手に伝わる反力作動感で、噴霧中の開弁圧とかノズルの動作感を掴むことが重要と云われていたものだった。
次にガソリン用の電磁ソレノイド式噴射ノズルだが、予めノズルが装着されるフューエルデリバリパイプ(後のコモンレールディーゼルでコモンレールに相当する部位)に200KPa程の燃料圧をプレシャーレギュレターで調圧して与えておき、電気信号でソレノイドに通電すると、ノズル内のニードルが引かれて燃料をポートに噴射するものだ。なお、プレシャーレギュレターは当初のものは、スプリングとダイヤフラムで常に絶対圧を調圧していたが、まもなくダイヤフラムのスプリング室にインテークマニホールド圧が与えられる様になり、常にインテークマニホールド圧に対する差圧として約200KPa前後の差圧が与えられる様になった。これは、ある意味高度による気圧保障を行うもので、この機構が付く以前は、高山走行などで一定以上の高度で1段だけ噴射燃料を減量するアルチメーターセンサーがあった時代もあるのだが、今は昔のことだ。
さらにガソリン直噴およびディーゼル用の電気制御ノズルだが、ソレノイドコイルによる電磁力を使用するものと、ピエゾ素子に荷電した場合にその厚みが増えることを利用する2種類がある。ただし、ピエゾ素子に荷電して厚みが増加する量はきわまて微少なので、素子を20枚とか積層することで、ある程度のストロークを生み出している。ソレノイドの場合、自己誘導作用があるため、その巻き数にもよるが動作信号が方形波であっても電流の立ち上がりがある程度押さえ込まれて飽和するまで遅延が生じるが、ピエゾ素子の場合この遅延がないところに優位点があるが、駆動電圧がある程度高い様だ。正確にデータがないが、おそらく数百Vは程度と想像する。
なお、ここが重要だが、ソレノイド式でもピエゾ式でも、アクチュエーターとして動く量は小さく、それだけではノズルニードルを十分引き上げられないので、コマンドピストンという呼び方をしているが、ノズル内の油路を切り替えることで、ノズルに作用する燃料圧事態でノズルニードルを動かしているということだ。
また、ディーゼル用コモンディーゼルは、登場から約20年を経るが、噴射圧は当初の120MPaから、180MPa、200MPa、そして現在では250MPaまで高圧化してきている。これより、従来小型ディーゼルでは始動性などから採用困難だった直接噴射式(副室を持たない燃焼)が当たり前となり、熱効率が向上している。なお、噴射の高圧化は、多噴口微細穴ノズルを使用することで噴霧燃料粒子の微粒化を促進し、燃焼室壁面に付着したまま燃え残るカーボン(PMとなって排気されたりエンジンオイルを黒化させる)をなるべく軽減したいというところにある。
なお、コモンディーゼルを最初に開発実用化したのはボッシュであるというイメージがあるが、これお世界で最初に実用化したのはデンソーだ。そして、コモンディーゼルと名付けたのがボッシュで、そういう点はボッシュは巧みだし、政治のロビー活動も極めて巧みで、車載ネットワークCANのパテントを押さえ、各デバイスのCAN通信用トランシーバーチップからパテント料を取っている様だが、その総額は相当なものだろう。
さらに、ディーゼルコモンレールインジェクターでは、個別のバラツキを補正するため、製造時に補正用バーコードが印刷されたラベルが付けれている場合がある。この様な車種では、個別インジェクターを交換した場合、エンジンECUにそのコードをコーディング(書き込み)して補正する必用がある。
なお、最新のインジェクター技術にデンソーが開発したi-ARTという技術がある。これは噴射圧をリアルにモニタリング出来る機構で、先の新品製造時のバラツキはあくまで新品時のものだが、継続永年使用で噴射量のバラツキを自動で補正できるという技術で、既にいすゞやボルボの一部車種で使用されている。
ことほどさように、電子燃料噴射は今やガソリンエンジンよりディーゼルの方が、余程複雑な制御行っているしコストを掛けたものになっている。それでも、Euro6(ユーロ6)など、超厳しいPM規制などで、欧州のディーゼル人気は陰りを見せ、BEVへの流れを生み出したのだ。
ガソリンエンジンの場合、理論空燃比燃焼により3元触媒は使用できると云う利点があったのだが、ディゼールは広範な空燃比燃焼ができることで燃費が良いという反面、3元触媒が利用できないと云う問題がある。CO,HCはディーゼルは希薄燃焼でも失火しないのでクリーンだがNOx浄化が難しいのと直噴故にPMが生じてしまうという宿命がある。NOxは尿素SCR装置で浄化できるが、あまりに尿素を消費するとラニングコスト増大で問題となるので、EGRを併用してNOx退治を行っているのだが、EGR効果を高めるためには冷却水で低温化したクールドEGRを使用すると云うことになると、EGR装置内にカーボンが詰まりやすいと云う問題も生じている様だ。高温のEGRであれば、カーボンは再燃焼してしまうのだが、高温ではEGR効果が薄れてしまうというところだろう。
また、DPFのカーボン詰まりも問題になっている。最近のDPFは入口と出口にセンサーを持ち、詰まりを検出すると、DPFの再生を行うのだが、これは排気行程で燃料噴射(ポスト噴射)させ、生燃料をDPF直前のCO,HCコンバーターで再燃焼させ、その熱でDPFのカーボンを焼き払うと云うものだが、その際に白煙が出る問題とか燃費が悪くなる、ポスト噴射がすべて排気管に流れれば良いが、一部はシリンダー壁を下がってエンジンオイルを希釈すると問題続きなのだ。ここで、いすゞでは小型トラック用として、DPFをマニホールド直下の高温環境に接地して、カーボン堆積を少なくする工夫があるが、大型エンジンでは、DPF容積も大きくなり難しさがある様だ。
#燃料噴射の昔話と最新話 #ディーゼル用燃料噴射とガソリン噴射
ここでは、燃料噴射装置の最終的な噴射アクチュエーターとなる噴射ノズルについて、ディーセルとガソリンをことを記して見たい。
まず、最初にレトロな旧式ディーゼルエンジン(現在コモンレール式と呼ばれる以前)の噴射ノズルについてだが、これは機械式インジェクションポンプで噴射されるが、噴射圧として50-60MPa程度で直噴用が若干高め、副室式(渦流室式など)が低めというもので、ガソリンの電子制御とかコモンレールで使用される電気信号を一切使用しないものだ。噴射圧が一定以上高まると、ノズル内のニードルが差圧で開弁して噴射を行うものだ。この時代の噴射ノズルのハンドポンプテスターというのがあって、ノズル1本づつを取り付けて、ハンドポンプを押し下げることで、高圧を作り出し、ノズルの開弁と噴霧状態を点検するものた。このテスターでは、ハンドルを押し下げる際に、手に伝わる反力作動感で、噴霧中の開弁圧とかノズルの動作感を掴むことが重要と云われていたものだった。
次にガソリン用の電磁ソレノイド式噴射ノズルだが、予めノズルが装着されるフューエルデリバリパイプ(後のコモンレールディーゼルでコモンレールに相当する部位)に200KPa程の燃料圧をプレシャーレギュレターで調圧して与えておき、電気信号でソレノイドに通電すると、ノズル内のニードルが引かれて燃料をポートに噴射するものだ。なお、プレシャーレギュレターは当初のものは、スプリングとダイヤフラムで常に絶対圧を調圧していたが、まもなくダイヤフラムのスプリング室にインテークマニホールド圧が与えられる様になり、常にインテークマニホールド圧に対する差圧として約200KPa前後の差圧が与えられる様になった。これは、ある意味高度による気圧保障を行うもので、この機構が付く以前は、高山走行などで一定以上の高度で1段だけ噴射燃料を減量するアルチメーターセンサーがあった時代もあるのだが、今は昔のことだ。
さらにガソリン直噴およびディーゼル用の電気制御ノズルだが、ソレノイドコイルによる電磁力を使用するものと、ピエゾ素子に荷電した場合にその厚みが増えることを利用する2種類がある。ただし、ピエゾ素子に荷電して厚みが増加する量はきわまて微少なので、素子を20枚とか積層することで、ある程度のストロークを生み出している。ソレノイドの場合、自己誘導作用があるため、その巻き数にもよるが動作信号が方形波であっても電流の立ち上がりがある程度押さえ込まれて飽和するまで遅延が生じるが、ピエゾ素子の場合この遅延がないところに優位点があるが、駆動電圧がある程度高い様だ。正確にデータがないが、おそらく数百Vは程度と想像する。
なお、ここが重要だが、ソレノイド式でもピエゾ式でも、アクチュエーターとして動く量は小さく、それだけではノズルニードルを十分引き上げられないので、コマンドピストンという呼び方をしているが、ノズル内の油路を切り替えることで、ノズルに作用する燃料圧事態でノズルニードルを動かしているということだ。
また、ディーゼル用コモンディーゼルは、登場から約20年を経るが、噴射圧は当初の120MPaから、180MPa、200MPa、そして現在では250MPaまで高圧化してきている。これより、従来小型ディーゼルでは始動性などから採用困難だった直接噴射式(副室を持たない燃焼)が当たり前となり、熱効率が向上している。なお、噴射の高圧化は、多噴口微細穴ノズルを使用することで噴霧燃料粒子の微粒化を促進し、燃焼室壁面に付着したまま燃え残るカーボン(PMとなって排気されたりエンジンオイルを黒化させる)をなるべく軽減したいというところにある。
なお、コモンディーゼルを最初に開発実用化したのはボッシュであるというイメージがあるが、これお世界で最初に実用化したのはデンソーだ。そして、コモンディーゼルと名付けたのがボッシュで、そういう点はボッシュは巧みだし、政治のロビー活動も極めて巧みで、車載ネットワークCANのパテントを押さえ、各デバイスのCAN通信用トランシーバーチップからパテント料を取っている様だが、その総額は相当なものだろう。
さらに、ディーゼルコモンレールインジェクターでは、個別のバラツキを補正するため、製造時に補正用バーコードが印刷されたラベルが付けれている場合がある。この様な車種では、個別インジェクターを交換した場合、エンジンECUにそのコードをコーディング(書き込み)して補正する必用がある。
なお、最新のインジェクター技術にデンソーが開発したi-ARTという技術がある。これは噴射圧をリアルにモニタリング出来る機構で、先の新品製造時のバラツキはあくまで新品時のものだが、継続永年使用で噴射量のバラツキを自動で補正できるという技術で、既にいすゞやボルボの一部車種で使用されている。
ことほどさように、電子燃料噴射は今やガソリンエンジンよりディーゼルの方が、余程複雑な制御行っているしコストを掛けたものになっている。それでも、Euro6(ユーロ6)など、超厳しいPM規制などで、欧州のディーゼル人気は陰りを見せ、BEVへの流れを生み出したのだ。
ガソリンエンジンの場合、理論空燃比燃焼により3元触媒は使用できると云う利点があったのだが、ディゼールは広範な空燃比燃焼ができることで燃費が良いという反面、3元触媒が利用できないと云う問題がある。CO,HCはディーゼルは希薄燃焼でも失火しないのでクリーンだがNOx浄化が難しいのと直噴故にPMが生じてしまうという宿命がある。NOxは尿素SCR装置で浄化できるが、あまりに尿素を消費するとラニングコスト増大で問題となるので、EGRを併用してNOx退治を行っているのだが、EGR効果を高めるためには冷却水で低温化したクールドEGRを使用すると云うことになると、EGR装置内にカーボンが詰まりやすいと云う問題も生じている様だ。高温のEGRであれば、カーボンは再燃焼してしまうのだが、高温ではEGR効果が薄れてしまうというところだろう。
また、DPFのカーボン詰まりも問題になっている。最近のDPFは入口と出口にセンサーを持ち、詰まりを検出すると、DPFの再生を行うのだが、これは排気行程で燃料噴射(ポスト噴射)させ、生燃料をDPF直前のCO,HCコンバーターで再燃焼させ、その熱でDPFのカーボンを焼き払うと云うものだが、その際に白煙が出る問題とか燃費が悪くなる、ポスト噴射がすべて排気管に流れれば良いが、一部はシリンダー壁を下がってエンジンオイルを希釈すると問題続きなのだ。ここで、いすゞでは小型トラック用として、DPFをマニホールド直下の高温環境に接地して、カーボン堆積を少なくする工夫があるが、大型エンジンでは、DPF容積も大きくなり難しさがある様だ。
#燃料噴射の昔話と最新話 #ディーゼル用燃料噴射とガソリン噴射