ぷらいべったーより再掲。
三つのお題で小話、ということで。お題は「雨上がり」「待ちあわせ」「落し物」
ガウリナ、ゼルアメ前提の二人です。
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くああ。
小さく声をあげて、アメリアが手で口元を隠した。それでも隠しきれていない、大きな欠伸。隣に座るオレは、そんな彼女をまじまじと見つめる。
「アメリア、眠いのか?」
「ふぁい。ちょっと昨日夜更かししちゃって……」
ちろりと舌を出して、恥ずかしそうに笑ったアメリアは確かに少し眠そうに見えた。きちんとした生活習慣のアメリアにしては、夜更かしというのは珍しい。
「宿題でもやってたのか?」
「いえ、最近推理小説にハマってるんです」
「小説?」
「ゼルガディスさんにオススメして貰って……。凄く面白いんですよこれが!」
ひどく嬉しそうにそう言うアメリアに、オレは笑って頷いた。夜更かしの理由にすとんと納得がいったのだ。
眠い目をこすりつつ、ゼルの好きな本を頑張って読む昨夜のアメリアの姿が想像出来て、なんだか微笑ましい。
「――それにしても、リナさん達遅いですよねー」
話題を変えるように、アメリアはそう呟いた。彼女の視線がオレから窓の外へと移動する。しとしとと降り続ける雨は、止みそうでまだ止まない。窓にぶつかる滴が滴り落ちるのを眺める。
オレとアメリアは、二人してリナとゼルガディスの生徒会二人組を待っていた。他に誰もいない教室で、二人の荷物の番をしながら。
「……そうだなあ。会議って、いつも何話してるんだろうな?」
「そうですねえ。もうすぐ文化祭ですから、それについて、とか?」
生徒会の事なんて二人して全然良く分からないので、それきり会話はストップする。それでも、別に空気は重くならなかった。
オレにとっては、アメリアはなんだか妹みたいな存在だ。――歳は同じだけど。
リナと友達で、ゼルと仲が良くて。そんなアメリアと、それなりに親しくなるのは自然な流れだった。
「……」
「……」
「……それで」
個人的には心地の良かった沈黙を、破ったのはアメリアで。
「ガウリイさんは、リナさんとどうやって知りあったんです?」
「……唐突だなあ」
「だって、気になったんですもん」
えへへ、と口に出して言いながらアメリアは悪戯っぽい目でオレを見上げる。
その目に浮かぶ好奇心。
「二人は幼馴染じゃないんでしょう? クラスも違うし。なのに、『保護者』だなんて言われたら、ね?」
彼氏彼女でもなく、そんな関係になったのはいつからなのか。どんなきっかけなのか、知りたい。アメリアはそう言って目をきらきらさせた。
オレはその目に弱かったりする。
「良いじゃないですか、教えてくれたって」
他の誰にも言いませんから。ね?
いつになく食い下がるアメリアに、オレは思わず苦笑した。
「……うーん、オレ自身いつから『保護者』なんて言いだしたのか、覚えてないんだがなあ」
――嘘だけど。……だって、なんだか気恥ずかしいじゃないか。
「ええー?」
疑わしげな目で睨まれて、オレは肩を竦めてみせた。
「でも、知り合ったきっかけなら、覚えてるぞ」
……あの日も、確かこんな雨の日だった。いや、雨は既に上がっていたかもしれない。脳裏に浮かぶ西日を反射する水溜り。そうだ、やっぱり雨上がりの午後だった。
「リナの、落し物拾ったんだ」
「落し物?」
「ああ。くらげのキーホルダーが付いてた、自転車の鍵だよ」
「……ああ! わたし、それ見た事あります。ゆるキャラみたいなくらげで、凄く可愛いの」
リナが普段通学に使っている、自転車の鍵。学校の廊下に落ちていたそれを、オレは拾った。名前も書いていなかったそれを、だけど失くした人は困っているだろうと思って。
事務室にでも持っていこうと歩き出した所で、あいつが焦った顔でやってきた。
「『隣のクラスのインバース』って、色々有名だろ? 科学の先生論破して泣かせたとか、他校の不良締めたとか。顔は知らなかったから、一体どんな女子かと思ってたんだけど」
――まさか、あんな可愛らしいキーホルダーを鍵に使うような女子だったなんて。そして、それをオレに見られて顔を赤くして恥ずかしがるような、中学生みたいに小さい女の子だったなんて。
「まあ、なんか意外でびっくりしたよなあ」
それはとても意外で。なんだか凄く印象的で。だから、オレはリナの事をもっと知りたくなった。それからは見かける度に声を掛けるようになって……――。
「へええ、そんな出会いだったんですね……」
「まあ、ありがちだろ?」
「そうですかー?」
ロマンチックで素敵ですよ、なんて。乙女チックな事を口にするアメリアは、本当にそう思っているんだろうか。相槌がカルいと思うのはオレだけか。
「……じゃあ、今度はそっちの番な」
そんなわけで、ちょっとだけ意地悪な事を思い付いた。
「え?」
「ゼルの事好きになったの、いつなんだ?」
さらり、となるべくさりげなく聞いてみたのだが。
「…………え、え、ええええ!?」
どうやら効果はばつぐんだった。
「え、ちょっ……ガウリイさん!? いつからそれを…!?」
慌てたようにオレの肩を掴んで揺さぶって来るアメリアの、目を回しそうな程くるくる変わる表情が面白くて、思わず吹き出した。
「ちょっとーガウリイさんってば…!」
何笑ってるんですか! と憤るアメリアの顔は真っ赤だ。
「だって、なあ…?」
むしろ、なんで気付かれていないと思っていたのだろうか。気付いていないのは、きっとゼルだけだろうと思うのだけれど。
「だってってなんですか……あ」
ふと、オレの肩をがっちり掴んだまま、アメリアが廊下の方を向いて固まった。
「ん?」
その体勢のまま、オレも視線をそちらへと向ける。
「……あー」
――これは。言い訳が面倒臭そうだなあ。
「ちょっとアンタたち、一体何してんのよ!?」
そこには、少しだけ顔を赤くしてオレ達を指差すリナと。呆れたように額に手をあてるゼルガディスその人が、立っていたのだった。
おしまい。
三つのお題で小話、ということで。お題は「雨上がり」「待ちあわせ」「落し物」
ガウリナ、ゼルアメ前提の二人です。
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くああ。
小さく声をあげて、アメリアが手で口元を隠した。それでも隠しきれていない、大きな欠伸。隣に座るオレは、そんな彼女をまじまじと見つめる。
「アメリア、眠いのか?」
「ふぁい。ちょっと昨日夜更かししちゃって……」
ちろりと舌を出して、恥ずかしそうに笑ったアメリアは確かに少し眠そうに見えた。きちんとした生活習慣のアメリアにしては、夜更かしというのは珍しい。
「宿題でもやってたのか?」
「いえ、最近推理小説にハマってるんです」
「小説?」
「ゼルガディスさんにオススメして貰って……。凄く面白いんですよこれが!」
ひどく嬉しそうにそう言うアメリアに、オレは笑って頷いた。夜更かしの理由にすとんと納得がいったのだ。
眠い目をこすりつつ、ゼルの好きな本を頑張って読む昨夜のアメリアの姿が想像出来て、なんだか微笑ましい。
「――それにしても、リナさん達遅いですよねー」
話題を変えるように、アメリアはそう呟いた。彼女の視線がオレから窓の外へと移動する。しとしとと降り続ける雨は、止みそうでまだ止まない。窓にぶつかる滴が滴り落ちるのを眺める。
オレとアメリアは、二人してリナとゼルガディスの生徒会二人組を待っていた。他に誰もいない教室で、二人の荷物の番をしながら。
「……そうだなあ。会議って、いつも何話してるんだろうな?」
「そうですねえ。もうすぐ文化祭ですから、それについて、とか?」
生徒会の事なんて二人して全然良く分からないので、それきり会話はストップする。それでも、別に空気は重くならなかった。
オレにとっては、アメリアはなんだか妹みたいな存在だ。――歳は同じだけど。
リナと友達で、ゼルと仲が良くて。そんなアメリアと、それなりに親しくなるのは自然な流れだった。
「……」
「……」
「……それで」
個人的には心地の良かった沈黙を、破ったのはアメリアで。
「ガウリイさんは、リナさんとどうやって知りあったんです?」
「……唐突だなあ」
「だって、気になったんですもん」
えへへ、と口に出して言いながらアメリアは悪戯っぽい目でオレを見上げる。
その目に浮かぶ好奇心。
「二人は幼馴染じゃないんでしょう? クラスも違うし。なのに、『保護者』だなんて言われたら、ね?」
彼氏彼女でもなく、そんな関係になったのはいつからなのか。どんなきっかけなのか、知りたい。アメリアはそう言って目をきらきらさせた。
オレはその目に弱かったりする。
「良いじゃないですか、教えてくれたって」
他の誰にも言いませんから。ね?
いつになく食い下がるアメリアに、オレは思わず苦笑した。
「……うーん、オレ自身いつから『保護者』なんて言いだしたのか、覚えてないんだがなあ」
――嘘だけど。……だって、なんだか気恥ずかしいじゃないか。
「ええー?」
疑わしげな目で睨まれて、オレは肩を竦めてみせた。
「でも、知り合ったきっかけなら、覚えてるぞ」
……あの日も、確かこんな雨の日だった。いや、雨は既に上がっていたかもしれない。脳裏に浮かぶ西日を反射する水溜り。そうだ、やっぱり雨上がりの午後だった。
「リナの、落し物拾ったんだ」
「落し物?」
「ああ。くらげのキーホルダーが付いてた、自転車の鍵だよ」
「……ああ! わたし、それ見た事あります。ゆるキャラみたいなくらげで、凄く可愛いの」
リナが普段通学に使っている、自転車の鍵。学校の廊下に落ちていたそれを、オレは拾った。名前も書いていなかったそれを、だけど失くした人は困っているだろうと思って。
事務室にでも持っていこうと歩き出した所で、あいつが焦った顔でやってきた。
「『隣のクラスのインバース』って、色々有名だろ? 科学の先生論破して泣かせたとか、他校の不良締めたとか。顔は知らなかったから、一体どんな女子かと思ってたんだけど」
――まさか、あんな可愛らしいキーホルダーを鍵に使うような女子だったなんて。そして、それをオレに見られて顔を赤くして恥ずかしがるような、中学生みたいに小さい女の子だったなんて。
「まあ、なんか意外でびっくりしたよなあ」
それはとても意外で。なんだか凄く印象的で。だから、オレはリナの事をもっと知りたくなった。それからは見かける度に声を掛けるようになって……――。
「へええ、そんな出会いだったんですね……」
「まあ、ありがちだろ?」
「そうですかー?」
ロマンチックで素敵ですよ、なんて。乙女チックな事を口にするアメリアは、本当にそう思っているんだろうか。相槌がカルいと思うのはオレだけか。
「……じゃあ、今度はそっちの番な」
そんなわけで、ちょっとだけ意地悪な事を思い付いた。
「え?」
「ゼルの事好きになったの、いつなんだ?」
さらり、となるべくさりげなく聞いてみたのだが。
「…………え、え、ええええ!?」
どうやら効果はばつぐんだった。
「え、ちょっ……ガウリイさん!? いつからそれを…!?」
慌てたようにオレの肩を掴んで揺さぶって来るアメリアの、目を回しそうな程くるくる変わる表情が面白くて、思わず吹き出した。
「ちょっとーガウリイさんってば…!」
何笑ってるんですか! と憤るアメリアの顔は真っ赤だ。
「だって、なあ…?」
むしろ、なんで気付かれていないと思っていたのだろうか。気付いていないのは、きっとゼルだけだろうと思うのだけれど。
「だってってなんですか……あ」
ふと、オレの肩をがっちり掴んだまま、アメリアが廊下の方を向いて固まった。
「ん?」
その体勢のまま、オレも視線をそちらへと向ける。
「……あー」
――これは。言い訳が面倒臭そうだなあ。
「ちょっとアンタたち、一体何してんのよ!?」
そこには、少しだけ顔を赤くしてオレ達を指差すリナと。呆れたように額に手をあてるゼルガディスその人が、立っていたのだった。
おしまい。