今回も前回からの続きです
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■最近「病院に殺されないために~」という本が本屋さんで目に付きますが、この医師批判の状況はどう思いますか?
悪意を持って診察している医師はいないと思います。しかしながら、医療とは信頼関係が基盤となって成り立っている世界です。このような本が売れているのを見ると、この不信感の横行には、医療不信がかなり深刻になっていることの表れだと思います。
これには、わたしたち医師集団自身のプロフェッショナリズムの「揺らぎ」も一つの要因として感じます。医師は、プロフェッショナリズムの原点に立ち返って、医療内容を吟味すべき、と思います。Choosing wiselyのリストはそのための有用な参考資料となります。
コクラン国際共同データベースを世界的に展開させたイギリス人医師のミュア・グレイ(Muir Gray)先生は、「患者は何でも知っているーEBM時代の医師と患者」(中山書店、2004)という本で、「賢い患者」の姿を予言しています。
今や、患者さんがChoosing wisely やPubMedの患者向けページを見るようなIT時代です。このような情報を調べてから患者さんは医療機関を受診するようになります。
またグレイ先生は、「医師を信じる方法」という本で、医師からある検査や治療をうけるかどうかの聞かれたときに、どうすればよい選択ができるか、ということを示しています。
このときに、医師に「あなたならどうしますか?」と尋ねなさいと書いています。あるいは「あなたの家族だったらどうしますか?」と。それで検査するか、検査しないのかを決める、ということを患者さんに勧めています。
多くの場合、医師の推奨する検査や治療をうけることは妥当なのですが、「しばしばそうでないことがある」からです。上述のグレイ先生とドイツ人研究者ギーゲレンジャー先生(前マックスプランク研究所、現在はシカゴ大学教授)は、共同著書の論文で、その理由が次の2つがあるとしています。
一つは防衛医療(defensive medicine)です。見逃したら訴訟となるので、とにかく検査をやろうという心理。やや過剰な血液検査や画像検査を行おうとする心理です。
もう一つは経済的誘因(financial incentive)、収入を増やそうとするインセンティブです。診療所は職員も雇用しているし、高額な機械も購入しています。家族の教育費も必要です。医療は営利目的ではないのが前提ですが、心理的な誘因が医師の行動を変容させます。
勤務医には院長や理事長などの管理者からの圧力もあります。「患者の入院を延長させるように」とか、「なるべくなら入院させるように」などです。病院が黒字にならないと、職員を雇用できないし、学会にも勉強会にも行けないし、高額な医療機器も買えない。
このような経済的圧力は相当深刻であり、勤務医のプロフェッショナリズムに「揺らぎ」をもたらしています。しかしながら、患者中心の医療を考えるプロフェッショナルな医師は、そのような経済的圧力に屈してはなりません。医師は患者中心の医療を考えるべきです。管理者は、患者のことを中心に考える医師にエビデンスに基づく医療を行うように促すべきであり、経営改善には別の方法でおこうように努力すべきです。
今回は以上です、話変わって、いよいよ女子サッカーワールドカップが始まりますね、四年前のあの奇跡のゴールをまた見たいですね、なでしこジャパンの皆様、楽しんで頑張って下さい、では次回に。
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