憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―沼の神 ― 9 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:14:48 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
「おまえの頭の中にある事は白峰の暴挙のことだ」まるで、妖狐とおなじである。だが、あえて前言撤回と言った朱雀である。「おまえは、命かければ恋を、願いをかなえられる事に憤っておる」「・・・」「もっと、言えば、白峰の暴挙に命かける誠なぞあってほしくない。誠があるばかりにお前は虫けらのごとくに白峰に翻弄される」「いえ」否定はしたものの其の通りですとばかりに澄明の頬につたうものがある。流れ落ちる涙を拭いもせ . . . 本文を読む

―沼の神 ― 10 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:14:33 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
其の後朱雀は黙りこくった澄明をじっとまっていたが、澄明にやっと「もう少し考えます」と、告げられると南天に帰することにした。次の日の澄明である。鬱々とした思いは昨夜の朱雀とのやり取りを反芻させるだけである。朱雀のいうとおりである。確かに楠の誠は命をかけたものであろう。だが、例え其の先で死を持って帳合をあがなうとしてもこれを赦す久世観音が、不遜におもえる。なってはならぬことであるなら、成らす前にとめる . . . 本文を読む

―沼の神 ― 11 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:14:16 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
手の中にはまだ赤子の柔らかな命の息吹がのこるようである。次三朗の峻烈な思いもうらやましくさえある。命を懸けて得た物の重みの名残りが澄明を無言のまま圧している。得手勝手といわれようがほしくある次三朗のおもいである。別れの辛さよりこの手にしたかった赤子の息吹である。命や、杓子定規な定法などいくらのせても楠の量りはかたむきはしない。白峰もおなじか?さすれば、白峰を無明地獄に突き落とすはこの澄明か?たった . . . 本文を読む

―沼の神 ― 12 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:14:00 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
妖狐は気が済んだかもしれない。が、実の所、妖狐の言葉が澄明をさらなる困惑の只中に落としているとはしりもしない。一つの疑念は終焉を迎えたが、思いが今生で叶わぬなら転生の後にかけるといった、妖狐の言葉に澄明はぞくぞくする悪寒さえ感じていた。これこそ、朱雀の言う「白峰の心が晴れぬ限り、お前は来世でも同じことをくりかえすであろうの」であり、「因縁は更なる因縁を産む。お前は其の流れに飲み込まれたまま生き続け . . . 本文を読む

―沼の神 ― 13 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:13:44 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
「哀れな。小ざかしい知恵は己によるものでない故に、哀れな」呟きがきこえ、澄明の前に姿を見せた沼の神の姿に澄明は己の目を疑った。だが、是こそが実体なのかもしれない。澄明は後に引く間合いを取りながら、いやらしげな男をみつめた。「ふん。正眼にいらぬ知恵をつけられ、心の目が開かぬか?」股座の脹らみをなでさすりながら澄明を見る男の目は女子への色欲をありありと浮かべ、だらしなくあいた口元も、すいたらしさを表す . . . 本文を読む

―沼の神 ― 14 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:13:29 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
伏せた瞳を上げると、目の中に映った沼の神は、政勝の姿だった「え?」沼の神は澄明の思いを映し込んだのだ。「ほ?」沼の神も一瞬の変転を悟った。「親の苦渋をしりとても望まれたい男はこやつということか?」「い・・え」澄明の戸惑いをみぬく。「妹と争う、も、省みぬお前でありたいが、本当だろう?」「違う・・」「ちごうておりはせぬ。お前は白峰の如く勝手気ままに望むものに触手をのばす事もできぬ。白峰の勝手な生き様は . . . 本文を読む

―沼の神 ― 15 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:13:13 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
沼の神を呼んだときに現われた淫卑な男が澄明を抱いていた。「あさましい・・」沼の神の見せた淫卑な男の姿のことではない。目の前で何度となき沼の神の変転をみれば、否が応でも是が己の心の象りでしかないとかんがえつく。と、なれば、この淫卑な男も澄明の心の象りである。己の心の底で政勝を求めているを見せつけられ、澄明は我を忘れ、幻に身を任せようとした。政勝恋しのはて。叶わぬ恋のはて。幻で己の憂さをはらそうとした . . . 本文を読む

―沼の神 ― 16 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:12:57 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
とうとうと流れる涙があわれである。澄明が鴛撹寺をあとにし、比良沼へ足を運んでからの三日の間。澄明に教えられたとおり次三朗は楠の怪を抑えた。楠は元に戻るにも木挽きの屑がない。木挽きの屑があっても次三朗に盛り込まれた切り口の塩が屑を寄せ付けず木肌を盛り返す事もさせぬだろう。諦めるしかない。楠も覚悟が欲しい。愛しい者が悟法をしく。これで、未練ごと切られて行くを楠も望んだ。「やっと・・」次三朗の涙である。 . . . 本文を読む

―沼の神 ― 17 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:12:42 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
次の日の朝である。目覚めると妹のかのとが澄明を覗き込んでいた。「ど、どうしました?」八葉はむかしから体の弱かった亡母咲世に変わり白河の賄いを一手にひきうけていた。その八葉の元へ里子に出されているかのとであった。八葉は何もかも、八葉がかのとの実の母でないことも、まだ、存命であった咲世こそがかのとの真の母であることもかのとにつげ、白河の家につれてきていた。「すこしは、くどの事をおぼえたらどうですか?」 . . . 本文を読む

―沼の神 ― 18 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:12:25 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
澄明に一縷の光明を見せたかった観音の思いに突き当たると澄明はかのとに示唆された選択がいっそう、ふしぎである。久世観音はまた、救世観音とも表されるとおりである。が、なんで、澄明なぞを救済しようとする。こんなしにくいつまらぬ女陰陽師なぞ、どう、もがこうが、捨て置けばよいほどにちっぽけな存在でしかない。こんな・・つまらぬ澄明なぞに。己をさいなむ責めはやがて、澄明の瞳から雫をたらさせそうである。「ひのえ」 . . . 本文を読む

―沼の神 ― 19 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:12:03 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
「これは、これは」澄明の姿を捉えると鴛撹寺の和尚は手を擦り合わせる蠅の如きである。「いかがですか?」愚問かもしれない。目の前には楠が横たわり、かけられた綱が地面に伸びている。綱の側にはいくつもの土を蹴散らした足跡が深い。どう見ても楠を動かせなかったと判る。「いけませんなあ」やっと、切り倒した楠に安堵したのもは束の間だった。「次三朗さんが来て下さって、澄明さまに教えられたとおりにしてくださったのです . . . 本文を読む

―沼の神 ― 20 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:11:45 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
方丈に入り茶を整える和尚の手元を見詰めながら澄明は外の気配に耳を凝らしている。人足が来たら、まず和尚の所にやってくるだろう。次三朗の事は人足も楠との由縁ごと、じゅうじゅう承知の事であろう。人足も幼子と次三朗のうずくまる姿にしのびがたく感嘆の声をあげよう。だが、次三朗親子を跳ね除けて吾らが楠を引かねば成らぬと思い込んでいる人足である。次三朗がどいてくれといわれるまえに、次三朗からじかにことの次第を語 . . . 本文を読む

―沼の神 ― 21 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:11:29 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
楠を結んだ綱を伸びた背筋に廻すと、よいとなの声を腹に貯めるように深く息をすった。「はあああああーーー」凛と透る声が静かな境内にひびきわたり。大きく、高らかな節回し一声。「よいとな」どう覚えたか腕の赤子は榊を振りながら「ちょい、ちょい」と、唱和する。片腕で軽く引いた綱が張り切ると楠がするりと水の上の流木とみまがう動きで次三朗の寸分前に泳ぐ。「あああ」人足達の驚嘆の声は昨日びくとも動かぬ楠をしっておれ . . . 本文を読む

―沼の神 ― 22 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:11:14 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
―くたびれた。心底くたびれたー澄明は、どお、と、襲い来る睡魔にかてず、夕餉もそこそこに自室に引きこもると夜具も延べず畳につっぷしてしまった追ってきたかのとも小言の甲斐がない。寝息を立て始めている姉をほっておこうと思うくせに、手は押し込みをあけて上掛けを引きずり出している。こんな調子ではかのとがいなくなる、この先がおもいやられる。澄明いや、ひのえは、自分ごとはおろか、父正眼の世話をするどころではない . . . 本文を読む

―沼の神 ― 23 白蛇抄第11話

2022-09-02 11:10:59 | ―沼の神 ―  白蛇抄第11話
夜半遅く目覚むれば、なんとしたことか、足袋もそのままに畳に寝入っている。上掛けはどうやら怒りん坊の妹がしょうことなしにかけていんだようである。正眼もさすがに年頃になった娘の寝相を案じ夜中にのぞく愚挙もしない、澄明も上掛けを引っ張り出した覚えがないのだから妹のはからいでしかない。『随分、また、怒っておったのでしょうな』朝から膳も片付けずに出かけた上、晩も食し終えると早々にへやにひきこもった。正眼の茶 . . . 本文を読む