パーコレーションとは、昔のキャブレター方式のクルマで生じたトラブルの一つです。キャブレーターというメカニズムは霧吹きの原理を使用し、キャブバレル内に設置されたベンチュリー部に生じる負圧で、燃料をフロート室から吸い出してエンジンに供給するものです。
このため、フロート室の液面の高さを一定に保つ必用があり、そのためにフロート機構があるんですが、古いクルマではフロートが真鍮製でハンダで接合されて作られていました。そんな時代には、ハンダの不良からフロートが浮かずに沈み、液面をオーバーして燃料が吸気管内に過剰に入り込み、過濃混合比でエンジン不良になる、いわゆるオーバーフロートとなる現象がありました。しかし、後年フロートは樹脂製でパンクしなくなりましたから、そんなトラブルはなくなりました。
ところで、キャブレター本体が加熱されフロート室内の燃料や流路内の燃料がボイルされる状態となると、その圧力で燃料が燃料が吹き出して、やはり過農混合機になる現象があります。これをパーコレーションというトラブル名で呼ぶのです。コーヒーメーカーのことをパーコレーターとも呼びますが、正にこの原理状態のトラブルな訳です。
このパーコレーションを少しでも防ぐ目的で、インテークマニホールド(現在は樹脂製も多いが昔はアルミ製)とキャブレターとの間には、厚さが5ミリ近くある合成樹脂が断熱のためのインシュレーターとして多くのクルマで装着されていました。特に、吸気と排気が片側に集中するリターンフローというタイプのエンジンでは、インシュレーターが吸気管よりも周辺を広くカバーリングして、排気マニホールドからの輻射熱を避ける様にされていたものでした。
この合成樹脂の材質ですが、合成樹脂としては最も古い、セルロイドに次ぐ位昔からあるフェノール樹脂が採用されていました。このフェノール樹脂は通称ベークライトと呼ばれ、耐熱性と電気的絶縁性能が高い樹脂で、デストリビューター等の高圧系にも使われてきたものです。
その他、キャブレター関連として、ベーパーロックとかアイシングというのがありますが、またの機会に記してみたいと思います。
追記
古くから使用される合成樹脂として、セルロイドとベークライト(フェノール樹脂)のことに触れましたが、若干補足しておきます。
セルロイドは、歴史上最も古い合成樹脂で、熱可塑性樹脂のジャンルになります。昔は、人形だとか色々な製品に使われました。映画のフィルムなんかも、昔はセルロイドだった様です。現在でも、ピンポン玉とかメガネ用フレーム等に使用されている様です。昔、学生服の白いカラーに使用されていて、それを小さく切って金属製の鉛筆キャップに詰めて、着火させロケットみたいに飛ばして遊んだ悪ガキだった方も居るのかもしれません。この様にセルロイドは燃え易く、長期間の耐光・耐久性も劣る樹脂だったのです。それも、そのはずで、この樹脂の原料はニトロセルロース(硝化綿)であり、塗料のラッカーにも使われましたが、火薬の原料にもなる原料素材なのです。
もう一つの、ベークライト(フェノール樹脂)ですが、これも古くからある熱硬化性の樹脂です。比較的高い耐熱性と、高い電気絶縁性を持っており、ガソリンエンジンのディストリビュータキャップとか内部のローターには、大体ベークライトが使用されていました。但し、若干脆い性質があり、亀裂が入ることによる高圧電気系の失火には、悩まされ易いトラブルだったと思います。しかし、現在のクルマでは、ディストリビューターがないエンジンも増え、そんなトラブルも減っているのだと思います。なお、フェノール樹脂は、その耐熱性の利点もあり、今でもテーブルの天板表面等に使用されている場合もあります。