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新型コロナPCR検査の目的:パート2

2020-07-24 | 師の教え
新型コロナPCR検査の目的:パート2

 

SARS-CoV-2RT-PCR検査について、私たちが提言しているのは、公衆衛生学的な目的、すなわち防疫目的の検査で使うことです。防疫検査であり、診断検査ではありません。 診断と防疫は目的が異なり、防疫検査では、被検者がCOVID-19に感染しているかどうかを診断するための検査ではなく、被検者が「感染性」を有するかどうかを確認するための検査となります。 感染伝播を予防するための待機が必要かの判断に使うのです。

 

防疫のためのスクリーニング検査では、対象者が感染しているかどうかがゴールドスタンダードではなく、感染性 (infectiousness)または伝播力(transmissibility)です。この防疫目的での検査では「体の中のどこかの細胞内にSARS-CoV-2が居て悪さをしている」という、COVID-19感染の有無は、もはやゴールドスタンダードの役割ではなくなり、リング上から場外に追いやられます。

 

防疫のためのスクリーニング検査の対象は、基本的に咳のない無症状の人ですので、発声や回し飲み、キスなどによる感染伝播となります。この場合、鼻咽頭・唾液などの上気道中のウイルス量または排泄量(viral load/viral shedding)をみるPCRがゴールドスタンダード検査となります。厳密にはウイルス培養ですが、臨床的にはRT-PCR査になります。

 

以上は、前回書いたことのサマリーです。これで「感度特異度論争」はもう終焉を迎えることができるかと思いきや、防疫目的の議論をしているのにもかかわらず、現時点でも感度50-70%との議論がなされることがあります。

 

この感度50-70%は、COVID-19に感染しているかどうかをゴールドスタンダードとする場合ですから、診断目的の検査の場合に限られます。防疫目的の議論との混同は続いています。

 

これをうまく説明するのに良い方法がないかと考えていました。そこで、思いついた例が結核です。

 

結核には肺結核や肺外結核があります。肺外結核では喀痰に結核菌は排出されません。肺結核でも喀痰中に結核菌が存在するとは限りません。結核のゴールドスタンダード検査は、患者の体内から得た検体から結核菌が培養で検出されるか、生検組織で結核に特徴的な病理所見を得ることです。診断検査ではこれらがゴールドスタンダード検査となります。

 

しかし、結核患者を初期に対応する際に問題となるのは感染予防対策です。

 

肺結核を疑ったら、原則として空気感染予防としての隔離を行います。そこで、隔離解除の基準として、古典的に用いられていた検査は抗酸菌スメア3回陰性や蛍光スメアでした。

 

しかし、サイエンスは進歩しています。

 

数年前より、世界的に肺結核での隔離解除で用いられてきているのは、喀痰結核菌PCR検査です。WHOも認めている検査で、商品名はGeneXpert MTB。当初は、このPCR検査が2回陰性であれば隔離解除とされていましたが、最近では状況に応じて 1回陰性であれば解除可能とする施設からの報告もあります。

 

下記研究ご参照:

https://idsa.confex.com/idsa/2018/webprogram/Paper72042.html

 

もちろん、結核の診断をこのPCR検査で除外することができません。この場合の検査目的はあくまでも隔離解除です。

 

新型コロナの検査で最近話題の抗原検査も、防疫検査としてうまく使うと有効だと思います。防疫検査の臨床的ゴールドスタンダードであるRT-PCR検査と比べると、感度が低いことが弱点ですが、利点としては迅速性と簡便性と低コストが挙げられます。

 

ハーバード大学の研究疫学モデルにより、抗原検査を毎日やることで毎週PCR検査をやる以上に「感染性を除去」できることがわかりました。

 

その意味で、抗原検査は、肺結核の隔離解除目的で昔からよく行われていた抗酸菌スメアに似ています。このスメアは感度が低いですが、3回連続陰性で隔離解除ができることが、臨床的経験知として蓄積されました。

 

そこで私から提案があります。

 

新型コロナの抗原検査を3回連続陰性であることを確認することがPCRの代用となるかどうか調べる臨床研究です。唾液検査であれば自宅でもできます。日本では「目詰まり」となっているPCR検査の体制では、結果が判明するのが3日後などの状況もあります。

 

であれば、結核の隔離解除検査で歴史をさかのぼって見習うのはいかがでしょうか。抗原検査を3日連続やることが「感染性」除外として使えるのであれば、PCRリソースの限られた日本でも検査はやれるのではと思います。

 

例えば、いろいろな理由で緊急入院となる患者さんがいます。交通外傷でも脳梗塞でも心筋梗塞でもコロナ感染が隠れていることがあります。原則として3日連続抗原検査陰性であれば感染予防レベルをステップダウンさせることが可能になります。

 

この研究に参加したい方は徳田安春までご連絡くださいませ。以上、新型コロナの検査についての思案でした。

 

2020724  

徳田安春、崎浜智子、加藤幹郎


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