真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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戦後補償裁判一覧

2010年05月20日 | 国際・政治

 ポツダム宣言の第6項に「吾等は、無責任な軍国主義が世界より駆逐せらるるに至る迄は、平和、安全及び正義の新秩序が生じ得ざることを主張するものなるを以て、日本国国民を欺瞞し之をして世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめたる者の権力及勢力は、永久に除去せられざるべからず」とある。

 しかしながら、GHQの占領政策の転換によって、永久に追放されたはずの「大本営の高官や参謀本部の高官、政府内の軍人・要人、軍国主義団体の指導者、様々な侵略作戦を立案した作戦参謀」などの多くが、1951年に追放を解除され、自由の身となった。いや、自由の身となったのみならず、アメリカの勢力下に入った日本でも力を得て、戦後日本の再生に深く関わっていった。そして、自らの戦争責任を回避しつつ、様々な部分で戦前・戦中の日本を正当化し甦らせたといってもよいのではないかと思う。日本の戦後補償の訴訟の現実や、軍人恩給(給付額は戦時中の階級によって決定される)の復活などからも、そう考えざるを得ないのである。

 例えば、「戦争被害は国民等しく受忍すべきである」という。では、なぜ軍人にのみ手厚い恩給が支給されるのか。また、戦争犠牲者の援護費の80%を上級軍人と古参兵、並びにその遺族が受け取っているといわるが、なぜなのか。下層兵や民間人は原爆被害者を除いては見捨てられたままであるということはどういうことなのか。戦争責任を考えると援護の仕方が逆なのではないか。

 平和条約が発効して主権を回復するとすぐに、日本政府は旧軍関係者への援護に取り組んでいる。連合国最高司令官は、戦犯容疑者の恩給差し止めはもちろん、1945年11月20日には、戦争を支えた軍人に対する「軍人恩給」そのものの打ち切りを指令した。にもかかわらず、日本政府は1952年4月30日に「戦傷病者戦没者遺族等援護法」を制定し、1953年8月1日には、廃止していた法令を廃止するという形で「軍人恩給」を復活させた。その莫大な費用が軍人恩給ではなく、戦後補償にあてられていれば、下記のような裁判はなかったのではないか。あったとしても、すべて解決していたのではないか。

 また、下記の多くの裁判にかかわる問題として、補償における国籍条項や戸籍条項の問題も見逃すことができない。朝鮮半島や台湾の元軍人・軍属の方々は「かつて日本人として日本のために戦ったのに、なぜ日本人と同じ恩給や補償が受けられないのか」と訴えているという。それを「日本国籍が消滅し、日本人ではなくなったから…」と平然としているようでは、日本は国際社会の信頼を得ることはできないのではないか。

 「戦傷病者戦没者遺族等援護法」は、1952年4月30日制定されたが、4月1日にさかのぼって適用された。したがって、平和条約が発効した1952年4月28日までは、朝鮮半島や台湾の元軍人・軍属はまだ日本人であり、「戦傷病者戦没者遺族等援護法」の対象である。ところがこの法律に、わざわざ、日本の「戸籍法」の適用を受けない者は当分の間適用されない、と付則が加えられている。
 日本人であるが、内地戸籍にはないことを理由に、朝鮮人や台湾人を排除しているのである。おまけに、占領下では国籍に関係なく支給されていた傷病恩給も、国籍を理由に支給されないことになったという。旧軍関係者には手厚い給付金を支給する一方で、かつて「日本人」として戦うことを強いた植民地出身者はことごとく切り捨てる、これらの差別的な対応は、やはり、日本の「過誤」を認めようとしない旧軍関係者や、自らの戦争責任を回避しようとする当時の責任ある立場の人たちの考え方から出てくるのではないか、と考えざるを得ない。

「戦後補償から考える日本とアジアー日本史リブレット」内海愛子(山川出版社)から、戦後補償裁判一覧の訴訟名と判決・取り下げ欄を抜粋転記する(※印のあるものは裁判終了)。ただし、原告が日本国籍以外のものである。また、韓国や中国での裁判は除かれている。
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                 戦後補償裁判一覧

 1 「原爆医療法」の在韓被爆者への適用の可否を問う孫振斗手帳裁判 ※1978.3.30 認容
 2 台湾人元軍属軍事郵便貯金時価支払請求訴訟 ※ 1982.10.15 棄却
 3 千代田生命生保支払請求訴訟 ※ 1978.1.26 棄却
 4 国庫債券支払請求訴訟 ※ 1980.3.25 棄却
 5 台湾人戦時貯蓄債権支払請求訴訟 ※ 1984.7.30 認容
 6 台湾人軍票時価払い戻し請求訴訟 ※ 1982.4.27 棄却
 7 樺太残留者帰還請求事件訴訟 ※ 1989.6.15 取下げ
 8 台湾人元軍人・軍属・遺族等戦死傷補償請求訴訟 ※ 1992.4.28 棄却
 9 サハリン残留韓国人・朝鮮人補償請求訴訟 ※ 1995.7.14 取下げ
10 韓国太平洋戦争遺族会国家賠償請求訴訟 ※ 2001.3.26 棄却
11 在日韓国・朝鮮人援護法の援護を受ける地位確認訴訟(鄭商根裁判) ※ 2001.4.13 棄却
12 堤岩里事件公式謝罪・賠償義務確認請求訴訟 ※ 1999.3.26 休止満了
13 サハリン上敷香韓国人虐殺事件陳謝等請求訴訟 ※ 1996.8.7 棄却
14 日本鋼管損害賠償請求訴訟(金景錫裁判) ※ 1999.4.6 和解 
15 韓国人朝鮮人BC級戦犯国家補償等請求事件訴訟 ※ 1999.12.20 棄却
16 アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件訴訟 ※ 2001.3.26 棄却
17 強制徴兵・徴用者に対する補償請求訴訟(韓国江原道遺族会訴訟) ※ 1996.11.22 棄却
18 金順吉三菱造船損害賠償請求訴訟 ※ 1999.10.1 棄却
19 援護法障害年金支給拒否決定取消訴訟(在日韓国朝鮮人 陳石一・石成基裁判) ※ 2001.4.5 棄却
20 浮島丸被害者国家補償請求訴訟 ※ 2001.8.23 一部認容
21 対日民間法律救助会不法行為責任存在確認等請求訴訟(日帝侵略の被害者と遺族369人の謝罪請求訴訟 ※ 1999.8.30 棄却
22 対不二越強制連行労働者に対する未払賃金等請求訴訟 ※ 2000.7.11 和解
23 金成寿国家賠償請求訴訟 ※ 2001.11.16 棄却
24 シベリア抑留在日韓国人国家賠償請求訴訟(李昌錫裁判) ※2 000.2.23 棄却 ※ 2001.9.21 原告死去 
25 釜山従軍慰安婦・女子挺身隊公式謝罪請求訴訟
26 フィリピン「従軍慰安婦」国家補償 ※ 2000.12.6 棄却
27 在日韓国人元従軍慰安婦謝罪・補償請求訴訟(宋神道裁判) ※ 2000.11.30 棄却
28 光州千人訴訟 ※ 1999.12.21 棄却
29 香港軍票補償請求訴訟 ※ 2001.10.16 棄却
30 在日韓国人姜富中援護法の援護を受ける地位確認訴訟 ※ 2001.4.棄却
31 人骨焼却差止住民訴訟 ※ 2000.12.19 棄却
32 オランダ人元捕虜・民間抑留者損害賠償請求訴訟 ※ 2001.10.11 棄却
33 金成寿恩給請求訴訟棄却処分取消請求訴訟 ※ 1999.12.27 棄却
34 イギリス等元捕虜・民間抑留者損害賠償請求訴訟 ※1998.11.26 棄却
35 韓国人元BC級戦犯公式謝罪・国家補償請求訴訟 ※ 2000.5.25 棄却
36 鹿島花岡鉱山中国人強制連行等損害賠償請求訴訟 ※ 2000.11.29 和解
37 中国人「慰安婦」損害賠償請求訴訟一次訴訟 ※ 2001.5.29 棄却
38 中国人戦争被害者(南京・731部隊)損害賠償請求訴訟 ※ 1999.9.22 棄却
39 日本製鉄韓国人元徴用工遺族、未払い金の返還損害賠償請求訴訟 ※ 1997.9.18 和解
40 三菱広島・元徴用工被爆者未払賃金等請求訴訟(韓国) ※ 1999.3.25 棄却
41 中国人「慰安婦」損害賠償請求訴訟二次訴訟 
42 劉連仁強制連行・強制労働損害賠償請求訴訟(中国) ※ 2001.7.12 一部容認
43 平頂山虐殺事件損害賠償請求訴訟(中国)
44 シベリア抑留元日本兵謝罪・損害賠償請求訴訟 ※ 2000.8.31 棄却
45 日本軍毒ガス・砲弾遺棄被害訴訟(中国) 
46 韓国人元女子挺身隊公式謝罪・損害賠償請求訴訟 ※ 2000.1.27 棄却
47 731部隊細菌戦(浙江省・湖南省)国家賠償請求訴訟
48 中国人42人対国・企業損害賠償・謝罪広告請求訴訟
49 在日台湾人遺族未払教員恩給支払請求訴訟
50 中国人強制連行・強制労働損害賠償長野訴訟
51 日鉄大阪製鉄所徴用工損害賠償請求訴訟 ※ 2001.3.27 棄却
52 西松建設中国人強制連行・強制労働損害賠償請求訴訟
53 台湾出身元BC級戦犯損害賠償請求訴訟 ※ 2001.2.23 棄却
54 大江山ニッケル鉱山強制連行・強制労働損害賠償請求訴訟 2001.4.13 判決予定延期
55 在韓被爆者健康管理手当受給権者地位確認訴訟 ※ 2001.6.1 一部容認
56 中国人性暴力被害者謝罪損害賠償請求訴訟
57 三菱飛行機場労働者損害賠償請求訴訟
58 崔圭明日本生命の企業責任を問う裁判
59 在韓被爆者李康寧健康管理手当受給権者地位確認訴訟
60 台湾人元「慰安婦」損害賠償請求訴訟
61 中国人被爆者損害賠償請求訴訟
62 北海道中国人強制連行訴訟
63 李秀英南京大虐殺名誉毀損訴訟
64 韓国人徴用工供託金返還請求訴訟
65 中国人強制連行・強制労働福岡訴訟
66 中国人港湾強制労働損害賠償訴訟
67 韓国人元軍人軍属遺族靖国合祀・遺骨返還・損害賠償請求訴訟
68 中国海南島元〔慰安婦〕損害賠償請求訴訟
69 在韓被爆者李在錫健康管理手当受給権者地位確認訴訟

    
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コメント (1)
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