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イノベーションをもたらす内科専門医 連載 その58

2014-06-30 | 師の言葉

 今回も引き続き、師の言葉「総合医としての内科専門医」を上げていきます、今日は「イノベーションをもたらす内科専門医」と題してお送りします。

 最新のイノベーション理論により、イノベーター一般に共通する行動特性が明らかになってきている。 様々な組織や集団、学問分野において、多くの人々のコミュニケーションは似通った個人の間で行われ、「自分と同じ職種の人と話すほうが楽」と考えるこのような人々をhomophilyと呼ぶ。 一方、イノベーターは、違った文化や異なる専門家同士のコミュニケーションを好む傾向があり、このような人々をheterophilyと呼ぶ。

 ユダヤ人とノーベル賞の話しはよく引用されている。 すなわち、世界人口の0,25%程度の少数民族のユダヤ人が、過去のノーベル賞全体の約25%を得ているという背景にはなにがあるのかというものである。 最も有力な説はmassive heterophily communicationと言われている。 ユダヤ人の歴史をみていくと、BC722にイスラエル王国滅亡、BC586にはユダ王国が滅亡し、その後しばらく祖国を持たずにいたが、1948年にイスラエル独立まで、2500年以上の世界離散経験を持った。 このような世界規模のmassive heterophily communicationにより、多くのユダヤ人の知の向上をもたらしたと考えられている。

 一方で、コミュニケーションとの強い同一性や他の集団との境界線を求めるような人々は、localitiesと呼ばれ、例としては、自分の専門領域の学術雑誌のみにとどまる読者などがあてはまるだろう。 しかし、イノベーターは、移動傾向が強く、広域にわたる行動半径を持ち、自らの所属するコミュニティ内外との人脈ネットワークを多くもつ傾向があるといわれ、このような人々をcosmopolitesと呼ぶ。 例としては、自分の専門分野以外にも常に興味を持ち、多くの領域で勉強に努める医師などがあてはまる。

 Rogers(1995)が提唱した、イノベーターのモデルとして、marginal manという人間モデルがある。 これは、異質な文化をもつ複数の集団に同時に属する人や各集団の境界に位置する人は、特定の文化に完全に同化している人間にはなしえない創造性、革新性を示すことがある。 を指す。 そして、このようなイノベーション理論は、医学研究の領域でもあてはまるものと考えられる。

 内科専門医のための「新しいリベラルアーツ」に含まれる様々な学問領域に精通しておくと、臨床医としてより効果的な社会貢献が可能になると述べたが、このような医師は、医学研究を行っていく上でも有利になるであろう。 そして内科各科だけでなく幅広い学問領域にも興味を持ちながら、専門分化したグループの殻から脱して、様々な専門領域の人々と意見を交わし、アイデアを交換するような習慣を持つことにより、イノベーションをもたらす内科専門医になる可能性もより大きくなるであろう。

 総合医としての内科専門医のシリーズはここまでです、次回からまた新しいシリーズに進みたいと考えています、では、次回に。 

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