「この瞬間から、ペストはわれわれすべての者の事件となったということができる。それまでのところは、これらの奇怪な出来事によって醸された驚きと不安にもかかわらず、市民各自はふだんの場所で、ともかく曲がりなりにもめいめいの業務を続けていた。しかし、ひとたび市の門が閉鎖されてしまうと、自分たち全部が、かくいう筆者自身までも、すべて同じ袋の鼠であり、そのなかでなんとかやっていかねばならぬことに、一同気がついたのである。」
「そういう次第で、たとえば、愛する者との別離というようなきわめて個人的な感情が、すでに最初の数週から、にわかに一市民全体の感情となり、そして恐怖心とともに、この長い追放の期間の主要な苦痛となったのであった。」(アルベール・カミュ 『ペスト』 新潮文庫)
わが山里では、庭の梅の花がようやく散り始め、チューリップは、まだ、葉っぱのままである。