「日本の領土 そもそも国家とは何か」田久保忠衛(PHP研究所)は、著者略歴に「法学博士」とあり、時事通信ワシントン支局長や外信部長、編集局次長を経て杏林大学社会科学部教授となり、92年から学部長、と紹介されていたので、何か得るものがあるのではないかと思って読んだ。しかしながら、その内容は竹島領有権問題に関しては、日本側主張の単なる繰り返しであり、結論的には「砲艦外交」にも通じる「気構え必要論」といえるようなものであった。その「まえがき」の一部と竹島問題の一部を抜粋するが、法学博士でありながら、公平な法に基づく問題解決や世界的に受け入れられる法に基づく秩序を志向されていないことが察せられると思う。
ただし、竹島問題を国際司法裁判所(ICJ)に持ち込もうとする日本側の提案を受け入れない韓国側の姿勢の問題は、すでに「梶村秀樹著作集第1巻 日本人と朝鮮人」から抜粋したように、国際司法裁判所(ICJ)が、かつての列強諸国の植民地主義的領有を認める判例に基づき判断する可能性が大きいからであって、真に公平な裁判を避けようとしているからではないことをふまえておかなければならないと思う。<…端的にいって、現存の世界に大国のご都合に左右されない「確立された権威」ある国際法慣行などというものはない。帝国主義世界分割の時代に形成された古い国際法体系と新興国の国際法変革の構想とが鋭く対立しているのが現実である。日本が国際調停を強調することは、それだけ既存の帝国主義的国際法を絶対化して楯にとろうとすることを意味し…>というようなことを、理解しておかなければならないと思うのである。日本が、北方領土問題を国際司法裁判所に持ち込もうとはしていない理由もそこにあるのではないかと思う。したがって、国際司法裁判所に提訴することを受け入れない韓国を、あたかも不法国家のような言い方をして攻撃する人たちがいることは、とても残念であり、悲しむべきことであると思う。
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まえがき
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欲求不満の対象は2つある。関係諸国のあまりの傲慢無礼、執拗、冷淡など、腹に据えかねる思いをさせる態度である。それに、日本政府のはっきりいって生ぬるいとしか考えられない対応である。
性格は異なるが、沖縄問題もこれに加えないわけにはいかない。大田前沖縄県知事時代の那覇と東京との関係も、領土問題をめぐる外国との紛争に共通する面があった。大田氏の本土政府に対する強烈な要求と、東京側の過度の低姿勢だ。本土側には沖縄の歴史に対する無知がある。少々沖縄の事情を知り始めると、行き過ぎと思われるほどの「かわいそうだ」という同情論が飛び出す。大人同士の交渉にならないのだ。
沖縄以外の領土問題には、戦後の日本の異常さがつきまとっていると思う。国家とは何か、主権とは何か、の理解が固まっていないのである。国家は支配階級が被支配階級を搾取する機関だから「悪」だ、というマルクス主義的な考え方を無意識のうちに持っている人々がいるせいか、国民は心の中で欲求不満を募らせながら、それが素直に公然と表現できないでいるように観察される。国家とは何かが念頭にない人たちには、サッチャー元英首相がフォークランドに英国の大艦隊を派遣し、「フォークランドの人々よりも重要な国家としての名誉を守るため」に戦うと述べた意味がわからないのではないだろうか。
いくらボーダーレス時代になったとはいえ、サッチャーの気構えがなければ領土問題を国際司法裁判所に持ち込むキッカケもつくれないと思う。だから、日本が戦後やってきた「平和主義」とやらに基づいて口だけで抗議し、こちらに非があるときは(ときには非がないにもかかわらず)、ひたすら謝罪する以外に方法があるまい。欲求不満をじっとこらえる以外の選択は存在しないのである。
領土が外国の手によって浸食され、かすめ取られていくのは目に見えている。恐ろしいのは、自主独立の精神の浸食と崩壊が同時に進行することである。これでは日本に明日はない。以上のような問題意識でまとめた次第である。
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竹島問題
竹島問題に解決の道はあるのか
「弱い国家はいじめられる」という原則
かつて米国大統領セオドア・ルーズベルトは、「棍棒片手に猫なで声の交渉を」といった。21世紀を目前にして、おおっぴらに「砲艦外交」を口にし、実施する国は少なくなったが、竹島の領有権をめぐる韓国側の反応には棍棒が見え隠れするようだ。
韓国世論も「独島はわが領土!」などの新聞見出しは地味な方で、「日本の巡視艦現る!警備隊緊張!」などと、あたかも戦争突入寸前のようなおどろおどろしい記事が出る。日本の国旗を平気で踏みにじり、燃やし、池田外相に似せた人形を蹴倒し、火あぶりにしているのを多くの韓国市民が盛大な拍手で雀躍している様子をテレビで見た日本人は少なくない。日本の一般市民の心の中に嫌悪感を静かに、しかも着実に蓄積していくような運動が一時期つづいた。これらに対して、気の強いことで知られた橋本首相であったが、竹島の領有権は日本にあると当たり前のコメントをしたうえで、「友情をもって話し合いをつづけることが第一だ」と繰り返すだけであった。
中国の徐敦信駐日大使は、「中国人民は苦しい歴史の中から、自分の国が弱ければいじめられるという教訓を得た」と語ったことがある。19世紀的な砲艦外交がまかり通る中で、日本は世界に類を見ない丸腰の商人国家の道を選んだ。砲艦の代わりになる切り札は金銭以外に何があるのか。国際社会でいじめを受け、泣きつく先が米国で、その米国もいじめる側に身を置き始めているとしか考えられない例があるのは、すでに紹介したとおりだ。いつまでも「棚上げ」や「先送り」ではすまされまい。
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