ゼロシルでまた書いちゃいました……。これもぷらいべったーに上げたものを再掲。
苦手な方はバック推奨!
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彼が来るのはいつも唐突で、そしてあまりありがたくないタイミングに図ったように現れる。それはきっと意図的なのだろう。魔族というものはそういうものだ。彼と知り合ってしまってから、私はそれを痛い程思い知った。
「おやおや、シルフィールさん。お休み中でしたか」
体調を崩してベッドの上に伏せっている私を見て、彼はわざとらしく驚いてみせた。明るい日差しが窓から差し込む中、彼が現れた途端に部屋の明るさが一段下がった気がする。
寝間着をはおっただけの、あまりにも無防備な自分に内心歯噛みした。いくら万全な体調で、きちんと装備を整えたところで、この男に敵うわけではないのだけれど。
圧倒的な力の差。魔族と、人間の差。そんな事は分かっている。それでも、彼に媚びへつらう事など、選びたくはない。
「……ゼロスさん。今日は、何の用でしょう?」
静かに起き上がり、努めて冷静にそう返した私に目の前の魔族は小さく肩を竦めてみせた。
「冷たいですねえ。少しシルフィールさんの顔を見たいなあと思っただけですよ」
彼の軽口には、心が揺れる事など無い。そんな事は彼とて分かっているはずなのに、相変わらず、彼は甘ったるい言葉を操る。
「そしたら、まさか昼間から病に伏せっているとは思いませんでしたよ。お加減いかがです?」
にこにこと、あまりにわざとらしい言葉をかけられて、私は小さく嘆息した。
「……貴方のせいで余計に体調が悪くなった気がします」
「おや、それは残念です」
彼は小さく眉をひそめて、躊躇いなく私の額に手を伸ばした。
「!?」
さらりと前髪を掻き分けられて、手袋の上からでも分かる、その冷たい手が私の額に触れる。
「確かに、少し熱があるみたいですねえ。……人間というのは、難儀な生き物ですね」
「な、にを……」
予想外な彼の行動に、思わず声が上擦ってしまった。不覚にも、少し赤くなってしまったかもしれない。
そんな私に、彼は顔を思いきり近づけて、至近距離で唇の端を吊り上げた。
思わず、その唇に目を奪われる。
「貴女は、可愛らしい人ですね」
口説き文句のようなその台詞に、何も言い返すことは出来なかった。いつもの軽口とは、また違うトーンの言葉。
甘さなど、欠片も感じさせない冷めた声音。
「僕の事が嫌いなのに、優しくされると無下には出来ない。魔族にも言葉は通じるかもしれない、どこかでそう思っている。とても愚かで哀れです」
「……!」
「ほら。また、僕の言葉で貴女は簡単に傷つく。僕の言葉など無視してしまえば良いものを。……とても美味しいですよ、その負の感情。貴女は確かに愚かで哀れだが、だからこそ愛しい」
そう言って、魔族はにこりと微笑んだ。
背筋がぞくりと震える。その「愛しい」という言葉が表すものは、人と人の間にある感情と同じものなのか、それとも『獲物』に対するそれなのか。
「帰ってください」
震える声で、言葉に出来たのはそれだけだった。
「ええ、そうしましょう」
特に何の感情も見せずに、彼はそう言った。
私の額から手を離した彼は、その手で私の髪を弄ぶ。体調を崩したせいで一昨日から清めていない髪は、普段よりも指通りが悪いのだろう。不満そうな顔で手を離して、彼は私から背を向けた。
「……やっぱり、元気な貴女の方が面白いですね」
「ゼロス、さん」
「弱っている貴女では、いじめ甲斐がありませんから」
最後まで魔族らしい台詞を吐きながら、彼はその場から消えた。
「もう、来なくて良いです」
溜め息をついて、私はまたベッドに身体を横たえた。もう、会いたくなんかない。その言葉に嘘は無い。
そのはずなのに。
彼が再び現れることを、心のどこかで期待してしまっている自分が居ることに、私は頭が痛くなった。
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彼が来るのはいつも唐突で、そしてあまりありがたくないタイミングに図ったように現れる。それはきっと意図的なのだろう。魔族というものはそういうものだ。彼と知り合ってしまってから、私はそれを痛い程思い知った。
「おやおや、シルフィールさん。お休み中でしたか」
体調を崩してベッドの上に伏せっている私を見て、彼はわざとらしく驚いてみせた。明るい日差しが窓から差し込む中、彼が現れた途端に部屋の明るさが一段下がった気がする。
寝間着をはおっただけの、あまりにも無防備な自分に内心歯噛みした。いくら万全な体調で、きちんと装備を整えたところで、この男に敵うわけではないのだけれど。
圧倒的な力の差。魔族と、人間の差。そんな事は分かっている。それでも、彼に媚びへつらう事など、選びたくはない。
「……ゼロスさん。今日は、何の用でしょう?」
静かに起き上がり、努めて冷静にそう返した私に目の前の魔族は小さく肩を竦めてみせた。
「冷たいですねえ。少しシルフィールさんの顔を見たいなあと思っただけですよ」
彼の軽口には、心が揺れる事など無い。そんな事は彼とて分かっているはずなのに、相変わらず、彼は甘ったるい言葉を操る。
「そしたら、まさか昼間から病に伏せっているとは思いませんでしたよ。お加減いかがです?」
にこにこと、あまりにわざとらしい言葉をかけられて、私は小さく嘆息した。
「……貴方のせいで余計に体調が悪くなった気がします」
「おや、それは残念です」
彼は小さく眉をひそめて、躊躇いなく私の額に手を伸ばした。
「!?」
さらりと前髪を掻き分けられて、手袋の上からでも分かる、その冷たい手が私の額に触れる。
「確かに、少し熱があるみたいですねえ。……人間というのは、難儀な生き物ですね」
「な、にを……」
予想外な彼の行動に、思わず声が上擦ってしまった。不覚にも、少し赤くなってしまったかもしれない。
そんな私に、彼は顔を思いきり近づけて、至近距離で唇の端を吊り上げた。
思わず、その唇に目を奪われる。
「貴女は、可愛らしい人ですね」
口説き文句のようなその台詞に、何も言い返すことは出来なかった。いつもの軽口とは、また違うトーンの言葉。
甘さなど、欠片も感じさせない冷めた声音。
「僕の事が嫌いなのに、優しくされると無下には出来ない。魔族にも言葉は通じるかもしれない、どこかでそう思っている。とても愚かで哀れです」
「……!」
「ほら。また、僕の言葉で貴女は簡単に傷つく。僕の言葉など無視してしまえば良いものを。……とても美味しいですよ、その負の感情。貴女は確かに愚かで哀れだが、だからこそ愛しい」
そう言って、魔族はにこりと微笑んだ。
背筋がぞくりと震える。その「愛しい」という言葉が表すものは、人と人の間にある感情と同じものなのか、それとも『獲物』に対するそれなのか。
「帰ってください」
震える声で、言葉に出来たのはそれだけだった。
「ええ、そうしましょう」
特に何の感情も見せずに、彼はそう言った。
私の額から手を離した彼は、その手で私の髪を弄ぶ。体調を崩したせいで一昨日から清めていない髪は、普段よりも指通りが悪いのだろう。不満そうな顔で手を離して、彼は私から背を向けた。
「……やっぱり、元気な貴女の方が面白いですね」
「ゼロス、さん」
「弱っている貴女では、いじめ甲斐がありませんから」
最後まで魔族らしい台詞を吐きながら、彼はその場から消えた。
「もう、来なくて良いです」
溜め息をついて、私はまたベッドに身体を横たえた。もう、会いたくなんかない。その言葉に嘘は無い。
そのはずなのに。
彼が再び現れることを、心のどこかで期待してしまっている自分が居ることに、私は頭が痛くなった。