第三団の「死の行進」
サンダカン捕虜の死の行進-NO5
第二団にも取り残された捕虜について、その概要を引き続き「知られざる戦争
犯罪-日本軍はオーストラリア人に何をしたか」田中利幸著-大月書店によっ
て確認したい。
意図的な捕虜の抹殺-------------------------
ラナウへの行進の第二団がサンダカンを離れたあと、収容所には288名の
捕虜が残されたが、そのほとんどは衰弱しきって動けない状態にあった。しか
し、その中には比較的体力が残っていたにもかかわらず、仲間の捕虜の世話を
するために行進に参加せずに収容所に残った者が少数名いたようである。建物
をすべて焼き払われたため、彼らは近くに生えていた木や葉っぱを集めてきて
雨よけを作り、その下に仲間の捕虜たちを横たえた。・・・
捕虜たちは相変わらず医薬品も食糧も与えられず放置された状態におかれた
ため、沼地に生えている野生植物の根や茎を主食とし、たまに収容所要員が腐
って食べられなくなり捨てた魚や肉を口にしてなんとか生きながらえた。
第二団行進がサンダカンを離れた三日後の6月1日、ケマシン行って10日
間ほど留守にしていた森竹中尉がサンダカン収容所に戻ってきた。・・・
ケマシンで彼は、「捕虜をなんとしてもラナウに移転させよ」という司令部
の命令を受けてサンダカンに戻ってきたのであろう。6月9日、森竹はこの時
点で生き残っていた260名の捕虜のうち75名を選びだし、岡山部隊から出
向いてきた37名の日本兵を指揮する岩下少尉に引き渡し、ラナウに向けて出
発させた。しかしほとんど立って歩けない捕虜たちを260キロも離れたラナ
ウまで行進させようなどという考えは、捕虜抹殺の意図をもって命令している
としか言いようがない。この第三団の行進では、捕虜だけではなく岩下少尉以
下37名の日本兵のうち一人の兵をのぞいて全員がジャングルの中で全滅して
いる。
銃殺--------------------------------
75名がたどりつく見込もないままラナウへ向かった6月9日、サンダカン
には185名の捕虜が生きながらえていた。しかし彼らは次々と死亡していき
・・・1ヶ月あまりのちの7月12日には50名にまで減っている。この間お
そらく森竹は、残りの捕虜が「自然死」するのを待っていたのであろう。「自
然死」すればラナウまで移転させる必要はないし、自分たちの行進も楽になり
途中で死亡する危険性がそれだけ少なくなる。しかし森竹はこの数日前、サン
ダカンをなるべく早く撤退し、撤退する途中で捕虜を処分せよという命令内容
の手紙をラナウに駐留している高桑から受け取った。もうこの時点ではサンダ
カン地域に残っている部隊はほとんどなかったため、いつまでも要員を収容所
においておくのは危険であった。そこで森竹は、放っておいてもごく近いうち
に死亡するであろうと思われた27名はそのままにしておき、「自然死」する
にはまだかなり時間がかかると思われる23名を選んで銃殺することにしたの
である。
台湾人監視員に銃殺命令-----------------------
ところが彼(森竹中尉)はこのときマラリアに冒されていたため、23名の
捕虜銃殺場所を 飛行場建設現場にある防空壕と指定し、室住曹長にその命令
実行の任務にあたらせた。・・・
7月13日の夕方6時ごろ、室住は12名の台湾人監視員に23名の捕虜を
そこまで連れ出させ、防空壕の前に一列に並べさせた。そして12名の監視員
を捕虜の反対側に一列に並べさせ、全員に一斉射撃で捕虜を銃殺するように命
じた。捕虜を飛行場建設現場に連れ出すように命じられた監視員の中にこの命
令に躊躇した者がいたため、室住は「上官の命令に背く者は処刑する」と、彼
らをなかば叱咤しなかば脅迫した。室住は自分のピストルを抜きとり、監視員
から三歩ばかりうしろに下がってから銃殺命令を出しており、命令に従わない
監視員をその場で銃殺する構えを見せたという。監視員たちは、命令に従い捕
虜に向けて発砲せざるをえなかった。銃殺された捕虜の死体は、この後防空壕
に投げ捨てられ埋められた。
生き残りはたった6名------------------------
結局、サンダカン収容所の捕虜の中で生き残ったのはラナウから逃亡したこ
の4人(ボッテリル、モクサン、ショート、ステップウィッチ)と第二回行進
中に別々に逃亡し、ジャングル内をさまよい歩くうちに現地住民に拾われて米
軍に引き渡されたキャンベルとブレイスウェイトの二人、合計6人だけであっ
た。あまりに信じがたい数字であるので、先にも述べたがあえて繰り返そう。
サンダカン収容所にいた豪・英合わせて2500人の捕虜のうち、戦後にまで
生き延びたのは6名であった。
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